結晶性高分子における力学物性と高次構造の関係
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皆さんは「準結晶」という用語になじみがありますか。
準結晶とはどんな状態であり、どんな特性を示すのでしょうか。
「準結晶」は固体の状態の一つであり、比較的新しい概念です。
従来固体と言えば、結晶か非結晶(アモルファス)のどちらかに分類されていました。
しかし、1984年にイスラエルのダニエル・シュヒトマン(Daniel Shechtman)氏が、アルミニウムとマンガンの特定組性の合金に関して、準結晶の存在を提唱しました。同氏の提唱は当初は学会で受け入れられなかったものの、その後、多種類の合金において準結晶の存在を証明するデータが報告され、現在に至っています。シュヒトマン氏はこの業績により2011年のノーベル化学賞を受賞しています1)。
では、準結晶とはどんな状態なのでしょうか?
結晶と何が異なるのでしょうか?
表1は結晶・準結晶・アモルファスにおける原子配列の秩序状態を比較したものです2)。
【表1 原子配列の秩序状態2)】
結晶も準結晶も長距離秩序(原子の間隔に比べて十分長い距離にわたって秩序を持つ)があるという点では共通しています。しかし、回転対称性と周期構造に差があります。
回転対称性において、n回対称というのは360°をnで割った角度の回転で元と重なることを意味します。結晶が2回、3回、4回、6回のいずれかの回転対称性を示し、これにより周期構造を持つのに対して、準結晶は5回または10回の回転対称性を示し周期構造は持ちません。
即ち、「準結晶」とは長距離秩序は有するものの周期構造を持たない固体です。
準結晶物質の大部分は準結晶合金です。
表2はこれまでに報告されている主要な準結晶合金を相ごとに分類したものです3)。
各相において多種類のものが既に確認されていることが分かります。
【表2 主要な準結晶合金3)】
準結晶の発見が科学的に重要なものであることは間違いありません。一方、物性面ではどんな特徴があるのでしょうか。
図1は、準結晶として代表的なAl系を選択し、結晶・準結晶・アモルファス間で電気伝導率を比較したものです4)。Al-Cu-Fe準結晶では、成分金属のそれぞれの結晶よりもはるかに低いだけではなく、同じ組成のアモルファスよりも小さいことが分かります。
また、温度依存性では、高温で電気伝導率が上昇し、半導体的な挙動を示しています。このように準結晶は特異な電気伝導性を有しています。
【図1 結晶・準結晶・半導体の電気伝導率の比較4)】
表3は準結晶の熱伝導率を金属酸化物や金属結晶と比較したものです5)。
正12面体相の準結晶であるAl-Feは、ZrO2をも下回る非常に低い熱伝導率を示します。この点でも特異的です。
【表3 熱伝導率の比較5)】
更に準結晶は、機械物性、磁性、水素吸蔵性にも特徴がある他、摩擦係数が非常に低い材料だと報告されています6)。
準結晶の確固たる用途はまだ見出されていませんが、その特異性が注目されています。
今後の研究開発の進展が期待されます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》