レオロジーとは?粘弾性・非ニュートン流体の基礎から測定方法までやさしく解説

「レオロジー」は、物質が外力を受けたときに示す「流れ」や「変形」の現象を体系的に理解するための学問です。固体と液体の両方の性質をもつ素材は世の中に数多く存在しますが、それらの挙動を解析するためにレオロジーが広く活用されています。食品、化粧品、医薬品、樹脂、塗料、接着剤など、私たちの身の回りの製品にはレオロジー特性が深く関係しており、製品の開発・品質管理・加工プロセスの最適化に不可欠な知識になっています。
本記事では、レオロジーの入門として、重要な用語と基本概念、測定手法、実際の産業応用例までを体系的に解説します。これからレオロジーの勉強を始めたい技術者の方にも理解しやすいよう、基礎から順を追って説明していきます。
目次
1.レオロジーとは|流動と変形の学問
「レオロジー(Rheology)」という言葉は、ギリシャ語の「rheo(流れる)」と「logos(学問)」を組み合わせた造語です。つまりレオロジーとは、物質がどのように流れ、どのように変形するかを扱う学問です。
一般的に、物質は「固体」と「液体」にきれいに分類できると考えられています。しかし実際の素材は、その中間の性質を示すことが多く、例えばゼリー、クリーム、クリアファイルの樹脂、アスファルト、食品の生地などは明確な固体とも液体とも言えません。これらの中間的な性質を正しく理解するために、レオロジーが用いられます。
レオロジーの基本は、外力に対する物質の応答を、粘性(流れにくさ)と弾性(元に戻ろうとする性質)の2つを軸に評価することです。多くの実材料は、この粘性と弾性の両方を併せ持ちます。このような性質は総称して「粘弾性」と呼ばれます。
2.レオロジー特性の基本|粘性・弾性・粘弾性の違い
レオロジーを理解するうえで欠かせないのが、物質が外力を受けた際に示す「粘性」「弾性」「粘弾性」という三つの基本的な性質です。これらは材料がどのように流れ、どのように変形し、また元の状態に戻ろうとするかを示す重要な指標であり、レオロジー特性を考える際の出発点になります。
多くの実材料は単に液体のように“流れる”だけでも、固体のように“戻る”だけでもありません。粘性による流動性と、弾性による形状回復性が組み合わさった複雑な挙動を示します。そのため、これら三つの性質を正確に理解することが、レオロジーの基礎として非常に重要になります。
以下では、それぞれの性質がどのようなものかを詳しく見ていきます。
(1)粘性(Viscosity)
粘性とは、物質が流動する際の抵抗の大きさです。水のようにさらさらと流れる液体は粘性が低く、グリセリンのようにゆっくり流れる液体は粘性が高いと表現します。ニュートンの粘性法則ではせん断応力(流体を変形させようとする力、「ずり応力」とも呼ばれる)と、せん断速度(変形の速さ、「ずり速度」とも呼ばれる)が比例するとされ、その比例定数を「粘度」と定義します(式1)。この関係を満たす流体を「ニュートン流体」と言います。
τ=η・(du/dy) (式1)
τ:せん断応力
η:粘度
du/dy:速度勾配(せん断速度)
一方、せん断応力とせん断速度が比例しない流体も存在します。そのような流体を「非ニュートン流体」と言います。
たとえば、ケチャップは弱い力では流れにくい一方で、強い力を加えると流れやすくなります(図1)。
このように流動の条件によって粘性が変わる素材は多く、レオロジーではその挙動を定量的に扱います。

【図1 ケチャップの粘性】
[※関連記事:初心者必見!流体の性質(密度/粘性/圧縮性)の基本がわかる ]
(2)弾性(Elasticity)
弾性とは、変形した物質が元の形に戻ろうとする性質です。弾性に関係した最も基本的な数式はフックの法則で、変形の度合い(ひずみ)は加えた力(応力)に比例することを式2のように表します。
σ=E・ε (式2)
σ:応力
E:弾性係数(ヤング率)
ε:ひずみ(変形率)
ゴム、バネ、スポンジなどは弾性が大きい典型例です(図2)。固体特有の性質に思えますが、食品の生地や化粧品のゲル状素材など、液体に分類される物質でも弾性挙動を示すことがあります。

【図2 スポンジが示す弾性】
(3)粘弾性(Viscoelasticity)
多くの産業素材は、粘性と弾性の両方を示します。粘性と弾性が組み合わさった性質は粘弾性と呼ばれ、その大きさやバランスは材料の加工性や使用感に直接影響します。
たとえば、
- パン生地のこねやすさ
- 化粧品クリームの塗り広げやすさ
- 樹脂の押出加工での形状維持
- 塗料のたれにくさ
これらはすべて粘弾性特性に深く関係しています。
粘性と弾性の関係を示すモデルは幾つかありますが、例えばMaxwellモデルでは式3の数式で表します。
(dε/dt)=(1/E)・(dσ/dt)+σ/η (式3)
ε:ひずみ(変形率)
E:弾性係数(ヤング率)
σ:応力
η:粘度
この式から、一定のひずみを与えると応力が時間とともに減少すること(応力緩和)を示すことができます。
3.レオロジー測定の基礎|どのように特性を測るのか
レオロジーを理解するには、測定方法についての理解を深めることが重要です。
(1)定常せん断測定(Steady Shear Measurement, SSM)
せん断変形とは、層状に並んだ物質の上面を横方向にずらしたときに生じる変形のことです。定常せん断測定では、平行板やコーンプレートで試料をはさみ、一定方向に回転させてせん断変形を与え、そのトルク(物体を回転させる力の大きさ)を測定することで粘度や(静的)粘弾性を評価できます(図3)。

