3分でわかる リグニンの基礎知識 (構造/特徴/用途など)
各種バイオマス資源の中でも、リグニンは木材の主要成分ながら活用があまり進んでいません。しかし、このリグニンへの期待が近年高まっています。
今回はリグニンの基礎知識について解説します。
1.リグニンとは
「リグニン」(「木質素」とも呼ばれます)は、セルロースやヘミセルロースとともに植物細胞壁を構成する主要成分の一つであり、フェノール性の高分子化合物です。
リグニンが持つ高い可能性
地球温暖化を背景に、燃料や化学品を化石原料からではなくバイオマス等の再生可能原料から製造する必要性がますます高まる中で、リグニンは木材中の主要成分であり、資源として豊富に存在することなどから、高い可能性を有する素材とみなされています。
図1にスギ木材の組成を示します。リグニンは35%を占めていることが分かります。
【図1 スギ木材の組成1)】
リグニンのデメリット
木材成分としては、セルロースやヘミセルロースが加水分解により高機能原料として利用できるのに対して、リグニンには処理が難しいという特徴(欠点)があります。
このため副産物として扱われ、多くの場合、燃料としてのみ利用されているのが現状です。化学品原料としての本格的利用はこれからの段階にあります。
2.天然リグニンの化学構造は未解明
天然のリグニンは3次元構造を有する難溶の芳香族系高分子であるため、構造の解析が非常に難しいことが知られています。TOF―SIMS(2次イオン質量分析)等の最先端の装置を用いた解析が進行中であり、種々の想定図がこれまでに提示されてはいますが、その化学構造は完全には解明されていないのが実情です。
例えば、広葉樹であるポプラ中に存在する天然リグニンの化学構造の模式図が文献2)に記載されていますが、あくまでも推定構造です。どのような構造なのか興味がある方は、文献2)をご参照ください。
3.リグニンの利用例(リグニンスルホン酸)
ここで、「天然リグニン」と「工業リグニン」の定義と区分を明確にしておきましょう。
「天然リグニン」は木材中に存在する構造未解明のリグニンそのものですが、「工業リグニン」は天然リグニンを亜硫酸法等によって分解して得られる混合組成物です。
リグニンの利用は、換言すると、工業リグニンに含まれる成分を効率的に利用して付加価値の高い用途を見出す作業になります。
本格利用はこれからのリグニンですが、その中で比較的進んでいるのが、亜硫酸法で得られる工業リグニンに含まれるリグニンスルホン酸の利用です3),4)。
リグニンスルホン酸は混合物であり比較的サイズが大きい分子です。その代表的構造を図2に示します。
【図2 リグニンスルホン酸の代表的構造】
リグニンスルホン酸およびその金属塩は、他のリグニンに比べて高い水溶性を示します。
一方で,リグニンスルホン酸分子にはリグニン骨格に由来する疎水的な芳香環部位も存在するため,親水的なスルホ基と疎水的な芳香環を併せ持った両親媒性分子の性質を示し、コンクリート減衰剤、肥料や農薬の造粒剤、染料の分散剤などの用途で使われています。
興味深いのは香料であるバニリンが、図3に示すように、リグニンスルホン酸塩から製造できる点です。
【図3 リグニンスルホン酸塩からのバニリンの製法】
ノルウェーのボレガード社はこの製法でのバニリン生産を少量ですが継続中です5)。
4.期待されるリグニンの用途拡大
今後リグニンの活用は広範囲で進み、用途が拡大していくことが予想されます。
その中で特に注目されるのがリグニンからの高純度モノマーの生産であり、日本が世界をリードしている分野でもあります。
図4のPDCや図5のccMAのような高機能性モノマーを、微生物の能力を巧みに利用して高純度で生産する技術が開発されています。現状ではコストが課題ですが、進展が期待されます。
[※関連記事:リグニンから高純度モノマーの生産は不可能か?微生物の力を活用した検討例はこちら]
【図4 2- ピロン-4,6- ジカルボン酸(PDC)】
【図5 cis,cis-ムコン酸(ccMA)】
ということで今回は、いま注目の「リグニン」について知っておきたい基礎知識を解説しました。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》
- 1) 木島正志, ウッドバイオリファイナリー3.木材成分物質の炭素変換, 材料61(9),803-809(2012)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsms/61/9/61_803/_article/-char/ja/ - 2) Ruben Vanholme etc., Lignin Biosynthesis and Structure, Plant Physiology, 153(3), 895–905(2010)
- 3) 川田俊成ら, 木材の化学, 海青社(2021)
- 4) 牛丸和乗, イオン結合を利用したリグニンスルホン酸由来の複合材料の開発および応用に関する研究, オレオサイエンス21(1),13-23(2021)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/21/1/21_13/_article/-char/ja - 5) ボレガード社website
https://www.borregaard.com/