3分でわかる技術の超キホン 高透磁率材料の特徴と用途は?(パーマロイ/センダスト/パーメンジュール)

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高透磁率材料の解説

磁性材料には磁場を取り去った状態の磁化が大きい硬磁性材料と、取り去った状態の磁化が小さい軟磁性材料があります。
今回は軟磁性材料の高透磁率材料であるパーマロイセンダストパーメンジュールを紹介します。

高透磁率材料」とは、 外部磁場に対し敏感に磁化する材料のことであり、周波数の高いわずかな交流磁場を印加した場合でも、高い応答性を示す材料です。

1.透磁率とは?

透磁率」は、物質の磁化のしやすさ、物質の磁束の吸収しやすさです。

物質が磁場中に置かれると、物質は磁化されます。
印加する磁場の強さを強めると物質中の磁気双極子モーメントの向きが更に揃い、磁束が増え磁束密度も比例して大きくなりますが、このときの変化率が透磁率です。
透磁率が高いと磁束密度が大きくなる、すなわち物質中を通る磁束線が増えて、物質の磁化が増します。

アルミニウムなどの透磁率が低いものは、物質中に磁束線がほとんど通らず突き抜けますので磁気の吸収率が低くなります。
これに対して鉄やニッケルなどの透磁率が高いものは、物質中に磁束線が通りやすいので磁気の吸収率が高くなります。
 

2.真空の透磁率:μ0

電流の単位のアンペアを追加したMKSA基本単位が提案された際に、物理定数として真空の誘電率ε0および真空の透磁率μ0が、次のように設定されました。

真空中の誘電率:ε0 = 8.854×10-12 [F/m]
真空中の透磁率:μ0 = 1/(c2 ε0) = 4π×10-7 [H/m]

ここで、c = 2.998×108 [m/s] は、真空中の光速です。
 

3.透磁率と磁束密度、磁場の関係

透磁率と磁束密度、磁場の関係について調べてみます。

磁性体は磁場により磁化されますが、磁化は磁性体の単位体積あたり磁気双極子モーメントで、次のようになります。

 M = Nm

ここで、Mは磁化、Nは磁性体内に発生した磁気分極(磁気双極子)の密度、mは磁気双極子モーメント(磁極の磁荷の大きさ×磁極の間隔)です。
磁化Mと磁場Hの関係は、次のようになります。

 M = μ0χmH

ここで、μ0は真空の透磁率、χm は磁性体の磁化されやすさを示す定数である磁化率、Hは磁場です。
磁場H、磁化Mと磁束密度 B の関係は、次のようになります。

 B = μ0H+M = μ0H+μ0χmH = μ0(1+χm)H = μH

ここで、μは磁性体の透磁率となります。

また、真空の透磁率μ0を基準の”1”として、相対的に物質の透磁率を表した比透磁率μsが、
 μs =μ/μ0 = (1+χm)
と定義されます。

強磁性体の比透磁率は、ニッケル:180、コバルト:270、鉄:5000(状態により120~20000)となります。

 

4.透磁率が高い材料とは

磁性材料の透磁率μは、結晶磁気異方性定数Ku、磁歪定数λsが小さいほど高くなることが知られています。

「結晶磁気異方性」とは、結晶の構造・方位によって磁化することが容易な方位と困難な方位が存在する性質で、結晶磁気異方性定数Kuは、この結晶磁気異方性の度合いです。
結晶磁気異方性定数が小さいと、結晶の構造・配向に依存する磁気モーメントの方向を固定するために必要なエネルギーが小さくなります。

また、「磁歪」とは、磁性材料が磁化される際に形状が変化する現象で、鉄の場合は磁化方向にわずかに伸びています。
磁歪の度合いを示す磁歪定数と寸法の関係は、次にようになります。

 λs=(L-L0)/L0

ここで、λsは磁歪定数、Lは飽和磁化状態の寸法、L0は消磁状態の寸法です。

結晶磁気異方性定数Kuが小さい磁性材料は、磁化が容易な方位から困難な方位に変化する際の抵抗が小さく、また磁歪定数λsが小さい材料は、磁化される際の形状変化にともなう抵抗が小さくなります。
したがって、これらの定数が小さい磁性材料は、外部磁場により磁化される際の抵抗が小さく、結果として外部磁場に対して敏感に磁化することが可能になります。
結晶磁気異方性や磁歪は遷移金属原子の形状が球形でなく、ラグビーボールのような回転楕円体でその回転軸が磁気モーメントの方向と一致しているために発現します。
 

5.主な高透磁率材料

次に、軟磁性材料の高透磁率材料の例として、パーマロイ、センダスト、パーメンジュールについて説明します。
 

(1)パーマロイ

基本組成:Fe-(35~80%)Ni

パーマロイ (permalloy)は、透磁率(permeability)が高い合金(alloy)という意味で命名されたFe-Ni系合金です。正の磁歪定数を持ったFeと、負の磁歪定数を持ったNiによる磁歪の小さい合金です。
1920年代に開発されて以来、多くの研究がなされた結果、Cu、Cr、Moなどを添加したパーマロイ系磁性材料が開発されています。
パーマロイは、その特徴である高い透磁率を引き出すために熱処理(焼鈍)されます。

