【分析化学を学ぶ】質量分析法とは?イオン化法の種類など要点解説

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質量分析法の基礎知識

1.フラグメンテーションと質量分析法

分子をイオン化して、ラジカルカチオンになり、さらに十分なエネルギーをもっていると、イオン、ラジカルイオン、中性分子、中性ラジカルへと開裂していきます。
この開裂のことを「フラグメンテーション」と呼びます。
また、そのイオンや分子の質量を測定する分析法は「質量分析法」(mass spectrometry)といいます。
 
質量分析法の装置には試料導入部、イオン化部、質量分析部、検出部とデータ処理部があります。
導入方法、イオン化方法、分析方法などによって、様々な手法が開発されてきました。
例えば、導入方法についてはGCMS、LCMSといった手法がありますが、実際には目的と化合物の性質に応じて適切なイオン化方法による測定法を選ぶことが一般的です。

質量分析計の概念図

 

2.イオン化方法の主な種類

有機物では最もよく用いられるイオン化方法は、電子衝撃法EI(Electron Ionization)です。
これは、気相分子に高エネルギーの電子流を当てて、分子をバラバラに断片化して、質量/電荷(m/z)に基づいて分離された正イオンを検出する分析法です。測定が簡単で、有機合成で最も常用されます。ただ加熱時にイオン化しないもの(高分子、金属錯体など)は使えません。

有機金属錯体はフラグメンテーションしやすいので、EIのようなハードなイオン化方法ではなく、ソフトなイオン化方法が向いています。
 

化学イオン化方法CI(Chemical Ionization)

試薬ガス(メタン等)を電気衝撃でイオン化して試料と反応することによって、分子イオン[M-H]をよく与えます。試料分子が過剰なエネルギー衝撃を受けていないため、過剰なフラグメンテーションをせずに測定できます。熱に不安定な化合物は使えません。
 

高速原子衝撃法FAB(Fast atom bombardment)

試料の化合物は高沸点の粘度の高い溶媒に溶かし、キセノン(アルゴン)原子の高エネルギービームでイオン化されます。[M-H]のような付加イオンが顕著に見られます。加熱しないため、熱に不安定な化合物にも使うことができます。
 

エレクトロスプレーイオン化ESI(Electrospray Ionization)

大気圧イオン化(API)の一つで、高速液体クロマトグラフ(HPLC)の出口に取り付けられて、極めて細い霧を作り、溶剤が速やかに除去されます。細かい粒子は、大気圧下でコロナ放電によってイオン化されます。
最もソフトなイオン化方法の一つであり、装置の維持費用も手頃です。溶媒に溶ける化合物であれば、最初の選択としてESI-(TOF)-MSの測定をお勧めします。
 

マトリックス・アシステッド・レーザーデソープションイオン化(MALDI)

超分子高分子に主に用いられるMALDI法では、マトリックス中の試料は表面に散布され、レーザービームのエネルギーで脱着され、イオン化されます。大きな生体高分子を測定するのに適しています。

 

3.MSスペクトルの解析方法

マススペクトルは縦軸をシグナル強度,横軸をm/zで表した二次元表示となります。
マススペクトル上のシグナルは通常「ピーク」と呼び、ピーク強度は分析対象物のイオン化により生成した各m/zを持つイオンの量に対応します。

MSスペクトルの解析には、まず分子イオンとその同位体を決めます。
さらに存在量のより少ない同位体を含むので、そのM+1、M+2などに同位体ピークを与えます。
環状化合物や二重結合を持つ化合物の分子イオンは安定しており、ピークは強く現れます。
逆に脂肪族アルコールなどは不安定で、ピークは弱くなります。
分子イオンの安定度を次に示します。

 芳香族>共役不飽和化合物>脂環式化合物>飽和炭化水素>アミン>エーテル>アルコール

分子イオンのフラグメンテーションによって生じたいくつかのフラグメントイオンに由来するピーク群が、低m/z側に観測されます。これらは「フラグメントイオンピーク」と呼ばれます。
 

ピーク強度とフラグメントの安定性

分子イオンのピーク強度は、フラグメントの安定性に影響されます。
飽和炭化水素のMSスペクトルでは、-CH2-に由来するm/z14ずつ離れたピークが現れるのが特徴です。
また、プロピル基(m/z43)やブチル基(m/z57)のピークが特に強く現れます。
側鎖のある化合物は、側鎖が開裂しやすいため、ピークの相対的強度は小さくなります。
アルキル置換炭素原子のところで切れやすく、その正イオンの安定性の順を次に示します。

 CH3<RCH2<R2CH+<R3C+

一般的には、一つの枝分かれの中で、一番大きな枝がラジカルとして最も外れやすい部分となります。
しかしながら、実際はEIのようなハードなイオン化方法やフラグメントしやすい化合物は、分子イオンが現れないケースが多くあります。フラグメンテーション情報と結びつけて分子イオンを決めることが必要です。

有機金属錯体の場合、金属フラグメントのピークが目立ちやすく、金属、特に遷移金属には分かりやすい同位体パターンがありますので、そのパターンからまず金属フラグメントを決めることができます。

 

4.質量分析法に関する表記方法の例

質量分析法について、論文で常用されている表記方法の一つで例を挙げます。

分析手法: calcd(calculatedの略語)for [分子イオン orフラグメントイオン]:理論値a, found: 測定値b
[例:ESI-TOF-MS:calcd for [M+H+]: a, found: b]

ということで今回は、有機合成研究室で多く使われる質量分析法についてご紹介しました。

重要なのは、実践の中で目的化合物と「相性」のある測定法を見出すことです。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)

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