【技術者のための法律講座】共同研究開発に関わる法律問題のポイント

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共同研究開発に関わる法律問題

共同研究開発とは?

製造業技術者(研究者も含みます。以下同様)である皆さんは、自分が所属する企業、研究機関等以外の機関と共同で技術開発や研究開発を行う機会が多々あると思います(以下、これを「共同研究開発」と呼びます)。

共同研究開発とは、文字通り、特定の技術や製品の研究開発を複数の企業・機関が分担して行うことを意味します。
近年、技術の複雑化、多様化、業際化の進展、そして研究開発費の増大等により、技術開発を行っている企業だけでなく、大学や公的研究機関でも、単独ですべての研究開発活動を行うことは困難になってきています。
このような共同研究開発は、一対一の場合もありますが、二以上の機関同士や、複数の機関からなる技術研究組合によって行われる場合もあります。

このうち、技術研究組合は「これまで、ナショナルプロジェクトの受け皿として利用されることが多く、特殊な組織としての認識が強かったが、一般企業でも活用が可能」(Wikipedia、「技術研究組合」より)とのことで、今後ますます盛んになるでしょう。経済産業省の資料によると、「技術研究組合は、複数の企業や大学・独法等が共同して試験研究を行うために、技術研究組合法に基づいて、大臣認可により設立される法人」と説明されています。技術研究組合は、税制での優遇措置を受けられる等の特徴があるとのことです。

≪技術研究組合に関する参考資料(平成30年5月 経済産業省 技術振興・大学連携推進課)≫

この資料①によると47の技術研究組合が存在するとのことです。

また、「活用類型」として、

  1. 「異業種連携 研究型」(同種の製品・サービスを提供していない事業者同士が、それぞれの強みを生かしつつ、共同で研究開発を行っているもの)
  2. 「同業種連携 研究型」(同種の製品・サービスを提供している事業者(同業者)同士が、共同で研究開発を行っているもの)
  3. 「垂直連携 研究型」(製品・サービスを直接に受発注する関係にある事業者同士が、共同で研究開発を行っているもの)
  4. 「実証型」(研究開発成果を実用化するために、大規模な実証実験を行っているもの)
  5. 「共同利用型」(事業者(同業者等)が自ら共同で利用する性能評価試験方法などを研究するもの)

の5種類の類型が挙げられています。

一般の企業同士の共同研究開発も、多くは上記の類型に該当するのではないでしょうか?
また、技術研究組合は法人格を有しており、「各種取引の主体や登記等の名義人になることができます(雇用、賃貸借契約、金融機関 の口座開設、資産の保有・管理、行政許認可申請、不動産登記、特許権の登録など)。」(資料②より)。
 
さて、話が少し脱線しましたが、ここで「共同研究開発」の一般論について考えてみましょう。

(1) 共同研究開発の利点

  • 研究開発の効率化
  • 当事者の技術力、人力の相互補完
  • 研究開発費用の軽減
  • 研究開発期間の短縮
  • 研究開発の成果の事業化における相互補完(新規分野への参入が可能になるなど)

 

(2) 共同研究開発の問題点

  • 研究開発戦略の複雑化
  • 研究開発成果の非独占化(原則として研究開発成果は、当事者双方の共有となる)
  • 研究開発成果の利用についての法的諸制約(原則として研究開発成果は共有であり、第三者へのライセンスについては相手方の承諾が必要である)
  • 研究開発成果の事業化の複雑化
  • 研究開発成果の管理面の複雑化

以上を見ると、研究開発が成功し、その成果を利用する段階(事業化、ライセンス等)に至った時点で、当事者間の利害関係の調整は非常に複雑となるケースが多々あることがわかります。

このため共同研究開発においては契約が特に重要になってくるのです。
 

「共同研究開発契約」のポイント

共同研究開発契約に盛り込まれる主な項目としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 共同研究開発の目的、範囲、分担
  • 共同研究開発の費用負担
  • 研究開発成果の帰属
  • 研究開発成果の実施
  • 産業財産権の取得保全
  • 研究開発成果の公表
  • 研究開発成果の第三者への実施許諾
  • 秘密保持義務
  • 契約期間

