- 《大好評》LTspice設計実務シリーズ
LTspiceを活用したEMC設計基礎から設計応用(セミナー)
2024/12/19(木)10:00~16:00
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ノイズが電磁波として空間に放出されるのは、回路(ケーブルを含む)のどこかがアンテナになっているからであり、ノイズを空間から受けて回路にノイズ電流やノイズ電圧が発生するのは、回路(ケーブルを含む)のどこかがアンテナになっているからです。
今回は、当連載の前回の記事「電磁波シールド・電波吸収シートによるノイズ対策」に続く空間伝導への対応の2回目として、不要な電磁波を送信、受信するのを抑制するために必要な、アンテナとケーブルの基本知識を解説します。
目次
基本的なアンテナの形としては、ダイポールアンテナ、モノポールアンテナ、ループアンテナ(微小ループアンテナ)があります。意図せずに、回路の一部がこれらのいずれかのアンテナになってしまっていることが、ノイズの問題を引き起こします。
【図1 基本的なアンテナの形】
ダイポールアンテナは、2本の導体を上下対称に広げた形で、この導体のことを「エレメント」と呼びます。
エレメントの間に信号源をつなぐとエレメント間に電界が発生して空間に放出されます(図2)。
【図2 ダイポールアンテナの構成】
ダイポールの長さと放出される電界の強度の関係は図3の通りです。
ですから、放出される電界の強度を大きくしたくなければ、ダイポールの長さを、電波の波長の1/2以下のできるだけ小さい値にしなければなりません。
【図3 ダイポールアンテナのダイポール長さと電界強度の関係】
図4のようにエレメントの角度を小さくしていくと、電界強度は小さくなり、さらに小さくして平行にすると、平行板コンデンサの漏れ電界のように非常に小さくなります。
【図4 ダイポールアンテナのエレメント角度と電界強度】
モノポールアンテナは、ダイポールアンテナの片方のエレメントを良導体や地面など(グランド)に接続した形で、グランド下側に上部のエレメントと同じ長さのエレメントが接続されたアンテナ、すなわちダイポールアンテナと同様に働きます。
【図5 モノポールアンテナ】
ループアンテナには、アンテナの長さが電磁波の波長と同じ「1波長ループアンテナ」とアンテナの長さが波長より非常に小さい「微小ループアンテナ」がありますが、EMCでよく問題になるのは後者です。
ループに電流が流れると、右手の法則に従ってループを貫くような磁界が発生して空間に放出されます。
放出される磁界の強度は、ループの面積に比例するので、ループの線の長さが同じでも、つぶした形にした方が、放出強度は弱くできます。
【図6 ループアンテナでの磁界発生の様子】
回路基板上で、配線パターンが意図せずにアンテナになってしまう例を紹介します。
図7で、IC1からIC2に信号が送られていますが、IC2の入力抵抗が大きい場合、信号線(黄色)と戻り線(黄色)の先が開放されたような状態になり、二つの線でダイポールアンテナが形成されます。影響を低減するためには、戻り線を赤の点線のように配線し、信号線と戻り線を近づけます。
【図7 配線パターンで形成されるダイポールアンテナ】
このように配線を近づけることは、ダイポールアンテナのエレメントの角度を小さくしていくことに相当します(図8)。
【図8 配線パターンを近づけることによる、放出される電界強度の低下】
図9のように表面の配線だけでは問題がなさそうでも、裏面配線との組み合わせで、ループアンテナが形成されることがあり、注意が必要です。
【図9 スルーホールで結ばれた表面配線と裏面配線によるループアンテナの形成】
ケーブルは、空間伝導によるノイズを最も発しやすく受けやすい回路要素です。
ここでは、EMC対策の観点から、代表的なケーブルである、平行ケーブル、ツイストペアケーブル、シールドケーブル(同軸ケーブル)について、説明します。
平行ケーブルは、電源線などに用いられ、家電などでもおなじみの2線のケーブルです。
図10のように各線に電流が流れると、右手の法則に従って黒矢印のように磁界が発生し、空間に広がっていきます。このように平行ケーブルは、電磁界を放射しやすく、逆に電磁界の影響も受けやすいため、EMC対策には不向きです。
【図10 平行ケーブル】
ツイストペアケーブルは、図11のように、電線を2本対で撚り合わせたケーブルです。
【図11 ツイストペアケーブル】
図12のように各線に電流が流れた時、2本の線で囲まれた領域に右手の法則に従って発生する磁界は、紙面下向き(×)と紙面上向き(・)が交互に現れます。
その結果、隣同士の磁界が打ち消しあって、ツイストペアケーブルからは、ほとんど磁界が発生しません。
【図12 ツイストペアケーブルに電流が流れた際に発生する磁界の様子】
ツイストペアケーブルを貫通する磁界がかかった場合には、発生する電流の向きが隣同士で反転しているので、空間伝導に起因する電流は、ケーブルにはほとんど流れません。
【図13 ツイストペアケーブルに磁界がかかった場合に発生する電流の様子】
そのため、ツイストペアケーブルは、EMC対策としてよく使われます。
シールドケーブルは、芯線が金属網線等で囲まれているケーブルです。
この金属網線等がグランドに繋がれてシールドとして働き、ケーブルで発生する電磁界をケーブル内に閉じ込めるとともに、空間伝導して来たノイズが芯線に影響を与えることを防ぎます。
図14では芯線が2本ですが、もっと本数の多い、様々なシールドケーブルが製造されています。
同軸ケーブルは、芯線がケーブルの中心に1本あり、金属網線との間はポリエチレン等の絶縁体で埋められています。もともと、高周波信号を伝送するために作られているもので、JIS等で電気的、機械的な規格が定められていますが、単なるシールドケーブルとして用いることも、当然問題はありません。
同軸ケーブルを含むシールドケーブルは、優れたEMC対策になります。
【図14 シールドケーブル】
以上、今回はノイズ・EMC対策として押さえておくべきアンテナとケーブルの基礎知識をご紹介しました。
次回はEMC試験について解説します。
(アイアール技術者教育研究所 H・N)