【早わかりポンプ】ドライ運転の防止(原因/対策)とポンプの熱力学的側面
真空ポンプなど特殊なものを除き、ポンプは基本的に内部が液体で満たされた状態で運転することを想定して作られる回転機械ですので、ガスや空気の混入を嫌います。
ポンプ内部にガスや空気が混入した状態で運転(ドライ運転)すると、狭いすき間を持つ摺動部分が焼き付き、かじり付きを起こして、重大な損傷につながります。
ポンプに関する連載ではこれまでにもドライ運転の危険性について、いくつかのコラムで触れてきました。
今回は、ドライ運転の原因とこれを防止するための方策について、これまでの連載コラムも参照したうえで、ポンプ揚液の熱流体としての取り扱い面も含めてまとめてみました。
目次
1.ポンプ内部のガスはどこから来るのか
(1)外部からの空気吸込み
液面よりも高い位置に据え付けられて液を吸上げるポンプや、火力・原子力発電所で使用される復水ポンプなどは、吸込み圧力が大気圧より低い真空状態にあります。配管フランジに使用するガスケットやパッキンのすき間から空気を吸い込むことがあります。
軸封がグランドパッキンの場合は、外部から空気を吸い込むのを防止するため、パッキン途中に大気圧より高い圧力水を注入します。
(2)吸込み系統からの空気の巻きこみ
① 吸込み配管のエアだまり
「ポンプの始動準備における重要ポイント」の記載のような運転前のポンプ自体の空気抜き(水張り)は実施してあったとしても、吸込み配管系統にガスが多く残留した状態である場合には、運転時に配管内のガスがポンプ内部に巻き込まれることになります。
② 空気吸込み渦
立軸ポンプでポンプ吸込み槽の液面高さが低下すると、水面から空気を巻き込み渦が発生し、発達することがあります。これを「空気吸込み渦」といいます。
ポンプに吸い込まれて性能低下、キャビテーション発生、騒音、振動、軸受の摩耗、羽根車の損傷などの不具合を起こすことがあります。
(3)ポンプ内部におけるガスの発生
① 溶存ガスの気泡化
ポンプ溶液が、飽和状態まで酸素(O2)が溶存した水である場合、ポンプ入口で圧力が低下することによって、溶存していた酸素が気泡化して膨張し、ポンプ入口部を閉塞したような状態になることがあります。
これは、吸込み圧力が低下して水(H2O)の飽和蒸気圧力以下となって水が気泡化するキャビテーションとは別の事象として考える必要があります。
② ポンプ揚液のガス化
炭化水素や液化ガスなどを扱うポンプは、吸込み圧力が液の飽和蒸気圧力に、ほぼ等しくなっている場合が多く、配管表面への日射などによるわずかな入熱であっても、揚液が部分的にガス化することがあります。
横軸に物質の比エンタルピ h[kJ/kg]、縦軸に圧力[MPa]をとった線図を、「Ph線図」または「モリエル線図」といいます。
図1に模式的に示すように、圧力が同一の場合、入熱によりポンプ揚液の比エンタルピがh1からh2へ上昇すると、液相から気液相に入り部分的にガス化します。
入熱量がh3-h1に相当する量であれば、入熱量は液体kgあたりの蒸発潜熱に相当するため、液は全量がガス化して気相に入ります。
ポンプを締切運転すると、ポンプ軸動力がすべて損失エネルギーとして液に与えられますから、容易に全量がガス化する可能性があります。
【図1 モリエル線図と揚液のガス化】
③ キャビテーションの発生
キャビテーション事象とその害についての詳細は、別コラム「キャビテーションとは?発生原理やNPSHなどの基礎知識をやさしく解説」をご参照ください。キャビテーション発生状態での運転は、ドライ運転による事故にもむすびつきやすくなります。
2.ドライ運転の防止
(1)トップベントの設置
吸込み配管にはガス溜りとなり箇所ができないように工夫し、他の配管や構造物との関係上ガス溜りができる形状とすることが避けられない場合は、図2のように頂部にベント配管(ガス抜き)を設置して、ポンプ運転前に確実に吸込み配管内のガス抜きを実施します。
【図2 構造物や他配管をまたぐ吸込配管のガス抜き】
(2)エコライジングラインの設置
炭化水素や液化ガスを扱う立軸ポンプでは、常時ガス抜きを実施することのできるエコライジングライン(ガスベント配管)を設置します。
