分析対象の測定場所の絞り込み方法、形状・構造を知る方法《機器分析のキホン③》

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機器分析

当連載コラム の1回目 “「機器分析」とは?「化学分析」との違いは?“と、2回目の “非破壊で定量的に知る方法“では、「何があるのか?それはどれだけあるのか?」を知るための機器分析方法について説明しました。

今回は、では「それはどこにあるのか」、「それはどんな状態であるのか」を分析する方法です。

 

1.《それはどこにあるのか?》測定場所の絞り込み

固体が分析対象である場合、注目する成分がどこに存在するのかが問題になることが良くあります。例えば、ある物質の表面にシミのようなものがあり、シミの原因物質は何か、また一見均一なシミに見えても、実は細かい物質が分散しているのではないか、など、局所的な分析が必要になることが多々あります。

 

試料表面に見られる物質の分布
【図1 試料表面に見られる物質の分布】

 
本当に知りたいのは、この図の赤い部分の成分であるような場合、測定場所を絞り込む必要があることから、観察(イメージング)のできる機器、例えば電子顕微鏡と組み合わせた分析機器を使用するのが一般的です。

 
第1回目のコラムで、機器分析とは「光、電子、熱などを試料に照射して相互作用を起こさせ(励起)、結果として放出される信号(光、電子、熱など)を検出して、電気信号に変えて、試料の素性を知る方法」と説明しましたが、照射に応じて信号を発生する領域は、一般的に照射された場所よりも広く、その広がりは、励起方法、発生する信号の種類によるため、「それはどこにあるのか」を正確に知るためには、照射の広がり相互作用(励起)が起こる範囲そのうち信号が放出される範囲を把握し、それが必要な位置分解能を持っている(つまり範囲が十分に狭い)方法を選ばなければなりません。

 

位置分解能、深さ方向の測定可能範囲
【図2-1 位置分解能、深さ方向の測定可能範囲】

 
上図のように、信号発生領域が深さ方向にも広がっていることにも注意が必要です。

下の図のように信号放出領域がシミの厚さよりも深くまで広がっていると、試料表面のシミの部分を分析したつもりで、試料内部の分析をしてしまっていることになりかねません。

 

試料表面の分析が試料内部の分析になっている
【図2-2 信号放出領域の深さ】

 

局所的な分析が必要になるのは、平面での分布に限りません。固体の表面から、深さ方向にどのように分布しているのかに注目して分析することもあります。これまで説明してきたように、平面的な分布は何とか非破壊的に分析することができますが、深さ方向に、何がどれだけあるかを正確に知るためには、破壊的な分析方法を取らざるを得ません。

励起源あるいは信号として電子線を用いる多くの分析機器では、分析対象試料は真空中におかれますので、分析機器中で、分析面にイオン(例えばAr)をぶつけることで(スパッタリングと呼びます)、少しずつ試料を削りながら新たに表れた表面を分析することで、深さ方向の分布状態を知ることができます。

 

表面を深さ方向に破壊する測定
【図3 表面を深さ方向に破壊する測定】

 
また、同様に分析機器中でエネルギーの高い集束イオンビーム(FIB: Focused Ion Beam)を用い(Gaイオン)、試料に溝を掘ることによって分析したい場所の断面を出し、この断面を分析する方法も広く用いられています。

 

集束イオンビーム(FIB)
【図4 集束イオンビーム(FIB)】

 

2.《それはどのような状態であるのか?》形状・構造の観察

「どのような状態」と言ったときに、最も基本的なのは気体液体固体の別であり、固体の場合には形状の観察も必要になります。

 
形状を知る方法としては、光で励起し、透過(反射)光を眼で検出する光学顕微鏡があります。
もっと微小な形状を知るためには、試料を透過させた電子線で「すかし絵」的に像を得る透過電子顕微鏡TEM:Transmission Electron Microscope)や、電子線を試料上に走査(励起)し、発生する二次電子(信号)を検出して像にする走査電子顕微鏡SEM: Scanning Electron Microscope)が用いられます。

 
固体の場合、各原子がどのように並んでいるのか、結晶構造を知る必要がある場合があります。全体が大きい単結晶なのか、微結晶が集まった多結晶なのか、あるいは非結晶(アモルファス)なのかを調べることも分析の対象です。波長が格子間距離と同程度になる、X線や電子線の回折を用いて、解析します。

 
また、私たちの身の回りにある物質は、有機物だけでなく無機物もほとんどが何らかの化合物になっていますので、どのような組成か、どのような化学結合状態になっているのかを知ることも重要です。
有機物分子の場合、分子振動のエネルギーが赤外線の領域にありますので、赤外線を励起、あるいは信号として用いる分析手段が有効です。

 

ここまで、分析によって知りたい四つの事項、

  1. 何があるのか?
  2. それはどれだけあるのか?
  3. それはどこにあるのか?
  4. それはどのような状態であるのか?

に沿って、機器分析の概要を説明してきました。

 

この先の連載では、いよいよ代表的な機器分析装置について、「知りたいことに適した機器」という視点で説明していきます。次回は、電子顕微鏡(TEM,SEM)と走査プローブ顕微鏡の基礎知識を解説します。

 

(アイアール技術者教育研究所 H・N)

 

【連載:機器分析のキホン】

 

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