【図3 定常せん断測定の例】
回転粘度計も定常せん断測定の一種です。液体など流動性のある物質中でスピンドルや円筒を一定の回転速度で回し、そのときに必要なトルクから粘度を求めます(図4)。

【図4 回転粘度計による粘度測定】
(2)動的粘弾性測定(Dynamic Mechanical Analysis, DMA)
材料に周期的な変形(振動)を与え、その応答から(動的)粘弾性についての特性を解析する方法です(図5)。試料に正弦波状のひずみ(γ(t)=γ0 sinωt)を与えた時、応力が同位相なら弾性体、応力の位相がπ/2ずれるなら粘性体であることがわかります。

【図5 動的粘弾性測定の例】
その中間的な応答であれば粘弾性体です。応力とひずみの比を複素数として表したものを複素弾性率と言い、その式を展開すると式4のようになります。
G*(複素弾性率) = G’(貯蔵弾性率) + iG”(損失弾性率) (式4)
ここで、貯蔵弾性率は弾性成分、損失弾性率は粘性成分に相当します。応力の位相差をδとした時、G‘とG“には式5のような関係があります。
tanδ=G”/G’ (式5)
それを用いて、動的粘弾性測定の結果から粘弾性を示す物質が持つ粘性と弾性の比率を知ることができます(図6)。

【図6 正弦波ひずみを与えた時の応答】
ひずみの与え方は回転によるものだけではありません。引張・圧縮などによっても与えることができます。高機能な流動・変形特性を測定する装置をレオメーターと言います。
(3)その他の測定
一定の応力をかけて変形の時間変化を測定するクリープ試験、一定の変形を与え続け、応力が時間と共に減衰する様子を測定する応力緩和試験、材料がどの応力で流れ始めるかを判定する降伏応力測定など、レオロジーに関係した様々な評価方法があります。
4.レオロジーで理解できる現象と挙動
レオロジー測定を行うことで、日常的に観察される様々な現象や材料の挙動を科学的に説明することができます。ここでは代表的なレオロジー現象を紹介します。
- シアシニング(Shear Thinning、せん断薄化):
せん断速度が速くなるほど粘度が低下する現象です。「擬塑性流動」とも呼ばれます。ケチャップ、塗料、インク、乳化素材など、多くの製品がこの挙動を示します。加工しやすさや塗り広げやすさに関わる重要な特性です。 - シアシックニング(Shear Thickening、せん断肥厚):
シアシニングとは逆に、せん断速度が上がると粘度が増加する現象です。「ダイラタント流動」とも呼ばれます。デンプン水溶液や一部の懸濁液で観察され、衝撃や振動に対して硬くなる流体として利用される場合もあります。 - 粘弾性によるへたり(クリープ挙動):
粘弾性材料は、荷重を受けた状態を保持すると時間の経過とともにゆっくりと変形していきます。これが樹脂材料などで重要となる「クリープ挙動」であり、長期間の使用でどの程度形状が保てるかを評価する上で不可欠な指標です。 - 応力緩和:
一定の変形を与えた状態を維持すると、材料内部の応力が時間とともに減少していく現象です。ゴム材料やゲル状素材の弾性回復性の評価に用いられるほか、食品の咀嚼時の感触解析にも利用されます。
5.レオロジーが重要視される理由
レオロジーは単なる学問にとどまらず、産業界で実務的に非常に重要な役割を果たしています。
- 製品の品質と使用感に直結:
例えば化粧品では、クリームが硬すぎると塗りにくく、柔らかすぎると垂れ落ちてしまいます。そのバランスを最適化するのがレオロジー特性の調整です。 - 加工プロセスの効率化:
樹脂押出成形や塗工プロセスでは、材料の流動性が生産性に直結します。不適切な粘弾性は、ダイの詰まり、糸ひき、塗膜不良などのトラブルを引き起こします。 - 保存安定性の評価:
乳化・分散系製品は粘弾性が安定性と密接に関連しています。レオロジーを適切に管理することで、製品の長期安定性を予測することができます。
6.入門者がまず理解すべきレオロジーの基本
レオロジーの入門として最低限押さえておきたいポイントは次のとおりです。
- レオロジーとは流動と変形を扱う学問である
- 材料は一般に粘性と弾性の両方を持ち、粘弾性として振る舞う
- 定常せん断測定やDMAなど様々な測定手法がある
- レオロジー特性は加工性、用途、保存性、使用感に大きく影響する
- 産業用途でレオロジーは必須の評価技術である
これらを理解することで、材料設計・評価・生産管理にレオロジーを活用する第一歩が踏み出せます。
おわりに
レオロジーの理解は、単なる物性評価にとどまらず、製品開発そのものを効率化させる強力なツールになります。粘性と弾性のバランスを理解することで、より使いやすく、より品質の高い製品設計が可能になります。また、製造トラブルの原因解明や、品質管理の指標としても非常に有用です。
レオロジーは難しい学問に見えるかもしれませんが、基本概念と測定手法を理解すれば、実務で活かせる知識として大きな価値を持つようになります。本記事がレオロジーの入門として、皆様の理解を深める一助となれば幸いです。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 K・T)






































