《伝熱の基礎②》伝導伝熱の必須知識まとめ [フーリエの法則/熱伝導方程式/定常熱伝導/熱抵抗など]

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伝導伝熱

今回は伝熱の3形態のなかで最も基本的な現象である「伝導伝熱」の基礎を解説します。

1.伝導伝熱の具体例

図1のようなフライパンの調理では、ガスコンロの炎からフライパンが受けた熱は鉄板内を移動して具材を加熱します。一方、炎から離れた持ち手部は素手で触れる温度です。

 

フライパン調理での伝導伝熱
【図1 フライパン調理での伝導伝熱】

 

ホットカーペットは主に伝導伝熱を利用する暖房器具です(図2)。
ホットカーペットの使用時に、省エネのために床側への伝熱を抑制するために断熱シートを敷くこともあります。

 

ホットカーペットの伝導伝熱
【図2 ホットカーペットの伝導伝熱】

LSIの冷却において、ヒートスプレッダーを使用することがあります(図3)。
ヒートスプレッダーの設置により、LSIの発熱をより効率的にヒートシンクに伝導させることができます。

 

ヒートスプレッダーによる放熱性能向上(LSIの冷却)
【図3 ヒートスプレッダーによる放熱性能向上(LSIの冷却) ※参考文献1)

 

2.伝導伝熱とは?

物体中に温度差があるとき、熱伝導によって高温部から低温部へ熱エネルギーが移動します。
この移動形態が「伝導伝熱」です。

図4のような断面積がA(m2)、長さがL(m)の丸棒を考えます。
棒の両端がTH、TL(K)、TH>TLで温度一定のとき、熱伝導で移動する熱エネルギー、つまり伝熱量Q(W)は、丸棒の熱伝導率k(W/(m・K))を用いて(1)式となります。

(1)式は断面積と温度差こう配に伝熱量が比例するという経験式です。
また(1)式の比例定数である熱伝導率は物質の成分と温度などの状態によって決まる物性値です。
表1に代表的な物資の熱伝導率を示します。

 

伝熱量

 

丸棒の伝導伝熱
【図4 丸棒の伝導伝熱】

(1)式は、三角柱、四角柱にも適用でき、断面積が軸方向に不変でさえあれば、断面形状が連続的に変化する場合にも適用できます

 

【表1 代表的な物質の熱伝導率 ※伝熱工学資料2)より抜粋】
代表的な物質の熱伝導率

熱伝導率は一般に固体、液体、気体順に小さくなります(例:氷→水→蒸気)。
これは物質の状態によって内部エネルギーの伝播機構が異なる為です。
固体は液体や気体に比べて物質の原子や分子同士が強固に結合しているため、内部エネルギーが速く伝導します。

図2の断熱シートには、発泡ポリエチレンなどのように、熱伝導率が小さい空気を含む多孔質材料が使われます。
多孔質材料のように複雑な構造体では、物性値として材料の熱伝導率を把握することができないため、実測等で熱伝導率を知ることが必要です。

 

3.フーリエの法則

伝熱量Qを断面積Aで割った単位面積当たりの伝熱量qは「熱流束」と呼ばれます。
Lを微小長さと見なすと温度Tの偏微分は(3)式となり、熱流束を表す(2)式と(3)式から「フーリエの法則」と呼ばれる(4)式が得られます。
フーリエの法則は、局所的な熱流束が温度こう配に比例することを意味しています。

 

フーリエの法則

 

4. 熱伝導方程式

物体内の伝導伝熱は、フーリエの法則とエネルギー保存測から導かれる「熱伝導方程式」によって表現されます3)

 

熱伝導方程式(一次元)

熱伝導方程式の右辺第1項は、フーリエの法則に従って微小部分に流入する熱流束と流出する流束の差、第2項のq(W/m3)は微小部分での発熱または吸熱を表しています。
左辺の【密度ρ(kg/m3)】×【比熱c (J/(kg・K))】×【温度の時間変化(K/s)】は、右辺の内部エネルギー変化に対する温度変化を表しています。

 

5. 定常熱伝導

温度が時間変化しない熱伝導を「定常熱伝導」と呼びます。
定常熱伝導では(5)式の左辺がゼロとなるため、熱伝導方程式は(6)式となります。

 

熱伝導方程式(一次元・定常)

