3分でわかる 光触媒とは?酸化チタンの反応原理・超親水性・用途を解説

目次
1.光吸収から光触媒反応へ
当連載の記事「物質の色と光の関係」では、物質の色が光吸収と電子遷移によって決まることを説明しました。
物質は特定の波長の光を吸収すると、電子がより高いエネルギー準位へ励起されます。
しかし、物質による光吸収は、色に関わるだけではありません。吸収した光エネルギーを利用して化学反応を開始・促進する材料も存在します。その代表が、太陽光や照明光などの光エネルギーを利用して化学反応を促進する「光触媒(photocatalyst)」です。
光触媒は、次のような用途に実用化されています。
- 空気浄化
- 抗菌・抗ウイルス
- セルフクリーニング
また、水素製造や二酸化炭素の資源化への応用を目指した研究開発も進められています。
2.光触媒とは?
「触媒」とは、反応の前後で正味には消費されることなく、化学反応の速度を高める物質です。例えば、自動車の排ガス浄化触媒や化学工場で使用される反応触媒などがよく知られています。
一方、「光触媒」とは、光を吸収して励起状態となり、そのエネルギーを利用して化学反応を開始・促進する触媒です。光合成も、光エネルギーを利用して化学反応を進める自然界の代表的な仕組みです。ただし、その反応機構は半導体光触媒とは異なります。
3.光触媒反応はどのように起こるのか?
光触媒にはさまざまな種類がありますが、ここでは代表的な材料である酸化チタン(TiO₂)を例に、半導体光触媒の基本的な反応プロセスを説明します(図1、図2)。
半導体の電子状態は、主に電子で満たされた「価電子帯(valence band)」と、その上に位置する「伝導帯(conduction band)」によって説明されます。価電子帯と伝導帯の間には、電子が取り得るエネルギー準位が存在しない領域があり、これを「バンドギャップ」と呼びます。
[※関連記事:3分でわかる 半導体の”超重要”前提知識|エネルギーバンドと半導体の分類]
- ① バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を吸収すると、価電子帯の電子が伝導帯へ励起され、価電子帯には正孔(h⁺)が残ります。生成した伝導帯電子(e⁻)と正孔の組を、電子・正孔対と呼びます。
- ② 生成した電子と正孔の一部は再結合し、化学反応に利用されることなくエネルギーを失います。一方、再結合せずに残った電子と正孔の一部は光触媒の表面へ移動し、表面に吸着した物質との酸化還元反応に利用されます。

