3分でわかる技術の超キホン 配糖体とは?分類・性質・機能等の概要と強心配糖体の例
糖類は、ヒトだけでなく、ほぼすべての動植物の生命の維持に欠かせない物質として知られています。
また、最近の研究結果からも糖の重要性がさらに認識されるようになってきています。
様々な糖類が広くまた数多く存在しますが、糖が関連する医薬品も沢山あります。中でも糖が他の有機化合物と結合している「配糖体」と呼ばれる医薬品が近年多く使用されるようになっています。
そこで今回から数回にわたる連載コラムとして、配糖体の医薬品に関する基礎知識をご紹介します。
配糖体とは?
糖と糖以外の有機化合物とが結合した物質を「配糖体」といいます。
より具体的には、糖のアノマー水酸基が、糖でない化合物とグリコシド結合した化合物です。
グリコシド結合とは、糖と他の化合物が脱水縮合して形成された共有結合で、糖部以外の部分をアグリコン(aglycone)、または、ゲニン(genin)といいます(図のR部分)。
配糖体の種類・分類
- グルコース(glucose)が結合した配糖体をグリコシド(glucoside)、リボース(ribose)が結合した配糖体をリボシド(riboside)といいます。
- 糖が直接結合する原子の種類により、O-グリコシド(O-配糖体、酸素原子に糖鎖が結合)、S-グリコシド(S-配糖体、硫黄原子に糖鎖が結合配糖体、炭素原子に糖鎖が結合)に分類されます。
- 二次代謝産物に結合する単糖はアルドース(aldose)とケトース(ketose)に大別されます。前者はアルデヒド基、後者はケトン基を有する糖をいいます。配糖体を構成する単糖はほとんどアルドースであり、ケトースの例としてはフルクトース(fructose;果糖)のほかごくわずかです。
- 結合する糖のアノマー配向によって、α-グリコシドとβ-グリコシドに分けられますが、天然配糖体は、β体が多く存在します。
- 糖が1か所に結合したものをモノデスモシド(monodesmoside)、2か所に結合した配糖体をビスデスモシド(bisdesmoside)といいます。
配糖体の性質
一般に、配糖体は水溶性が高いものが多くあります。
したがって、漢方薬などは、水(熱水)で抽出されやすく、また配糖体の中に紛れ込むように疎水性成分も同時に抽出されてきます。
漢方薬など多くの伝統医薬において薬効上でも配糖体の存在は極めて重要となっています。
また、C-グリコシド以外の配糖体結合は、通常は酸で加水分解されて、アグリコンと構成単糖になります。
配糖体の結合は、アルカリには比較的安定であるものが多いようです。
なお、糖にみられる還元性は、アグリコンに類似の官能性がない限り、配糖体では認められなくなります。
配糖体の吸収性・安全性
一般に、配糖体は疎水性の生体膜を透過しにくいのですが、消化酵素や腸内細菌などによって加水分解され、アグリコンとなって消化管から吸収されるようになります。
アグリコンは疎水性で吸収されやすいものが多いので、配糖体は経口投与に適したものといえます。
例えば、甘草の主成分であるグリチルリチン酸は、腸内細菌により加水分解を受け、グルクロン酸部分が遊離し、抗炎症作用を有するグリチルレチン酸へと代謝されて吸収されます。
また、配糖化、特にグリコシル化を化学修飾した機能性化合物の水溶化は、天然成分である糖を結合させるため、安全性も高く、極めて有効な手段といえます。
配糖体の意義
一般的に、配糖体を形成することによって、水溶性、吸収性、安定性、薬効の増大、低毒化されることが知られています。また、配糖体化することによって物性が大きく変化することから、生理活性物質の機能調節や、物質の貯蔵、解毒などに寄与すると考えられています。
たとえば、アジスロマイシンは、アミノ配糖の水酸基の極性により、アミノ基が分子態となった後、すなわちpKa以上のpHにおいても一定の水溶性を維持しているものと予想されています。
他にも、抗生物質バンコマイシンの糖鎖部を改変すると耐性菌に対しても活性を持つなど、配糖体の糖鎖部が生物活性に重要な役割を担う場合があることがわかってきました。
また、抗悪性腫瘍剤のエトポシドは、D-グルコース配糖体にしたことで、ポドフィロトキシンの毒性を軽減されたとしています。
医薬品に関連する配糖体としては、数多くの配糖体が存在しますが、今回は「強心配糖体」についてご紹介いたします。
強心配糖体とは?
強心配糖体とは、強心作用を有するステロイド配糖体をいいます。
ゴマノハグサ科、キョウチクトウ科、ユリ科、キンポウゲ科糖の植物に含まれています。また、両生類動物の中には、シナヒキガエルのように強心作用を有するステロイドを分泌するものがあります。
強心配糖体のアグリコン部分、その他の強心ステロイドには、化学構造上の共通点があります。
- 炭素数が概ね23~24
- 各環の結合様式が、C/D環はcis結合、A/B環の多くがcis結合となっている
- 3位および14位にβ-配置の水酸基を有する
- 17位にβ-配置の5員環不飽和ラクトンまたは6員環不飽和ラクトンを有する(※5員環不飽和ラクトンを有するものを「カルデノリド」、6員環不飽和ラクトンを有するものを「ブファジエノリド」といいます)
- 強心配糖体の糖部分の構造では、ジギトキソースのようなデオキシ糖を有する
カルデノリドの例としては、ジギトキシン(Digitoxin)、ジゴキシン(Digoxin)、G-ストロファンチン(g-strophanthin)、ブフェジエノリドの例としては、プロスシラリジンA(Proscillaridin A、植物由来)、ブファリン(bufalin、シナヒキガエルの皮腺分泌物、主成分はブフォトキシン) があります。
一例として、ジギタリスを取り上げてみます。
ジギタリスは、心筋の機能低下を伴う水腫、浮腫の治療薬で、薬効成分はジギトキシン(Digitoxin)という強心配糖体です。
作用機構としては、心筋細胞膜のNa+/K+ ATPaseとNa+ポンプを阻害することによるとされています。
すなわち、Na+/K+ ATPaseの阻害によって細胞内のNa+が外に能動輸送されずに濃度が上昇てし、細胞の内外の勾配が減少します。その結果、Na+を排出するのに代替となるNa+/Ca2+の交換機構が働いてNa+が排出され、かわりに心筋細胞内のCa2+が増加して心筋の収縮が増すと考えられています。
なお、ジギトキシンは、経口摂取した場合、消化管からの吸収が良く、半減期は4~6日とされ、体内への残留時間が長いことから、中毒を起こす場合があり、投与は注意を要します。
ちなみに、スズランの成分はコンバラトキシン(convallatoxin)やコンバロシド(convalloside) といったものが知られており、これらは強心配糖体で構造がジギトキシンなどと似ています。
また、福寿草の毒性はアドニトキシン(adonitoxin)によるもので、これもステロイド配糖体でジギトキシンと似た構造を持っています。
配糖体医薬品
他にも配糖体である医薬品には、例えば、下記のようなものが挙げられます。
- 抗菌剤:アミノグリコシド系抗生物質、マクロライド系抗生物質等
- 糖尿病治療剤:SGLT2阻害剤
- 抗腫瘍剤:アントラサイクリン系抗生物質
配糖体医薬品それぞれについては、次回以降の連載でご紹介していきます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
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