熱処理により、磁区(原子の磁気モーメントの向きのそろった小区域)の動きの妨げになるものを除去し、外部磁界による磁壁の移動、磁区の回転を容易にします。

  • PBパーマロイ」は、代表組成Fe-(40~50%)Niの材料で、パーマロイ系では飽和磁化が大きい合金です。
  • PCパーマロイ」は、代表組成Fe-(70~80%)Niの材料に添加元素(Cu、CuーCrなど)を含有したもので、パーマロイの中では高い透磁率を示します。
  • PCパーマロイの中でも、Fe-79%Ni-5%Mo組成の「スーパーマロイ」は、最も透磁率の高い材料です。

 

《パーマロイの特徴と用途》

パーマロイは、低保磁力かつ高透磁率であり、

  • 磁気シールド効果が高く集磁作用が大きいので、
    ⇒磁気シールドルーム、磁気シールドチャンバー、磁気シールドケース
  • 微細な磁場入力に対する磁化出力が大きいので、
    ⇒磁気センサ
  • 交流の抵抗(電圧と電流の比)を高めるので、
    ⇒各種コイル

などに使用されます。
 

《パーマロイの課題》

パーマロイは電磁鋼板(ケイ素鋼)よりも透磁率の高い材料ですが、比較的高価なニッケルを使用するため、コスト確保が課題です。
 

(2)センダスト

代表組成:Fe-10%Si-5%Al

センダストは、1930年代に開発された三元合金であり、SiとAlの含率の組合せにより高い透磁率が得られます。比較的高価なNiを含まない材料です。

Fe-Si-Al合金の磁気特性を詳細に検討し、パラメータとしてX-Y平面にSiとAlの含率、Z方向に透磁率の等高線を示し、透磁率がピークとなる代表組成を導出しています。

センダストは得られた合金を粉末(ダスト)にして、押し固めて製造されます。
またセンダスト合金に金属(負の磁歪定数を持ったNi等)を添加することにより、磁歪の小さい加工性が向上した合金も得られています。
 

《センダストの特徴と用途》

  • センダストを粉末にして絶縁体とともに押し固めた庄粉磁心(ダストコア)は、自由形状にプレス成型できるので、
    ⇒大電流が流れる電源回路のチョークコア、周波数選別用の同調コイルコアや複雑形状のモータコア
  • パーマロイよりも高い飽和磁束密度をもつ磁心材料耐摩耗性に優れているので、
    ⇒オーディオ、ビデオ用のほかデジタル・ヘッド用磁気ヘッド

などに使用されます。
 

《センダストの課題》

Fe3SiとFe3Alの混晶で、硬くて脆いため鍛造や圧延などは困難なため、加工性に課題があります。
 

(3)パーメンジュール

代表組成:Fe-49%Co-2%V

実用化された軟磁性材料のなかで、最も飽和磁束密度が高い材料です。

金属の磁気モーメントは、ボーア磁子数でFeが2.2、Coが1.7、Niが0.6ですが、スレーター・ポーリング曲線から、FeにCoを添加するとその中間Fe-(30~50%)Coで、磁気モーメントがピークを示し、この領域で最も飽和磁化が大きい合金になります。
 

〈 用語解説(参考)〉

※「ボーア磁子」:電子一個から生ずる磁気モーメントの最小単位。
※「スレーター・ポーリング曲線」:遷移金属合金の原子当たりの電子数と原子当たりのボーア磁子数の関係を示した曲線。(スレーター・ポーリング曲線はこちらのサイトの図[出典:森北出版「化学辞典(第2版)」]をご参照ください。)
 

Fe-Co系合金は規則構造を形成して脆くなるため加工が困難でしたが、Vを添加したFe-49%Co-2%Vにより規則構造の生成が抑制され加工性が改善されました。
また、製造法として、複雑な形状の部品を高精度で製造できる樹脂成形技術と粉末冶金の技法を組み合わせた金属粉末射出成形が適用されるようになっています。
 

《パーメンジュールの特徴と用途》

  • 飽和磁束密度が高い特徴を生かし、製品の小型化、高性能化が計れるので、
    ⇒電子顕微鏡の磁界レンズ、電磁弁、ドットプリンターヘッド、人工心臓用リニアパルスモータ

などに使用されます。

 

《パーメンジュールの課題》

パーメンジュールはパーマロイ、センダストより飽和磁束密度が高い合金ですが、高価で供給が不安定なCo、Vを使用するため、コスト確保、量産性が課題です。

 

6.高透磁率材料の特徴・まとめ

今回紹介した材料の特性を表1に示します。
パーマロイはNi添加により透磁率が高い、パーメンジュールはCo添加により磁化が大きい、そしてセンダストは磁気特性と耐摺動性が良い特徴があります。
 

【表1.特性例】

材料 代表組成 比透磁率 Ms Hc 特徴
(%) Wb/m2 A/m
PBパーマロイ Fe-(40~50%)Ni 5,000 1.5 4 磁化が大
PCパーマロイ Fe-(70~80%)Ni 60,000 1.1 0.8 透磁率が高
スーパーマロイ Fe-79%Ni-5%V 1,000,000 0.8 0.2 透磁率が最高
センダスト Fe-5%Al-10%Si 30,000 1 1.6 硬い、耐摩耗性
パーメンジュール Fe-49%Co-2%V 5,000 2.4 16 磁化が最大

 
高透磁率の軟磁性材料用の合金については、今後の製品の高周波数化と大きな飽和磁化の確保に向けて、電磁鋼板やアモルファス合金も含めて改善が進められています。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 Y・O)
 

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