【図1 光照射による電子・正孔対の生成】

【図2 酸化チタン光触媒(TiO₂)の反応機構】
4.電子と正孔が化学反応を起こす
生成した正孔は酸化力を持ち、伝導帯の電子は還元力を持っています。これらは光触媒表面に吸着した水、酸素、有機物などと反応し、さまざまな酸化還元反応を引き起こします。
光触媒表面では複数の反応が進行しますが、代表的な反応を模式的に示すと、次のように表されます。
伝導帯の電子は、光触媒表面に吸着した酸素を還元し、スーパーオキシドアニオンラジカルを生成します(式1)。
O₂ + e⁻ → O₂•⁻ ・・・式1
一方、正孔は、光触媒表面に吸着した水や表面水酸基の酸化に関与します。ヒドロキシラジカルの生成を模式的に示すと、次のように表されます(式2)。
H₂O + h⁺ → •OH + H⁺ ・・・式2
生成した正孔や活性酸素種は、光触媒表面にある有機物の酸化分解に関与します。特にヒドロキシラジカル(•OH)は反応性が高く、さまざまな有機化合物を酸化します。この作用が、セルフクリーニングや空気浄化などに利用されています。
これらの活性種が作用する対象としては、次のものが挙げられます。
- 油汚れなどの有機物
- 臭気成分
- VOC(揮発性有機化合物)
- 細菌やウイルスの構成成分
正孔や活性酸素種は、これらに含まれる有機成分の酸化・分解に関与します。また、細菌やウイルスの表面成分などを損傷させ、不活化に寄与します。
有機物の酸化反応が十分に進行すると、最終的に二酸化炭素や水などへ無機化される場合があります。
そのため、光触媒は、
- 建築外装材
- 窓ガラス
- 空気清浄機
- 抗菌コーティング
などに利用されています。
(1)酸化チタン光触媒の正孔が強い酸化力を示す理由
酸化チタンが優れた光触媒として利用される理由の一つは、光照射によって生成する正孔が強い酸化力を持つことです。
酸化チタンの価電子帯上端は、水や表面水酸基の酸化に関与できるほど正側の電位に位置しています。そのため、価電子帯に生じた正孔は強い酸化力を示します。その結果、光触媒表面に吸着した水や表面水酸基から電子を奪い、ヒドロキシラジカル(•OH)を生成することがあります。
ヒドロキシラジカルは、非常に反応性の高い活性酸素種の一つであり、多くの有機化合物を酸化するとともに、微生物の細胞膜などの構成成分を損傷させることがあります。
(2)電子による還元反応
一方、伝導帯へ励起された電子は還元力を持ち、光触媒表面に吸着した酸素分子を一電子還元して、スーパーオキシドアニオンラジカル(O₂•⁻)を生成します。
このように、光触媒表面では、正孔による酸化反応と電子による還元反応が対になって進行します(図3)。
(3)光誘起超親水性による汚れの洗い流し
酸化チタンには、有機物の分解作用以外にも、光照射によって表面が超親水化するという重要な特徴があります。これを「光誘起超親水性」と呼びます。一般的な表面では、水滴は一定の接触角を保った状態で付着します。
一方、光照射によって超親水化した酸化チタン表面では、水滴が薄い水膜状に広がります。この状態を「超親水性」と呼びます。超親水化した表面では、雨水が汚れと基材の間に入り込みながら薄い水膜として広がるため、付着した汚れが洗い流されやすくなります。そのため、酸化チタン光触媒は、セルフクリーニング外壁、防汚ガラス、防曇ミラーなどに利用されています。
つまり、酸化チタン光触媒は、
- 正孔や活性酸素種による有機物の分解
- 光誘起超親水性による汚れの洗い流し
という2つの作用によって、優れた防汚性能を発揮します。

【図3 光触媒による有機物分解の流れ】
5.酸化チタンが代表的な光触媒である理由
酸化チタンは、実用化されている代表的な光触媒材料です。
その理由として、以下の点が挙げられます。
- 比較的安価である
- 光照射によって生成した正孔が強い酸化力を示す
- 化学的安定性や耐候性に優れている
- 薄膜化やコーティングがしやすい
このような性質から、酸化チタンは屋外用途にも適用しやすい光触媒材料です。
6.酸化チタン光触媒の課題
一方、可視光応答化のための改質を施していない酸化チタンには、利用できる光の波長が限られるという課題があります。以下では、このような酸化チタンを「未改質の酸化チタン」と呼びます。
光触媒として広く利用されるアナターゼ型酸化チタンのバンドギャップは約3.2 eVで、光の吸収端は約387 nmです。そのため、未改質の酸化チタンは主として紫外光に応答します。
しかし、地表に届く太陽光に占める紫外光の割合は小さく、可視光の方がはるかに多く含まれています。そのため、主として紫外光を利用する未改質の酸化チタンでは、太陽光エネルギーを十分に活用しにくいという課題があります。
7.まとめ
半導体光触媒の基本は、光の吸収によって電子と正孔を生成し、それらを利用して酸化還元反応を進めることにあります。この反応は、前回説明した「光吸収」と「電子遷移」の考え方の上に成り立っています。
一方、可視光応答化のための改質を施していない酸化チタンは、主として紫外光に応答します。そのため、太陽光に豊富に含まれる可視光を利用できる「可視光応答型光触媒」の開発が進められています。
続きの記事「3分でわかる 可視光応答型光触媒とは?」では、酸化チタンのバンド構造と吸収波長の関係をさらに掘り下げるとともに、どのような工夫によって可視光を利用できるようになるのかを解説します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)


































