3分でわかる技術の超キホン 光ファイバ通信の受光素子(PD)の条件 [受光感度/暗電流/応答速度/材料] と量子効率
目次
1.光通信用の受光素子(フォトダイオード)に求められる条件
光通信向けの光検出器としては、主にフォトダイオード(PD)が用いられます。
フォトダイオードは、その種類により特性が異なるため用途に応じて使い分けされています。
光通信用フォトダイオードに求められる条件は、以下の通りです。
- (1) 受光感度が高いこと
- (2) 過剰雑音が小さいこと(暗電流)
- (3) 応答時間が速いこと
- (4) 材料が所望の波長に対応するバンドギャップをもつ半導体であること
これらの条件を満たし、よく使われているのが、PINフォトダイオードとアバランシェフォトダイオードになります。
[※PINフォトダイオードとアバランシェフォトダイオードの解説はこちらをご参照ください。]
(1)受光感度が高いこと
「受光感度」とは、入射光量に対する光電流の比率です。
受光素子に光が当たると光電流が流れ、光の強さに応じて電流の大きさも変わります。
フォトダイオードは、光を吸収してキャリアを発生させることから、光をよく吸収するほど受光感度が高くなります。
すなわち、受光感度が高いということは、弱い光でも効率よく電流が流れるということです。
キャリアを多く発生させるという点では電界を大きくすることで受光感度を高めることは可能です。
(2)過剰雑音が小さいこと(暗電流)
「暗電流」とは、受光素子に光が照射していない時に流れる電流です。
すなわち、pn接合に逆方向バイアスをかけたときにわずかに流れる電流です。
受光素子にとって、暗電流はノイズの要因となります。特にフォトダイオードの検出限界は、暗電流などのノイズ特性で決まるので、ノイズを可能な限り減らす必要があります。
暗電流の原因としては、拡散電流と表面リーク電流が支配的です。
「拡散電流」は、周囲温度の上昇に比例して増加します。そのため、拡散電流を減らすために受光素子を冷却し、キャリアを減らす対策が施されます。しかし、理論上拡散電流が流れないようにすることはできませんので、微弱光に対する検出限界は拡散電流で決まります。
「表面リーク電流」は、暗電流の主要な原因ですが、チャンネルストッパーやガードリンクを設けるなどの構造的な対策で低減することができます。
暗電流は、逆方向バイアスに比例して増加するため、高圧の電源を使用しないことも有効です。
受光感度を高めるために高電圧をかけるとノイズも増加してしまう点には、注意が必要です。
(3)応答時間が速いこと
ここでの「応答時間」とは、受光素子で生成したキャリアをどれだけ速く外部回路へ電流として取り出せるかを示す値をいいます。応答時間は、出力信号が10%から90%に達する時間として表されることが多く、「応答速度」と呼ばれることもあります。
具体的には、受光素子に光が照射されてから光電流が流れるまでの時間、光の強さが変化(オンオフ)した際に出力電圧がオンオフするまでの時間になります。
光通信においては、高速でオンオフする光信号が伝送されます。そのため、受光素子は光信号に従って正確に出力電圧をオンオフする必要があり、応答時間の速い受光素子が求められます。
まず、受光素子に光が照射されると、光のエネルギーが原子に吸収されてキャリアが発生しますが、この過程には時間を要しません。
発生したキャリアの移動により外部回路に電流が流れますが、電子と正孔の移動には時間がかかります。
このときにかかる時間を、キャリアの「走行時間」といいます。移動する空乏層の厚さが大きいほどキャリアの移動距離が長くなるので時間がかかります。また電界が大きいほど移動は速くなります。
そのため、応答時間を短くするためには、空乏層の厚さを小さくし、高いバイアス電圧をかけることが有効です。また、半導体材料の選択や不純物濃度を変化させることでも制御できます。
しかし、応答時間を短くするために空乏層を狭くすると光が吸収されキャリアが生成される領域が狭くなってしまうので、受光感度が低くなります。また、電界を大きくすると、受光素子が破壊するリスクやノイズの増加も出てきます。
したがって、受光感度を高く保ちつつ、応答時間を速くするための調整が必要となります。
(4)材料が所望の波長に対応するバンドギャップをもつ半導体であること
受光素子であるフォトダイオードに光が照射され、光吸収されてキャリアが発生するためには、受光する光の波長に適した半導体材料を選ぶことが必要です。
一般に、エネルギーEと波長λの関係は、次式で表されます。
E = hν
= hc/λ ・・・(1)
ここで、hはプランク定数、νは光の振動周波数、cは真空中の光速です。
半導体に光が吸収されるためには、図1に示すように光のエネルギーhνが半導体のバンドギャップEgより大きい必要があります。すなわち、一定の周波数以上の光を照射した場合のみキャリアが発生します。
このときの波長をλ0とすると、式(1)より、
Eg = hc/λ0
が成り立ち、光吸収が生じる波長はλ0より短い波長となります。
波長λ0は、物質の種類によって決まります。
[図1 半導体における光吸収]
2.量子効率
ここでの「量子効率」とは、入射する光子数に対する生成される電子数の比をいいます。
量子効率は、光から電流へのエネルギー変換効率を示す尺度として使われます。
量子効率ηは、短波長側では以下の式で表されます。
η=(i/e)/ {Pin /(hν)} ・・・(2)
ここで、iは流れる電流、eは電気素量、Pinは半導体に入射する光パワーです。
このときの量子効率ηは、図2に示されるようにλ0より短波長で急に立ち上がる特性を持ちます。
[図2 波長λと量子効率ηの関係]
以上より、光ファイバ通信システムに使われるフォトダイオードの一般的な材料としては、光ファイバの第一の窓である0.85μm付近ではSiが選ばれます。
また、1~1.7μmの波長帯ではGeが選ばれますが、光ファイバにおける最低損失波長帯である1.5μm帯、いわゆる光ファイバの第三の窓では、InGaAsの量子効率が50%を超え、かつ波長による変化も小さいため最適とされます。
したがって、光ファイバ通信システムでは、発光素子の半導体レーザと同様にInGaAs化合物が受光器の半導体材料として最も利用されています。
(日本アイアール株式会社 N・S)
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