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ラグビー男子日本代表チームが、2019年ワールドカップで初のベスト8入りを果たした事実は今更語るまでもありません。その屋台骨を支えた選手たちの出身大学で目を引くのは、帝京大学です。
日本代表チームが2015~2019年のワールドカップで一躍世界の注目を浴びたのと同様に、この帝京大学も、大学ラグビー界で一挙に強豪校の座に躍り出ていたことをご存知でしょうか。
帝京大学は、1996年の岩出雅之監督就任後の約10年間、学生日本一を決める全国大学選手権大会で上位の成績を残すことができませんでした。
しかし、岩出監督が指導方針を180度大転換してから数年経った2008年に準優勝して以来、2009年から2017年まで9年間連続優勝という、大会始まって以来の快挙を成し遂げました。
スポーツ心理学の教鞭もとる岩出監督がとった新しい指導方針とは、一体どんなものだったのでしょうか。
岩出監督の新しい方針は、人材育成の観点から画期的と言える様々な方策を含んでいますが、特に大きなポイントは、いわゆる体育会系の「下級生は上級生に絶対服従」の強固なヒエラルキーを排除したことです。
詳しくは監督ご自身の著書をぜひお読みいただくことをお勧めしますが、監督自身の育ってきた文化でもある体育会系の組織を否定し、上級生が下級生に押し付けていた雑用を、上級生にやらせるようにしたといいます。このとき、監督自らが先頭に立って部員寮の掃除をするなど、リーダー自らが模範となる努力をしたということです。
すると、大学に入学したばかりで余裕のない下級生は、ラグビーの練習に打ち込めるようになりました。
上級生は、下級生を思いやり組織の運営を考えて努力するようになり、社会人に必要な組織運営の考え方を学生のうちから学べるようになりました。
さらに、尊敬できる上級生というロールモデルができたことで、下級生がそのような上級生になることを目指すようになり、この伝統が代々受け継がれるようになりました。
このような組織づくりに成功したら、チーム競技の代表格であるラグビーも、同時に強くなっていったというのです。
ラグビーは、力押しの真っ向勝負の次の瞬間には素早いパス回しでボールが運ばれていくという、目まぐるしいゲーム展開のスポーツであるため、プレーヤーは瞬時に適切な判断をしてボールを出す必要があります。
これは、グローバル化とITの発達による業務のスピードアップで、様々な要因を考慮しての難しい判断をその場で迫られる現代の製造業技術者の置かれた環境に似ているかもしれません。
次の瞬間のリスクがどんなものかも予測不可能な時代。こんな状況を40年前にガルブレイスは「不確実性の時代」と呼びましたが、帝京大ラグビー部の大変革は不確実性の時代の製造業における人材育成にも大きなヒントとなってくれるのではないでしょうか。
ポイントは、
「組織のリーダー自らが範を示すこと」
によって、
「フラットで柔軟な組織でありつづけること」
と考えられます。
でも、どうしてこのようなフラットで柔軟な組織であることが必要なのでしょうか。
人生に変化をもたらす出来事が大きなストレスになると心理学で示されているように、激しい変化にさらされること自体に、人は大きなストレスを感じます。
現代の職場では、仕事そのものに変化が激しく、それだけで大きなストレス源になっていると考えられます。
その上に自分の会社の人間関係や、意思決定に時間のかかる上意下達の組織の在り方自体がストレスとなっていたら、それこそストレス過剰で脳が情報を処理しきれず、効率よい仕事ができなくなってしまうでしょう。
頭脳労働の能率が低下すること自体、技術者と会社にとっては死活問題となります。
また、このような状況が続くと、技術者は会社を離れ、企業としての存続自体も難しくなるでしょう。
現代の製造業において優秀な技術者を育て、働き続けてもらい、最先端の変化に富む仕事に対処するために、その他の要因による余計なストレスを排除して、安心して働けるフラットで柔軟な組織づくりに会社をあげて取り組まなければならないのです。
これに取り組めるかどうかが、次の10年を生き延びられる組織かどうかの試金石なのかもしれませんね。
(アイアール技術者教育研究所 M・H)
<参考文献>
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