3分でわかる技術の超キホン 断熱材料の基礎知識|熱伝導と断熱材の仕組みをやさしく解説
地球温暖化問題、円安によるエネルギー価格や電気代の高騰・・・、対象が地球規模の話から身近な生活の話とかけ離れていますが、普段使用する空調の温度を少し調整することで二酸化炭素排出量削減と省エネが期待できます。
そこで、冷房設定温度を1,2℃上げても暖房設定温度を1,2℃下げても快適に過ごすためには熱制御技術が重要になってくるのです。
熱制御技術とは、熱の発生、貯蔵、放出、遮断、伝導、変換などの各要素技術やその組み合わせを総称していますが、それぞれの要素技術は我々の生活のいろいろな面に関わっています。
今回は、熱制御技術の中でも、我々が日々使用する住宅や家電に密接に関わる熱の遮断、いわゆる断熱技術について説明するとともに、新しい断熱材料として注目されているシリカエアロゲルもご紹介します。
1.断熱材とは?
まず「断熱材料」について説明します。
「断熱」とは読んで字のごとく、熱を遮断することであり、このために利用される素材を断熱材と呼びます。
断熱材の身近な例としては、住宅用建材を思い浮かべることができますし、冷蔵庫、給湯器、エアコン配管などの家電製品や、魚河岸や市場で使用される保冷箱にも断熱材は用いられています。
断熱材の性能の比較には一般的に熱伝導率が用いられますので、図1に断熱材以外の材料を含めて代表的な材料の熱伝導率を比較してみます。
【図1 各材料の凡その熱伝導率(測定方法、測定環境などによって若干異なる)※引用1)】
一般に熱伝導率の値が低い方が断熱性能に優れているので、断熱材に使用するには適しています。
熱伝導率の値を低くすることができれば、同じ断熱性能を確保するのに断熱材料の厚みを薄くすることができます。
例えば冷蔵庫で説明しますと、冷蔵庫外壁の熱伝導率を下げることによって、同じ外形寸法、同じエネルギー消費で内容積を大きくできたり、同じ内容積であればエネルギー消費を下げたりできるのです。
図1から、固体は熱伝導率が比較的高く(低くても樹脂類の0.1W/m・K程度)、気体の熱伝導率は比較的低いことが分かります。
一般的に断熱材と呼ばれる材料は、熱伝導率が0.02~0.1W/m・Kの材料で、繊維体や発泡体などの形状にして内部に空気層を保持した材料になります。
2.熱伝導のメカニズム
次に、熱伝導(熱の移動、伝熱)の簡単なメカニズムについて説明します。
熱伝導も熱制御技術の要素技術の一つですが、詳しくは別の解説に頼ることとし、ここでは断熱のために必要な部分だけを取り上げます。
熱の移動は、「熱伝達(伝導)」、「対流」、「熱輻射」の3種類の熱の伝達方法によって起こります。
「熱伝達(伝導)」は、外部からの熱エネルギーによって材料の分子、原子あるいは自由電子が大きく振動され、その振動が徐々に近傍の分子、原子あるいは自由電子に伝わっていく現象によって起こります。
「対流」は、気体や液体などの流体に温度差ができたときに起こる熱移動です。
気体分子や液体分子は固体と異なり自由に場所を移動することができる(自由運動)のですが、気体や液体の一部に外部から加熱すると加熱された部分の分子の自由運動が激しくなり別分子との衝突が頻繁に起こすようになります。加熱されていない部分の分子との衝突によって加熱された分子のエネルギーが徐々に伝搬していく現象が対流です。
「熱輻射」は、熱源から発せられる電磁波(赤外線など)による熱移動で、熱源に直接接触していなくても熱が伝達します。
電磁波によるエネルギーの移動なので空気などの媒体は必要なく、真空でも熱伝導が起こります。宇宙空間の中で地球は太陽によって暖められていますが、太陽は我々が関わる最も大きな輻射体になります。
図2では、小学校の理科実験で扱ったような形にして熱伝導メカニズムの模式図を示しています。
【図2 熱伝導のメカニズムの模式図】
ビーカーに入った水をガスバーナーで加熱すると、ビーカーの底から徐々にビーカー全体が熱くりますが、この現象が「熱伝達(伝導)」です。
暖められた水はビーカーの中を循環して徐々に全体が温まりますが、この現象が「対流」です。
また、ガスバーナーの横から手をかざすと熱源に接触していないのに手が暖まりますが、この現象が「熱輻射」です。
3.断熱材の仕組み
先程、熱伝導率がおよそ0.02~0.1W/m・Kの材料を断熱材と述べましたが、その構造や材質についてもう少し詳しく説明します。
図3は主な断熱材料の分類を表しています。それぞれについて、コスト、耐久性、取り扱い性などについて、メリットとデメリットが有りますので、用途と目的に合わせて選択することになります。
【図3 主な断熱材の分類と特徴】
繊維系と発泡系の違い
一般に、繊維系よりも発泡系の方が断熱性に若干優れていますが、これは素材そのものの熱伝達性能の違いにもよりますが、材料内部での空気層の保持方法の違いも大きく影響しています。
図4は、繊維系と発泡系の熱伝導の違いを模式図で示しています。
【図4 繊維系と発泡系の熱伝導の違いを示す模式図】
(a)に示した通り、繊維系では表裏で空気層が繋がっていて断熱材を通しての空気対流が起こりますので、対流に対する抑制効果が小さくなります。
これに対して、(b)に示した発泡系では断熱材によって表裏の空気層を遮断しているので対流による熱伝導は気泡の中でのみ起こります。この気泡径を小さくすると、気泡内の気体分子の自由運動を抑えることができるので、更に対流による熱伝導を低くすることができます。
また、繊維系では繊維の間隙は基本的に空気ですが、発泡系では二酸化炭素やシクロペンタンなどの熱伝導率の低い気体を発泡剤として使用して気泡の中に封じ込めておくことができるので、更に熱伝導を抑えることもできます。
4.従来技術での断熱性のは限界?注目はシリカエアロゲル
以上、今回は各種材料の熱伝導率、熱伝導のメカニズム、断熱材の仕組みなど、断熱材の基礎知識について説明しました。
この記事でご紹介した高分子系の発泡材料や発泡成形は、その断熱性能のみならず軽量化などの観点から自動車業界で注目されています。
その一方で、高倍率発泡などの従来技術での低熱伝導率化は既に限界に近いであろう値0.02W/m・Kに達していると思われます。
また、グラスウールなどの繊維系断熱材を真空パックした真空断熱材は、熱伝導率0.002W/m・Kと高性能ではありますが、他の断熱材に比べて高コストであるなどのデメリットが顕著です。
このような状況下、繊維系でも発泡系でも真空系でもない新規な断熱材としてシリカエアロゲルが注目されています。シリカエアロゲルは熱伝導率0.015W/m・Kが見込まれており、今後の動向が期待されます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 F・F)
《引用文献・参考文献》
- 1)清水, 日本接着学会誌, 55, 199-206(2019)
- 2)大村ら, 熱分析, 30, 92-97(2016)
- 3)近藤ら, 日本建築学会環境系論文集, 73, 1361-1368(2008)
- 4)JIS A9511、JIS A9521に記載の熱伝導率の値を抜粋