3分でわかる技術の超キホン エレクトロクロミズムとは?色変化の例や注目の用途を解説

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エレクトロクロミズムの色変化と応用例

エレクトロクロミズム(EC)って何?

物質の色は、その物質が持つ”電子状態”によって決まります。
従って、物質から電子を取り除く、若しくは電子を注入して電子状態を変化させることで、その物質の色を変化させることが出来ます。
このような電子の出し入れ、つまり電気化学的な酸化還元反応によって、物質の光物性が可逆的に変化する反応を「エレクトロクロミズム(EC)」と呼びます。
エレクトロクロミック分子には酸化還元活性な有機物や金属塩、金属錯体があります。
 

エレクトロクロミック分子の色変化の例

下の図1に示すように、有機物のビオロゲンは一電子還元を受けると、そのラジカル種に起因して緑色を呈します。そして酸化によって無色に戻ります。

green
  【図1. ビオロゲンの酸化還元】
 

図2の化合物は中性状態では無色ですが、二電子酸化されると深青色のジカチオン種へと変化します。

blue
  【図2. ジカチオン性色素】
 

図3に示した化合物は高分子タイプのエレクトロクロミック分子です。
この分子は電極酸化/還元のいずれの過程でもエレクトロクロミズムが発現されます。
中性状態では鮮やかな黄緑色ですが、一電子酸化されてラジカルカチオン種になると濁った黄緑色に、一電子還元されたラジカルアニオン種では紫色に、さらに二電子還元されたジアニオンでは黒色に変化します。
マルチカラーエレクトロクロミック分子と言えますね。
purple
  【図3. 高分子タイプエレクトロクロミック分子】
 

d電子を有する金属塩錯体は多彩な色調の変化を示します。
例えば、トリス(1,10-フェナントロリン)鉄(Ⅱ)錯イオン[Fe(phen)3]2+はMLCT由来の吸収極大波長510 nmで、赤色を呈します。酸化されると青色に変化します。
また、LMCT由来する発色の代表的な化合物は過マンガン酸イオンMnO4-(赤紫色)があります。
Mn7+はd軌道が空の状態ですから、配位子の酸素原子から電子遷移が容易に起こります。還元されると、緑色のMnO42-に変化します。Ni2+(緑)とNi3+(黒)の可逆な酸化還元反応もあげられます。
red
  【図4. 金属塩と金属錯体のエレクトロクロミズム】
 

実用例と今後期待される展開

近年ボーイング787の窓や車の防眩ミラーとしてエレクトロクロミック材料が実用化されたことで広く知られています。今後も調光デバイスとしての利用が期待されます。
 
また、エレクトロクロミズムを用いた電子ペーパーは紙に代わる次世代の表示デバイスとも言われています。
電子デバイスのように何度も書き換えることが可能であり、かつ紙のように目に優しくフレキシブルな表示を実現できます。このエレクトロクロミックディスプレイは新聞等の紙媒体の代わりとして期待されています。現在「電子ペーパー」はモノクロ(白黒)表示が主流で、カラー化が技術的な課題となっています。電子ペーパーのフルカラー化を目指す場合、豊富な色調を容易に表現できる可逆的な発色材料の開発は重要です。
 
一般に、無機系のエレクトロクロミック材料は安定性に優れますが、色が限定されて、エレクトロクロミック反応の速度も遅いです。
有機系のエレクトロクロミック材料は分子修飾により色彩の調節は可能ですが、安定性に問題があります。
そこで、一つの開発アイデアとしては、前述の単分子ではなく、複数のクロミック分子を利用した混合物(ポリマー)システムの開発です。

例えば、独立行政法人物質・材料研究機構の樋口昌芳先生らによる、ポリマーの主鎖に金属原子を含有する有機高分子―金属の複合材料はその一つで、金属に対して強い配位性能を有するビスターピリジン型モノマーに関する特許が出願されています。[※特許文献1]
単一金属及び複数種金属(Fe, Co、Ni、Zn)の導入により、それぞれの金属原子と配位子間の相互作用に由来する豊富な色調の変化が注目されます。[※特許文献2]
これらの金属イオンは、それぞれ異なる酸化還元電位を有しますので、1つの高分子材料は、複数の発色と消色とを電位によって容易に制御することができます。

詳細は下記の特許公報をご参照ください。(※特許庁のJ-Platpat:文献番号照会はこちらからどうぞ)

  • 特許文献1:特許第5062711号
  • 特許文献2:特許第5062712号

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)

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