ここで電気ヒータのように単位体積あたり qv=10W/cm3 で均一に発熱する厚 L =1cm の平板両面が T1 =300 K、T2 =310 K に保たれている場合の温度分布を考えます。
熱伝導率が温度によらず一定と仮定し、板の両面での温度がT1,T2であることを考慮して(6)式を積分すると(7)式のような温度分布が得られます。

 

熱伝導率

(7)式の熱伝導率に銅とステンレス鋼の値を代入して得られる温度分布を図6に示します。材質の熱伝導率違いによって温度分布が異なり、銅の場合では低温側にのみ熱が移動する温度分布となります。

 

内部発熱がある平板の定常熱伝導
【図6 内部発熱がある平板の定常熱伝導】

 

6. 熱抵抗

伝導伝熱の(1)式は熱抵抗Rf を用いて(8)式のように変形することができます。
この式を電気回路のオームの法則(9)式と見比べると、熱流=温度差/熱抵抗と電流=電位差/電気抵抗との類似の関係にあることが分かります。
一次元定常熱伝導の問題は電気等価回路に置き替えることで、伝熱量の計算や現象の理解が容易になります

 

類似の関係

例えば、異なる部材が積層された図7のような平板の定常熱伝導は、それぞれの部材の熱抵抗を用いた電気等価回路から合成抵抗Raを求めて伝熱量を計算することができます。

 

熱抵抗による積層体の伝熱量計算
【図7 熱抵抗による積層体の伝熱量計算】

図8のような複合体においても、合成熱抵抗を電気回路の合成抵抗と同じように計算でき、近似的に伝熱量を計算することができます。
ただし部材2の熱伝導率が他に比べて極端に小さく部材3に熱流が集中する場合など、一次元からの乖離が大きい伝導伝熱では、単純な等価回路での近似は誤差が大きくなります。

 

熱抵抗による複合体の伝熱量計算
【図8 熱抵抗による複合体の伝熱量計算 ※参考文献4)

 

7. 接触熱抵抗

図7,8では、積層体の接触面は図9-(a)のように完全に接触していている理想的な状態を前提としていました。しかし実際の接触面は、図9-(b)のように微視的には接触部が限られているため熱伝導が阻害されて界面に温度差ΔTが発生します。
一次元定常熱伝導では接触面の伝熱量Qが一定となるため、QとΔTから(10)式で計算される接触熱抵抗Rcを用いて接触部の熱伝導を表現できます。接触熱抵抗は部材の熱抵抗と同様に等価回路の抵抗として扱うことができます。

 

接触部の熱伝導

 

接触熱抵抗
【図9 接触熱抵抗 ※参考文献4)

実際の製品において接触熱抵抗の影響は無視出来ないことが多く、接合面に熱伝導率の高いグリスを塗布するなど、接触熱抵抗を減らす工夫が施されています。
接触抵抗は計算でも実験的でも正確な値を求めることは難しく、様々な接触抵抗の評価方法と接触抵抗の低減技術が研究されています5)

 

8. まとめ

伝導伝熱はフーリエの法則に基づく熱伝導方程式で表現されます。
簡単な現象であれば熱伝導方程式を解析的に解くことができますし、複雑な形状や条件でも比較的簡易なシミュレーションで数値解を得ることもできます6)

また熱伝導方程式を解かなくても、熱抵抗を用いた電気等価回路で伝導伝熱の理解が容易になるケースは多くあります。
例えば、図3のヒートスプレッダーはLSIからヒートシンク左端フィンへの熱伝導パスを増やす、つまり並列回路によって熱抵抗を下げてフィン全体への熱伝導を促進する機能部品と理解できます。

 
次回は対流熱伝達について解説します。

 

(アイアール技術者教育研究所 技術士(機械部門) T・I)

 


《引用文献・参考文献》

  • 1)魏「スパコンの熱設計」伝熱 59-249(2020),9-14
    https://www.htsj.or.jp/wp/media/2020_10.pdf (参照 2023-02-09)
  • 2)日本機械学会,伝熱工学資料 改定第5版、V.物性編,(2022)
  • 3)日本機械学会,JSMEテキストシリーズ「伝熱工学」第2章.(2005)
  • 4)日本機械学会,伝熱工学資料 改定第5版、Ⅰ.基礎編,(2022)
  • 5)「特集:接触熱抵抗の評価と低減」伝熱 59-246(2020),1-36
    https://www.htsj.or.jp/wp/media/2020_1.pdf (参照 2023-02-09)
  • 6)国峯他「熱設計と数値シミュレーション」,(2015),オーム社 など

 

【連載:伝熱の基礎】

 

 

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