3分でわかる技術の超キホン 抗炎症薬のプロドラッグ
既に掲載したコラム「プロドラックとは」では、プロドラックの概要と基礎知識についてご説明しましたが、ここからは実際に医薬品として使用されている薬剤でプロドラッグのものをいくつかご紹介していきます。
今回は「抗炎症薬」のプロドラッグを集めてみました。
目次
1.インドメタシン誘導体
インドメタシン(Indometacin・活性体)は、非ステロイド性抗炎症薬として広く知られていますが、副作用として胃腸障害があり、これを軽減するためにプロドラッグが開発されています。
(1)アセメタシン(Acemetacin)
インドメタシンのグリコール酸エステルの化学構造を持ち、肝臓でインドメタシンに代謝されて効力を発揮します。経口投与ではインドメタシンとほぼ同等の抗炎症作用を示すとされています。
(2)インドメタシン ファルネシル(Indometacin Farnesil)
インドメタシン ファルネシルは、インドメタシンに脂溶性物質ファルネソールをキャリアとしてエステル結合させたものです。
アシル基が大きい事により、小腸で加水分解を受け難く、消化管障害を回避して、肝臓に移行して加水分解を受けるという副作用軽減のためのプロドラッグに適した構造となっています。
(3)プログルメタシンマレイン酸塩(Proglumetacin Maleate)
インドメタシンに抗潰瘍剤のプログルミドを結合させた薬剤であって、デスプログルミドインドメタシンを経て最終的にインドメタシンになります。
中間のデスプログルミドインドメタシンはリポキシゲナーゼ阻害作用によりロイコトリエン産生抑制作用を持つとされ、中間代謝物と最終代謝産物の両方によって作用していると考えられています。
また、プログルメタシンは局所親和性の高いプロドラッグといわれています。
いずれもインドメタシンのカルボン酸をエステル化しています。
2.フェンブフェン (Fenbufen)
活性体は、フェルビナク(Felbinac ・ビフェニル酢酸)です。
フェルビナクは、シクロオキシゲナーゼ (COX) を阻害し、変形性膝関節症、強直性脊椎炎、腱炎等による炎症の治療に用いられる非ステロイド性抗炎症薬です。
優れた鎮痛消炎作用を有し、かつ良好な経皮浸透性を有するとされています。
フェンブフェンは、最初にプロドラッグとして開発された医薬品とされています。
吸収されてから活性型になることで副作用を少なくしているとされています。
なお、フェンブフェンは国内販売が中止されています。
3.フルルビプロフェン アキセチル
(Flurbiprofen axetil/ロピオン)
活性体は、フルルビプロフェン(flurbiprofen)です。
フルルビプロフェンは、プロスタグランジン生合成阻害作用を持つ消炎鎮痛薬です。
血中消失半減期が比較的短く、ヒトではほとんど尿中排泄されてしまう等の特徴があることから、注射剤とすることで、即効性、胃腸管障害の軽減等といった利点を持つと考えられ、注射剤化が検討されました。
フルルビプロフェンをアキセチル化し、さらに脂肪微粒子に封入したリポ化製剤とすることで静脈内投与が可能なフルルビプロフェン アキセチル製剤になったとされています。
4.サラゾスルファピリジン
(Salazosulfapyridine/サラゾピリン)
サラゾスルファピリジン(Salazosulfapyridine)は、抗炎症作用を有するメサラジン(Mesalazine・5-アミノサリチル酸)と抗菌作用を有するスルファピリジンを結合、組織への親和性を高める目的でアゾ結合させた化合物です。
大腸のアゾ還元酵素によって加水分解されて吸収されるという、大腸に存在する腸内細菌の特異的な酵素活性を利用して、大腸デリバリーを目指したプロドラッグです。
なお、当初は通常の錠剤でしたが、投与により多く発現する消化器系症状の副作用を軽減する目的で腸溶性製剤が開発されています。
プロントジル (Prontosil)
上記サラゾスルファピリジンと類似の構造を持つものとして、合成抗菌薬のプロントジル(Prontosil)があげられます。
プロントジルは、体内でスルファニルアミド(p-アミノベンゼンスルホンアミド・Sulfanilamide)に代謝され、抗菌効果が発揮されます。
プロドラッグであることが後になって発見されたプロドラッグです。
5.アンピロキシカム (Ampiroxicam/フルカム)
活性体は、ピロキシカム(Piroxicam)です。
ピロキシカムは、シクロオキシゲナーゼ阻害作用(プロスタグランジン生合成阻害作用)により強力な鎮痛・抗炎症作用を示すオキシカム系の酸性非ステロイド性鎮痛抗炎症剤です。
ピロキシカムをそのまま経口で服用すると、胃腸障害を生じやすいという問題があったことから、吸収された後に活性体となるピロキシカムのプロドラッグが検討されました。
アンピロキシカムは、ピロキシカムの水酸基をアルコキシカルボニルオキシ化することにより、胃内を通過、小腸で体内に吸収される際にエステラーゼで加水分解され、ピロキシカムになるプロドラッグです。
6.ロキソプロフェン (Loxoprofen/ロキソニン)
活性代謝物のトランスOH体(M-2)が酸性非ステロイド性抗炎症薬としての作用を示すとされています。
プロドラッグとすることによって、胃腸障害が少なく、作用が長時間であるという利点があります。
7.ナブメトン (Nabumetone/レリフェン)
ナブメトンは経口投与後速やかに吸収され、肝臓で速やかに活性代謝物である6-メトキシ-2-ナフチル酢酸(6MNA)に変換されて薬効を示すプロドラッグです。
6MNA のヒトにおける血中消失半減期は約 21 時間と持続的であるため、 1日1回の投与が可能とされています。
8.レフルノミド(Leflunomide/アラバ)
レフルノミドは、関節リウマチに使用されています。
レフルノミドは、経口投与により速やかに吸収され、投与量の約84%が活性代謝物A771726に代謝されます。
A771726は、de novo ピリミジン生合成に関与する酵素ジヒドロオロテートデヒドロゲナーゼ(DHODH)を標的分子とし、同酵素活性を阻害することで活性化リンパ球の増殖が抑制され、免疫を抑制できると考えられています。
A771726は消失半減期が約2週間と長い特徴があります。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
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