3分でわかる技術の超キホン レーザの発振条件・まとめ解説[反転分布/誘導放出/共振器]
光通信などでは、光源としてレーザが使われています。
レーザの発振条件を3つ挙げるとすると、以下(1)~(3)になります。
(1)反転分布
(2)誘導放出
(3)共振器
本コラムでは、上記3つについて簡単にわかりやすく説明します。
1. 反転分布とは?
全ての物質は原子からできています。物質を構成する原子の構造を考える必要があります。
図1に原子の構造を示します。
原子は、中心に原子核が存在し、その周りを回るいくつかの電子で構成されています。
電子は原子核からの距離に比例したエネルギーを持っていて、決められた軌道しか回ることができません。
この軌道を「エネルギー準位」といいます。
各エネルギー準位に存在できる電子の数は物質の種類により決まっています。
電子がエネルギー準位間を遷移するときには、光の放出または吸収を伴います。
[図1 原子の構造]
「反転分布」とは、基底状態の粒子等の数よりも、励起状態の粒子等の数の方が多い系の状態をいいます。
基底状態は、電子が原子核に最も近いエネルギー準位に配置している状態です。すなわち原子が持つエネルギーは最低で安定した状態となります。
また、励起状態は、原子が持つエネルギーが基底状態よりも高い状態です。
図1において青色で表しているように、原子が何らかの方法によりエネルギーを受け取った場合に、電子が原子から飛び出さずにより外側のエネルギー準位に遷移することを「励起」といいます。
外側のエネルギー準位にある電子は、容易に原子から飛び出すことができるエネルギーが高い状態です。
電子のエネルギー準位間の遷移について
図2は電子のエネルギー準位間の遷移を表しています。
ここでエネルギ-の大きさはE2>E1とします。
[図2 電子のエネルギー準位間の遷移]
エネルギー準位E1に電子が存在している状態で外部から(E2-E1)のエネルギーを与えると、電子はこのエネルギーを吸収してエネルギー準位E1からエネルギー準位E2に励起します(ポンピング)。
エネルギー準位E2にある原子がエネルギー準位E1に戻るときには、光を放出します。
光の放出には、「自然放出」と「誘導放出」の2種類があります。
「自然放出」は、原子が自発的に光を放出して基底状態に戻る過程です。
また「誘導放出」は、原子に光が照射されると、その光との相互作用で原子が誘導されて基底状態に戻る過程です。
反転分布を形成するためには?
エネルギー準位がE1とE2の2準位の場合、励起によってエネルギー準位E2の電子が増えると、それに伴い誘導放出の割合も増加します。
つまり、エネルギー準位E2の電子密度はある一定値以上にはなりません。
したがって反転分布が形成されません。
そのため実用上、反転分布を形成させるためには、3準位または4準位を使います。
図3に、4準位を使った反転分布を示します。
[図3 4準位を利用した反転分布]
まず、エネルギー準位E1の電子を、ポンピング光により、エネルギー準位E4に励起します。
励起された電子はエネルギー準位E3に遷移します。
エネルギー準位E3の電子は、エネルギー準位E4の電子に比べると寿命が長いため、十分な時間が経過してからエネルギー準位E2に遷移します。
そして、エネルギー準位E2は、エネルギー準位E1に遷移します。
以上の過程から、エネルギー準位E3には電子が多くなり、エネルギー準位E2には電子が少なくなります。
したがって、エネルギー準位E2とエネルギー準位E3との間で反転分布が形成されます。
2. 誘導放出とは?
図4は、電子のエネルギー準位E1とエネルギー準位E2間の遷移を表しています。
遷移には光の吸収か放出を伴います。
このとき、ボーアの振動数条件より以下の式が成り立ちます。
E2-E1=hν
ここで、hはプランク定数、νは光の振動周波数です。
[図4 電子のエネルギー準位間の遷移]
光吸収(励起)は、エネルギー準位E1存在していた電子が、振動周波数νの光を吸収してエネルギー準位E1からエネルギー準位E2に励起する過程です。
このとき、エネルギー準位の差E2-E1と等しい、エネルギーhνの光子を吸収します。
自然放出は、エネルギー準位E2に存在していた電子が、自発的に周波数νの光を放出してエネルギー準位E1に戻る過程であり、このときエネルギー準位の差E2-E1と等しい、エネルギーhνの光子を放出します。
そして、誘導放出は、エネルギー準位E2に存在していた電子が、原子に周波数νの光が照射されることで、その光に誘導されてエネルギー準位E1に戻る過程です。
振動周波数νの入射光により誘導放出されるときは、誘導放出光の位相は入射光の位相と同期します。
したがって、誘導放出光は入射光の振幅強度を強めたように放出されます。
すなわち、弱い入射光から強い放出光を得る光の増幅作用と考えられます。
3. 共振器とは?レーザの構造
誘導放出によって増幅作用が生じますが、レーザ発振するためには、この増幅作用による利得を大きくする必要があります。
レーザの発振原理を説明するために、2枚の平行反射鏡を用いたファブリ・ペロ(FP:Fabry-Perot)共振器を図5に示します。
[図5 ファブリ・ペロ共振器]
ファブリ・ペロ共振器は、反転分布をもつ光増幅媒質と2枚の反射鏡から構成されます。
反射鏡で挟まれた空間を「キャビティ」といいます。
(光共振器そのものをキャビティと呼ぶ場合もあります。)
図5に示すように強度I0の光は、媒質中を進行し反射鏡R1で反射されます。
反射鏡R1で反射された光は、反対側の反射鏡R2により再度反射されて同じ位置に戻ってきます。
このときの光の強度をI1とします。
キャビティ内では誘導放出が起こりI1 >I0となり、光が増幅します。
一方で、光は媒質中を進む際に増幅されると同時に、吸収や散乱を受けて減衰もします。
そのため、レーザ発振するためには、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 光の増幅率が減衰率以上になり、光が減衰することなくキャビティ内に存在すること
- 光がキャビティ内を往復して戻ってきたときに、元の光と同位相で重なり合うこと
これらの条件を満たしたときには、キャビティ内には定在波ができ、レーザが動作します。
レーザが動作する波長をレーザの「縦モード」と呼び、いくつかの波長が存在します。
反射鏡に透過性を持たせることにより、外部に放射される光がレーザ光の出力となります。
(日本アイアール株式会社 N・S)