エッジコンピューティングって何?製造業でのメリット・応用例をわかりやすく解説

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エッジコンピューティングの解説(工場DX,IoT)

皆さんは「エッジコンピューティング」という言葉を知っていますか?
このキーワードでネット検索をかけると、たくさんの検索結果が出てきます。

ここでは、エッジコンピューティングの概要と求められる背景、メリット・デメリットについて解説し、最後に産業分野でのエッジコンピューティングの応用について簡単に述べたいと思います。

1.エッジコンピューティングとは?

エッジコンピューティングとは「ネットワークの末端(エッジ)にサーバを設け、可能な限りこの末端に設けたサーバ(エッジサーバ)で処理を完結させるスタイルのネットワーク形態」のことを言います。

近年、ほとんどのネットワークはクラウドサーバを設けたクラウドコンピューティングの形態をとっています。産業用のネットワークにクラウドコンピューティングを適用した場合、センサなどの物理デバイスはこのクラウドサーバとネットワークを介して直接通信が行われます。

 

クラウドコンピューティングとエッジコンピューティング
【図1 クラウドコンピューティングとエッジコンピューティング】

 

これに対して、エッジコンピューティングでは、図1の右側に示すように物理デバイスとネットワークの間に独立したサーバ(エッジサーバ)を設けることで、物理デバイスからのデータ処理をこのエッジサーバ内で可能な限り完結させます。

もちろん、エッジサーバには上位のサーバとしてクラウドサーバが接続されていますが、エッジサーバとクラウドサーバとの間では必要最小限のデータしかやり取りが行われません。つまり、収集したデータをできるだけエッジサーバ内で自己完結して処理するということになります。

なお、「エッジコンピューティングはクラウドコンピューティングを置き換えてしまうもの」という論調がありますが、実際のネットワーク構成では、エッジサーバとクラウドサーバは接続されており、必要なデータはクラウドサーバに送信されていることを留意しましょう。

一般的には、クラウドサーバへ送信されたデータによってより高度な意思決定が行われる場合が多いです。具体的には、経営判断や生産管理があげられます。つまり、エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングは互いのメリットを生かしつつ、相補い合っているということになります。

 

2.エッジコンピューティング登場の背景

工場などの産業分野ではIoT(モノのインターネット)化が進んでいます。
産業分野のIoT化は、製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)化の具現化です。

具体的には、設備をネットワークで結び統合制御することで、稼働の最適化を図り、設備の要所にセンサを設けてデータを自動収集することで、データ駆動型(データドリブン)の生産管理を実現することなどです。
また、究極的には、人工知能(AI)を導入することにより、今まで熟練の技術者が経験と勘で行っていた業務をコンピュータが代行するということもあり得るでしょう。
スマートファクトリー
つまり、いままでの「自動化」では、人間の「作業」を自動化していましたが、人間の「判断」や「推論」といった「知能化」が産業分野では求められているのです。これにより、人間の負担を減らし、あるいは、人間は人間にしかできない、より高度な作業や意思決定を行うようにするのが、製造業のDXとその具現化であるIoT化の狙いといえます。

このような生産設備のIoT化はIT技術の進歩に支えられています。
また、主にインターネットを使用したネットワーク技術の進歩や、センシングの技術、また、人工知能に代表されるソフトウェア技術の発達もまた後押ししています。

一方、実際に生産設備のIoT化を進めるにあたっては以下のような問題が発生します。

 

(1)ネットワークのレイテンシ(遅延)の問題

上述したように、従来のクラウドコンピューティングでは、センサや各種装置などの物理デバイスは、クラウドサーバにネットワークで接続されています。

ネットワークを介してクラウドサーバにアクセスすると、どうしても遅延(レイテンシ)が発生します。
設備の規模が小さく、データ量が少ない場合にはこれでも間に合うかもしれません。

しかし、設備の規模の増大あるいは、製造効率が上がってくると発生するデータの量や種類がどんどん増えてきます。
また、必要とされる処理スピードも上がってきます。産業用ロボットのようなリアルタイムに近い制御を要求される場合には、さらに処理スピードの速さが要求されます。

このように処理のスピードが要求される場合、クラウドコンピューティングにおけるネットワークのレイテンシの問題が無視できなくなってくるのです。

 

(2)セキュリティの問題

また、別の問題として、セキュリティの問題があります。

クラウドサーバにはデータが集中して蓄積されます。そしてクラウドサーバと物理デバイスは多くの場合インターネットで接続されています。
このため、何らかの手段でクラウドサーバのセキュリティが破られると、集中して蓄積されているデータがすべて外部に流出してしまう可能性があります。

 

3.エッジコンピューティングのメリット

エッジコンピューティングは、クラウドコンピューティングのみの場合に比べて以下のようなメリットがあります。

 

(1)レイテンシの影響を抑えられる

エッジコンピューティングでは、エッジサーバに接続された物理デバイスのデータを極力ネットワークを介さずに自己処理します。そして、処理の結果のみをクラウドサーバに送信します。
このため、ネットワークのデータ量を減らすことができ、レイテンシの影響を抑え、結果的にシステム全体のスピードの低下を抑制することができます。

また、リアルタイム性を求められる産業用ロボットなどの制御には、ネットワークを介さず処理できるため、例えば緊急停止のような場合には特に有効と考えられます。
人間でいえば、手・足・目・耳からの情報をいちいち脳で処理するのではなく、脊髄反射で処理するようなものと言えるかもしれません。

 

(2)セキュリティ対策がしやすい

クラウドコンピューティングでは、ネットワークに接続された物理デバイスからのデータがクラウドサーバに集中して蓄積されます。
これに対して、エッジコンピューティングでは、データは生産設備に設置されたエッジサーバにそれぞれ分散して蓄積されます。

