- 《大好評》LTspice設計実務シリーズ
LTspiceを活用したEMC設計基礎から設計応用(セミナー)
2024/12/19(木)10:00~17:00
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電子回路や電子機器の設計者にとって、ノイズ対策は永遠のテーマだと思います。
今回は、筆者の設計経験を踏まえながら、ノイズの種類と具体的な対策方法について解説します。
目次
ノイズは大きく「自然ノイズ」と「人工ノイズ」に分類されます。
自然ノイズは、自然界に発生するノイズで、代表的なノイズは落雷や冬に発生する静電気放電があります。
人工ノイズは、電子機器が発生するノイズです。人工ノイズは、電圧や電流変動が基板のパターンやケーブルを伝播して発生する「伝導ノイズ」と、電磁波として空間を伝播する「放射ノイズ」に分類されます。
落雷サージ、静電気放電など
フリッカノイズ(1/f ノイズ)、ショットノイズ、熱雑音、スパイクノイズ、リップルノイズ、クロストーク、リンギングなど
では、人工ノイズの種類についてみていきましょう。
「フリッカノイズ」と「ショットノイズ」は、トランジスタに起因するノイズです。
フリッカノイズは、別名「1/fノイズ」と呼ばれている通り、低周波で大きくなるノイズです。
ショットノイズとは、広い周波数領域に渡って一定の大きさを持つノイズで、トランジスタに流れる電流が不連続に流れることで引き起こされるノイズです。
「熱雑音」とは、発熱してエネルギーを損失する抵抗などの素子において、電子の熱運動によって電流が不連続に流れることによって起因するノイズです。
「スパイクノイズ」と「リップルノイズ」は、主に電源回路で発生するノイズです。
スパイクノイズとは、電源回路をスイッチングするクロックの立ち上がり時や立ち下がり時に電圧が変動するノイズです。
リップルノイズとは、スイッチング周波数に連動して電圧が変動するノイズです。
「クロストーク」とは、相互干渉によって近接する基板の配線パターンやケーブルの配線にノイズが引き起こされる症状です。
「リンギング」とは、基板の配線パターンやケーブルの特性インピーダンスが整合していないときに、反射によって信号の立ち上がり波形や立ち下がり波形が大きく変動する症状です。
人工ノイズには、ノイズを発生する加害者とノイズの影響を受ける被害者が存在します。このノイズが発生することを「エミッション」(EMI)と呼び、ノイズの影響を受けることを「イミュニティ」(EMS)と呼びます。また、この二つを総称して「電磁両立性」(EMC)と呼びます。
つまり、電子機器を開発するときのノイズ対策としては、ノイズを発生しない対策とノイズの影響を受けない対策の2つが必要になってきます。
伝導ノイズの伝播方法は、ノーマルモードノイズとコモンモードノイズの2種類が存在します。
ノーマルモードノイズは、図1のようにノイズ源が信号ラインに対して直列に入り、信号ラインと同じ方向にノイズが発生します。つまり、信号源から負荷への往路と負荷から信号源への複路では逆の向きになるため、「ディファレンシャルモードノイズ」と呼ばれることがあります。
このノーマルモードノイズは比較的対策しやすく、信号源付近にインダクタやコンデンサなどの部品を実装すれば、ノイズを除去できます。
【図1 ノーマルモードノイズの伝播】
コモンモードノイズは、図2のように浮遊容量や磁気による結合により、近接回路のノイズ電流が信号ラインのプラス側とマイナス側で同じ方向にノイズが発生します。
コモンモードノイズは、復路であるグラウンドパターンとシャーシの接続点を経由してシャーシに流れ込むため、ノイズ対策が難しいです。
【図2 コモンモードノイズの伝播】
[代表的なノイズ対策の一覧(※1)]
対策箇所 | 方法 | |
機器・装置の構成 | 部品配置 | 距離を置くなどノイズの影響を受けない位置に部品を配置する |
シールド | シールド板やシールドケースによりノイズを受けない、出さないようにする | |
グラウンド | 広いグラウンドパターンを確保し、他の回路へのクロストーク防止、電位の均一化を図る | |
使用部品 | プリント配線板 | パターンや層構成を工夫す |
シールドケース | ・電磁波が集中する箇所にシールド板を配置する ・金属ケースにより電磁波を反射もしくはグラウンドパターンに流す ・磁性体ケースにより電磁波を吸収して熱にする |
|
ケーブル | シールド線や同軸ケーブルなどアンテナになりにくいケーブルを使用する | |
コネクタ | シールドやインピーダンス整合などを行う | |
半導体 | ・スペクトラム拡散などの信号処理が行われている半導体を使用する ・内部回路や端子配置によりノイズを受けにくくした半導体を使用する |
|
部品 | シールドガスケット、電磁波吸収シートなどのノイズ対策部品を使用する |
機器と装置の構成では、部品配置、シールド、グラウンドにおいて対策を講じることができます。
ノイズは、基本的に異なる信号エネルギーが影響を及ぼし合って発生する現象です。
そのため、部品はノイズの影響を受けない位置に配置することが重要です。ノイズ発生源の近くやノイズの影響を受ける回路の近くにシールド板やシールドケースを配置することで、ノイズ対策に大きな効果を発揮します。
注意すべき点として、このシールド板やシールドケースはグラウンドパターンに接続し、この接続箇所を多くすることを推奨します。そのため、グラウンドは広いグラウンドパターンを確保する必要があります。
ノイズ対策の使用部品としては、プリント配線板、シールドケース、ケーブル、コネクタ、半導体などがあります。
プリント配線板のパターンでは、ノイズの影響を受けないような部品配置を行います。プリント配線板が多層基板の層構成は、内層をベタグラウンドにすることを推奨します。理由は、表層の信号線と内層のグラウンドパターンがマイクロストリップ構造となるため、寄生容量で信号線とグラウンドパターンが結合して、信号線に発生したノイズがグラウンドへバイパスしやすくなります。
ケーブルは、シールド線や同軸ケーブルを使用することにより、ノイズの抑制に大きな効果が期待できます。
コネクタは信号の接続箇所であるため、コネクタ全体を金属板で覆う、フェライトコアを実装するなどの対策でノイズ抑制の効果が期待できます。
また、プリント基板とケース、ケースとケースが接合する箇所などに、電気的な接合を確実にするシールドガスケットや電磁波を吸収する電磁波吸収シートなどを使用します。
(※この記事はデジタルテックラボラトリ 髙瀨弘嗣講師からのご寄稿を、当研究所が再構成したものです。)
<参考文献>
(※1)「トランジスタ技術『これなら分かる!!PICマイコン』」254ページ, CQ 出版社(2009年4月)