【機械設計マスターへの道】ガスケット・パッキンの基礎知識(ガスケット係数/ガスケットの種類と特徴)
水や空気などの流体は、圧力差とすき間があれば漏れが生じます。
流体が漏れると、大抵の場合は厄介な困りごとになるので、流体を扱う機械では、漏れが生じる可能性のある個所には、漏れを防止する対策を施します。これを「シール」といいます。
このコラムでは、シールに使用する部品(シール材)であるガスケットとパッキンの違いについて整理するとともに、ガスケットの種類と特徴などを中心に解説します。
目次
1.メタルタッチシールとは?
接合面を精度よく仕上げ、シール材を使わずに金属部品同士を密着させて漏れを防ぐ機械要素があります。
部品と部品の接合面にすき間がなく、圧力に対して適切な面圧で締め付けられていれば、漏れが生じることはありません。シール材を使用しないでシールする構造を「メタルタッチシール」といいます。
配管継手にはメタルタッチシール形の物も多く市販されています。
また管ねじのうち、テーパねじも密封性を高めたメタルタッチシールの一つです。(ねじ面にシールテープを巻くこともありますが、テープの破片が流体中に混入することを嫌って使用禁止している規格もあります。)
船舶は現在では溶接構造が一般的ですが、溶接技術が進歩する前はリベット接合構造が使用されていました。これはリベットが冷えて収縮する際に、船体の金属面を押圧して密着させてすき間をなくす構造であり、メタルタッチシールの1種ということができます。
配管フランジなどは、メタルタッチシールの配管継手と比較するとシール面積が広く、ボルト締め付けや内部圧力によってフランジ面に若干のたわみが生じるのでシール材であるガスケットを使用して漏れを防止することが必要となります。
2.ガスケットとパッキンの違いとは?
静止面のシールに用いるものを「ガスケット」といい、運動面(回転運動、往復運動)のシールに用いるものを「パッキン」といいます。
ポンプの軸封部品である、メカニカルシールやグランドパッキンは、回転運動用のパッキンに属します。
往復運動用のパッキンには、Uパッキン、Vパッキンなどがあります。
Oリングには、運動用にも用いることができるものと、静止面のシール専用のものとがあります。
JIS規格では、前者にP、後者にGの記号をつけて寸法を規格化しています。
運動用(P)の方が、静止用(G)よりも線形が太くなっています。
3.ガスケット係数と最小締付圧力
ガスケットは、機械部品を組み立てる際に、ボルトを締め込むことにより、ある一定の厚さと断面形状になるまで圧縮されてはじめてシール機能を発揮します。
配管フランジなどにガスケットを用いてシールを行うときは、必要な締付力を計算して、ボルトの強度を確認する必要があります。
(1)使用状態で必要な締付力Wm1
内圧をP[MPa]とするとき、Wm1は次式のようになります。
Wm1=H + Hp=(π/4)G2P+2πbGmP[N] ・・・(1)
H:内圧によってフランジを開こうとする力
Hp:内圧作用時にシール機能発揮のためにガスケットを圧縮する力)
ここで、bはガスケット有効幅[mm]、Gはガスケット有効径[mm]のことです。
ガスケット基本幅をb0とします。
ガスケットの接触幅をN[mm]とすると、b0=N/2 となり、b0の数値によりbとGは次のように定義されます。
b0≦6.35[mm]のとき、b=b0、G=ガスケット接触面の平均径
b0>6.35[mm]のとき、b=2.52√b0、G=ガスケット接触面外径-2b
mは「ガスケット係数」と呼ばれる数値(無次元数)で、使用状態におけるガスケットの残留圧縮応力と作用する圧力の比を意味します。
ガスケットの種類、厚さ、材質などによって異なった数値となります。
(2)ガスケット締付時に必要な締付力Wm2
フランジ組立時には、ガスケットを適切に圧縮してガスケットとフランジ面のすき間や、ガスケット内部の空隙をつぶして、漏れの経路を塞ぐ必要があります。
組立時(ガスケット初期圧縮時)に必要な締付力Wm2は、次式で計算されます。
Wm2=πbGy [N] ・・・(2)
Y[N/mm2]は「ガスケット最小締付圧力」と呼ばれる数値で、ガスケットの種類、厚さ、材などによって異なった数値となります。
初期締付力Wm2は、ガスケット有効面積と最小締付圧力の積となります。
Wm1とWm2の両方を計算して大きい方をボルト荷重としてその強度を確認します。
(1),(2)式より、使用圧力Pが低いとWm2の方が大きくなりますが、ある程度圧力が高くなるとWm1の方が大きくなることがわかります。
なお、ガスケットメーカでは、シール対象の流体が液体であるか気体であるかによって締付推奨面圧[N/mm2]を設定しています。
初期締付力の設定に際してガスケット接触幅Nに対する投影面積に推奨面圧を乗じた値をWm2と比較してみる必要があります。
4.代表的なガスケットの種類
(1)Oリング
Oリングは、ガスケット係数m、最小締付圧力yがともに0であり、「セルフシールガスケット」と呼ばれます。
締付力を必要としないので組立や強度設計上は有利ですが、圧力差がある程度以上大きい場合はみ出しを防止するため、軸と穴のはめ合い部に使用する場合の組立すき間を小さくし、さらにバックアップリングの併用が必要となります。また流体の種類によっては耐食性、耐熱性などの問題で適用が困難となる場合があります。
[※Oリングの解説は別コラム「安いけど油断大敵!Oリングの注意点」も併せてご参照ください。]
(2)シートガスケット
各種ガスケット材を厚さ0.5~3.0[mm]程度の薄い板に成形したものです。
ガスケット材としては、合成ゴム、ジョイントシート(炭素繊維+ゴム、アラミド繊維+ゴム、など)、黒鉛、PTFE、などがあります。
一般的にm値とy値は、シート厚さが薄いほど大きくなります。
例として、繊維+ゴムのジョイントシートのm値は、厚さ3mmの場合2.0ですが、厚さ1.5mmで2.8、1.0mmでは3.5となります。
(3)渦巻きガスケット
断面が略V字形状の、フィラーというクッション材(膨張黒鉛など)とフープという薄い金属板を張り合わせて渦巻き状に成形したもので、高温・高圧まで使用することができてシール性に優れます。
厚4.5[mm]のものが一般的です。フィラー材が膨張黒鉛の場合、m値は3.0、y値は68.9[N/mm2]です。
(4)メタルガスケット
非金属のガスケットを使用することのできない高温や高圧の用途に適用します。
① メタルジャケットガスケット
軟質の耐熱性クッション材を薄い金属の板で被覆した形状のガスケットです。
銅、軟鋼、モネル、ステンレス鋼、などが用いられます。
m値は3.5~4.0程度となります。
② リングジョイントガスケット
軟鋼、モネル、ステンレス鋼などの金属を断面が楕円(オーバル)または八角形(オクタゴナル)のリング状に成形したものです。
フランジなどのガスケット取付け面に溝を加工してリングジョイントガスケットをはめ込んで使用します。
m値は5.5~6.5程度と他のガスケットに比較して大きくなります。
以上、今回はガスケットの基礎知識についてご説明しました。
ガスケットは、流体を扱う機械における重要な機械要素の一つです。
流体の種類・性質、圧力、温度などの条件に応じて、最適なガスケットを選定するとともに締付ボルトの強度計算と締付管理を適正に行うようにしましょう。
次回は、ガスケットが多く使われている「配管フランジ」について解説します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)