このため、一度セキュリティが破られるとデータ全体が流出してしまう可能性のあるクラウドコンピューティングと違って、セキュリティ対策がやりやすいと言えます。

サイバー攻撃をおこなう方にしてみれば、複数のエッジサーバのそれぞれに対して攻撃を行う必要があり、攻撃が成功するハードルは高くなります。

また、仮にセキュリティを破れたとしてもデータの一部しか手に入らないわけですから、サイバー攻撃を行うメリットはクラウドサーバに対するものに比べて格段に低くなると考えられます。
結果としてサイバー攻撃を受ける可能性は、ゼロではありませんが、比較的低くなると思われます。

 

4.エッジコンピューティングのデメリット

一方、エッジコンピューティングのデメリットには以下のようなものがあります。

 

(1)イニシャルコストが高くなりがち

比較的規模の大きな工場では、導入する際にエッジサーバを複数設置することが多いです。
このため、一台のクラウドサーバで間に合ったクラウドコンピューティングに比べ、導入コスト(イニシャルコスト)が高くなりがちです。
また、ソフトウェアもエッジコンピューティングに対応したソフトウェアが必要となり経費がかさみます。

このため、現状では、ある程度の規模の工場でなければ導入するコストメリットが少ないというのがエッジコンピューティングの課題の一つといえます。

 

(2)維持管理のハードルが高い

エッジコンピューティングは、クラウドコンピューティングに比べてシステムが複雑になりがちです。
また、工場のあちこちにエッジサーバが設置されることになるために、担当者の手間が増えます。
このため、維持管理には専門の業者と相談しながらの工夫が必要となります。

 

5.エッジコンピューティングの応用分野

次にエッジコンピューティングの応用を見ていきましょう。

一例として「エッジAI」について説明します。
エッジAIとはエッジサーバに人工知能(AI)を載せたものです。

従来はクラウドサーバにAIエンジンを載せた「クラウドAI」が主流でした。このクラウドAIは現在も使われています。

しかし、産業分野ではデータの量が多く、処理のスピードも要求されます。このため、生産現場で発生したデータをクラウドAIで処理しようすると、どうしてもネットワークのレイテンシの問題が生じ、処理のスピードが不足することになります。

そこで、エッジコンピューティングを導入し、エッジサーバにAIを搭載して、エッジサーバ内で処理を自己完結するようにすることで、システム全体の処理スピードの増加を可能にしました。

 

ハイブリッド型AI

現在AIの手法として用いられているニューラルネットワーク(NN)の深層学習(ディープランニング)では「学習」が必要になります。

そのため、例えば製品検査などでは、予めエッジAIとクラウドAIにそれぞれ同じNNを用意しておきます。
図2のように、エッジAIで検査を行い、誤検出や不良品のデータをクラウドAIに送り、そのデータを使ってクラウドAIで学習を行います。そのうえで、学習結果をエッジAIに送り、エッジAIの設定を変更します。

このようなAIを「ハイブリッド型AI」といい現在の主流になっています。

 

外観検査にハイブリッド型エッジAIを導入した時の概念図
【図2 外観検査にハイブリッド型エッジAIを導入した時の概念図】

 

一般的に、エッジサーバよりもクラウドサーバの方が大量のデータを蓄積しています。
しかも、エッジサーバからは誤検出や不良品のデータのみがクラウドサーバに送られてきます。
そして、この大量のデータを使ってクラウドAIで学習を行うことで、学習の精度はより高くなっていきます。
ハイブリッド型のAIは、エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングのそれぞれのメリットを生かした方法といえるでしょう。

 

予知保全

また、エッジAIの別の応用としては「予知保全」があります。
製造装置にセンサを取り付けて置き、センサからのデータを常時監視します。
そして、そのデータから「このまま稼働を続けると故障する」というタイミングを検出し、故障が発生する前に部品の交換などの対策をとるという技術です。

予知保全の考え方は昔からありました。
生産ラインには必ず保守担当の技術者がついており、「そろそろ、あそこが故障するな」という、技術者の長年の経験や勘で故障を事前に予測し、故障を起こす前に対策を打っていました。
つまり、これまでの予知保全は人間の経験や勘に頼っていたのです。

しかし、このような豊かな経験を有した技術者が不足してきており、生産ラインの適正な維持管理が年々難しくなってきています。そのため、AIを使用してこの人間の判断をコンピュータに代行させるというのが現在の予知保全技術の開発の方向性となっています。

予知保全をエッジAIで実現するメリットとして、クラウドAIに比べ処理スピードが速いために、センサデータの異常を検出してから警報を発するまでの時間が短いことがあげられます。
センサデータの異常検出から実際に故障が発生するまでの時間は、生産ラインの種類や稼働状況によって様々ですが、できるだけ素早く故障を検出することが、エッジAIによる予知保全では重要です。

また、処理のスピードが速いということは、より多くの種類のセンサデータを処理できるということでもあります。様々な種類のセンサデータを収集して、総合的に判断することで、故障予知の判断の精度を上げることができます。

エッジコンピューティングはこれからの産業分野になくてはならない技術です

 

5.工場のIoT化とエッジコンピューティング

以上、エッジコンピューティングについて簡単に見てきました。

工場などの産業分野では、これからますますIoT化が進んでいくことは間違いありません。
工場ネットワーク上に流れるデータ量の飛躍的な増大に対応することは不可避な問題になってきています。
エッジコンピューティングはこのような問題に対する有効な回答の一つとなるはずです。

 

(日本アイアール株式会社 F・S)

 

 

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