環境技術化学

生分解性プラスチックが普及しない理由とは?生産量の現実と問題点・技術課題を解説

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生分解性プラスチック

プラスチックによる自然環境の汚染を低減するための基本は「3R」(Reduce=削減, Reuse=再利用, Recycle=リサイクル)の推進ですが、生分解性プラスチックの利用は3Rの補完手段として期待されています。
しかしその生産能力はあまり伸びていません。

今回は生分解性プラスチックが抱える課題について解説します。

 

1.生分解性プラスチックの生産量

図1は世界における生分解性プラスチックの生産能力の推移を、全プラスチック生産量に対する比率と合わせて示したものです1)
生産能力は近年少しずつ増加しているものの、全プラスチック生産量に対しては約0.3%という低水準に留まっていることが分かります。

 

世界における生分解性プラスチック生産の推移
【図1 世界における生分解性プラスチック生産の推移1)

 

分解性プラスチックが以下に述べる課題を抱えていることが、その要因です。

 

2.生分解性プラスチックは高価格

まず、生分解性プラスチックは既存の汎用樹脂よりもかなり高価格であり、これが生産拡大の障害になっています。

生分解性プラスチックの中で比較的生産量が多いポリ乳酸でも約700円/kgです。プラスチックの中で自然界への廃棄量が最も多くて対策が急務とされる2)ポリオレフィン(ポリエチレン+ポリプロピレン)は200円/kg以下ですので、その差は歴然としています。

ポリオレフィンは、図2のA)に示すように、石油系原料を分解して得られるエチレンやプロピレンを加工せずにそのまま重合する単純なプロセスで製造できます。
一方、生分解性プラスチックはポリエステル構造を有しているものが主流です。例えばポリ乳酸の製造には、図2のB)に示すように、バイオマス由来の糖を醗酵させ、更に精製分離する等の複雑な工程が伴います。醗酵工程のない化学合成のみの場合でも、高純度モノマーを用いた縮合反応が必要になります。
従って生分解性プラスチックは、今後の生産規模拡大により一定のコストダウンは期待できるものの、汎用プラスチックとの価格差を完全に解消するのは事実上不可能とみられます。

 

ポリ乳酸とポリオレフィンとの製造プロセス比較(イメージ図)
【図2 ポリ乳酸とポリオレフィンとの製造プロセス比較(イメージ図)】

 

よって、生分解性プラスチックの利用を拡大するためには、汎用プラスチックよりも製造コストが大幅に高くなる事実を受け入れて、価格補助する等の政策的支援が必要になると考えられます。

 

3.生分解性と強度・耐久性との両立が困難

次に、生分解性の高いプラスチックは通常の使用条件下の物性が不足していると評価されています。この点を具体的に確認してみましょう。

表1はポリエステル系生分解性プラスチックであるポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトンの3種について、生分解性と使用時物性との相関を示したものです。

ポリ乳酸は、高温コンポスト以外の条件では生分解性がありませんが、使用時の加水分解はほぼゼロと安定しており、ガラス転移点が60℃であり室温で十分な硬さを有しています。

これに対してポリカプロラクトンは、生分解性は高いのですが、通常使用時に加水分解しやすいという欠点があり、ガラス転移点が-60℃ですから室温で使用するには硬度が不足しています。ポリブチレンサクシネートはこれらの中間的な性状であることが分かります。

 

【表1 生分解性プラスチックにおける生分解と使用時物性との相関】
生分解性プラスチックにおける生分解と使用時物性との相関

 

この例のように、生分解性プラスチックでは生分解性と強度・耐久性との両立は原理的に困難です。

 

4.今後の展開

生分解性プラスチックが抱える上記課題を完全に解決することは出来ないとみられます。
ポリエチレンのように安価であり、使用時には非常に安定していて、自然環境に置かれるとポリカプロラクトンのように高い生分解性を示すプラスチックが開発されれば理想的ですが、その実現は困難でしょう。

しかし、生分解性プラスチックの物性上の欠点を緩和する検討も現在進行中です。
例えば、プラスチック使用時には機能せず、自然環境におかれると分解促進を開始するスイッチ機構をプラスチックに仕込む検討が挙げられます。まだ初期段階ですが、今後の進展が期待されます。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《引用文献、参考文献》


 

 

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