それでは実際に共同研究開発契約を締結する際に問題となることが多いポイントについて考察してみましょう。

共同研究開発の形態

同一施設内にて共同で行うか、役割を分担して個々に異なる場所・施設で行うか、新たに研究開発組織を設立して行うか、など。
 

情報交換と秘密保持

契約で規定することではありませんが、先ず共同研究開発開始以前に、各当事者が独自に保有していた情報を明確化し、保護する必要があります。このため、自己の関連情報をまとめて、公証役場で確定日付を取得したり、独自の発明は予め特許出願しておくなどの対応を検討します。
 

費用負担の明確化

研究開発費を均等負担とするか、役割分担に沿って、自己の分担に従って負担するか、一方当事者が全額負担するかなどを予め明確にします。
 

期間と進捗状況の確認

共同研究開発の期間とその間の進捗状況を確認する時期・方法を決める必要があります。なお、共同研究開発期間が終了しても、秘密保持義務は通常残存します。
 

研究成果の帰属

共同開発研究により得られた発明、意匠の創作、著作権、ノウハウなど成果の帰属を明確に規定する必要があります。一般的に両当事者が複雑に関与していること及び共同研究開発に対する両当事者の立場などを考慮して、共同研究開発の成果である上記の権利は両当事者の共有とする場合が多いようです。また、発明者等がいる方の当事者に権利を帰属させたり、双方が成果の創出に寄与した場合は貢献度に応じて共有持分の比率を決めることもあります。相手方に無断で出願等を行うと、後日トラブルになりますので、都度両当事者協議を行い、発明者、考案者、意匠の創作者などを確認し、その帰属を決定する方が好ましいです。
特許法等では「特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができない。 」(特許法第38条)と定められています。よって、契約に「産業財産権を受ける権利は甲及び乙の共有とする」と規定した場合、当事者のいずれかが特許出願を拒んだ場合、その共同発明を特許出願することはできません。
 

権利共有の場合の実施権(企業同士の場合)

特許法等では、権利が共有の場合であっても、各当事者はそれぞれが自由に実施することができます(特許法73条2項「特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。」)。
しかし、同業者同士の共同研究開発で、双方同様の事業形態場合、企業間の力関係の強弱により、製造、販売等に不均衡が生じます。したがって、このような場合、弱い方の当事者は契約のあり方を慎重に検討する必要があります。
一方、異業種間や製造と販売、部品・原料と完成品のように双方の事業形態、実施事業が異なり、実施についてうまく棲み分けられる場合は、「自己実施自由の原則」に従ったり、「実施分担特約」で解決できるかもしれません。
なお、第三者へのライセンス(実施許諾)については、特許法は「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができない。」(第73条3項)と規定していますので、相手方は勝手にライセンスすることはできません
 

権利共有の場合の実施権(企業と公的研究機関、大学との契約の場合)

共同研究開発の一方の当事者が大学や公的機関であり実施権を行使しない場合は、他方当事者である企業側は、多くの場合大学等から実施料を要求されます(「不実施補償」と呼ばれています)。
また、大学等は単独でライセンスできる権利を求めてくる場合や、企業としても単独でライセンスを希望する場合もあるでしょう。予め、それぞれの内部調整し、ポリシーを決め、相手方と事前協議しておいた方が良いでしょう。
なお、不実施補償を拒否する企業側の論理は「自己実施自由の原則」(特許法73条2項)に従う、すなわち本来実施権を有する特許権についての実施契約となり法的に不合理である、というものです。
一方、大学等側としては相手方から実施料を徴収することが当然には認められていないとすれば、大学等に一方的に不利ということになります。
これに対して「共有物分割請求」という考え方がありますので、企業の方も大学等の方も知っておいた方が良いでしょう。

※参考
『「不実施補償」とは、共有物分割請求をしないことの対価(共有物分割請求をしたのと同一の経済的価値の分配をするための手段)である。』
(出典:産学連携と法的問題 第2回 「不実施補償」要求の法的根拠 より)
 

学会発表・論文発表等

企業同士の共同研究開発の場合はあまり問題になりませんが、一方の当事者が大学等である場合、大学等は早期に学会発表を希望することが多々あります。
大学における研究の本来的な目的が、研究成果を世の中に還元すること、研究者の学問的なプライオリティーの確保であることを考えれば、これは当然のことかもしれません。
一方、企業としては、研究成果を完全に権利化し、独占権を確保することが最重要課題ですから、なるべく発表を遅らせたいというのが本音でしょう。
企業の立場からは、大学側の発表をいかにコントロールするかが問題となります。
 
 
(日本アイアール株式会社 A・A)
 

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