ガスは液との比重差による浮力によってのみ排出されるので、図3のように配管は吸込み貯槽に向かって連続上り勾配となるようにしてガスの排出を促進するとともに、貯槽頂部の気相に戻すようにします。
【図3 液化ガス等を扱う立軸ポンプのガス抜き】
(3)配管の保温
わずかな入熱でもガス化し易い低温液化ガスなどを扱う配管は、断熱材による配管表面の保温を施工して、配管内外の温度差によるポンプ内部への入熱が最小となるようにします。
(4)スラストバランス配管の戻し先
ポンプ吸込み圧力がモリエル線図の飽和液線上にあるような場合、多段ポンプのバランス配管の戻し先に注意が必要です。
バランス配管の役割に関しては、コラム「ポンプのラジアルスラストと軸スラスト」の中の「多段ポンプの軸スラストバランス」をご参照ください。
図4のモリエル線図でポンプの吸込みにおける状態量を表す点①,吐出しにおける状態量を表す点②とします。
ポンプの軸動力をL[kW]、質量流量をM[kg/s]とすれば、吸込みから吐出しに至る間でポンプに与えられるエンタルピの増分⊿hは、⊿h=LM[kJ/kg] となります。
つまり、単位時間質量Mの流体に、圧力上昇(p2-p1)として与えられる分に加えて、ポンプ内部における損失分も含めたエンタルピが増分となってモリエル線図上で吐出し、点②における状態量は ⊿h の分だけ右に移動します。
【図4 モリエル線図と多段ポンプの状態量】
バランス配管は、上記参照コラム中に説明があるように、通常はバランス部品の下流をポンプ吸込み側に接続して戻します。
この間は断熱膨張するために等エンタルピ変化となって、モリエル線図上で②から垂直に吸込み圧力に相当する位置まで下した点③となります。
ポンプ吸込み圧力がモリエル線図の飽和液線上にある場合、図4のように点③は気液相に入って一部が気化します。気化により発生した気泡がポンプに吸い込まれて、摺動部でドライ運転による固体接触が起きる、また気泡によってバランス流れが閉塞してスラストバランスが崩れるなど、ポンプ運転に支障をきたします。
このため、バランス配管を吸込みではなく2段目などの中間段に戻すか、あるいは図5左側のようにオリフィスなどの絞りを設けて背圧を与え、ポンプ側では図4のモリエル線図で気液相に入らない圧力p1’を維持した点④の状態量となるようにして、オリフィス下流はポンプではなく吸込み貯槽に接続して戻すようにします。
オリフィスではなく背圧を調整できるようにバルブとすることもありますが、締切りにならないよう最小開度ストッパ付きとします。
バランス配管を貯槽に戻す場合、ポンプ納入後の配管取合い箇所となります。
いずれの場合も、バランス配管圧力が高くなり、スラストバランス部品に作用する差圧がポンプ全圧(吐き出し圧と吸込み圧の差)よりは小さくなりますので、バランス部品の設計に注意が必要となります。
【図5 吸込み圧力が飽和液線上にある多段ポンプのバランス配管】
(5)最低液面レベルの確保
吸込み槽式の立軸ポンプの場合、図6のように、空気吸込み渦を生じないための水面高さL1、ポンプの必要NPSHから決まる必要水面高さL2、ポンプ摺動部がドライ運転となってかじり付きを起こさないために必要な水面高さL3の3つがあります。
ポンプメーカーから提示される3つの必要水面高さのうち、最も大きな値以上となるように水面レベルを確保する必要があります。
【図6 吸込み槽式立軸ポンプの必要液面レベル】
(6)過熱防止ミニマムフローラインの設置
「締切運転はポンプの大敵」をご参照ください。
3.ドライ運転の原因と防止策を理解しておくことが重要
過去のコラムも参照した上でポンプドライ運転防止について解説しました。
ポンプ内部に外部から空気が混入したり、熱的な要因によりポンプ内部でポンプ揚液がガス化したりした結果ドライ運転が行われると、騒音や振動の他、摺動部分の焼き付きなど重大な損傷につながる場合があります。
取扱揚液やポンプ設置形態など、個々のポンプにドライ運転が発生する要因を理解した上で、ドライ運転防止のための適切な処置を講じることが重要です。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)