3分でわかる技術の超キホン e-gasとは?メタネーションの基礎からやさしく解説
目次
1.e-gasとは?
「e-gas」とは、二酸化炭素CO2と再エネ由来の水素H2から製造される合成メタンで、「e-fuel」と同様にCO2を資源化して利用するCCUSの手段の一つです(図1)。(※「e-fuel」の解説記事はこちら)
都市ガスのカーボンニュートラル化の手段として、合成メタンと、その製造技術であるメタネーションの社会実装に向けた取組が官民一体で推進されています1)。
【図1 CCUS における合成メタンの位置づけ】
(経済産業省カーボンリサイクル技術ロードマップ2)から引用)
2.合成メタンとその利用方法
都市ガスの多くはメタンを主成分とする天然ガスを原料としているため、合成メタンは都市ガスに近い特性となり(表1)、既設の都市ガス機器やインフラで合成メタンを利用できると考えられています。
【表1 燃料ガスの特性比較】
現在、様々な合成メタンの利用方法が検討されています。
例えば、図2(a)は、特定の設備や工場などで発生するCO2を合成メタンに変換して、設備や工場内で循環利用する方法です。
(b)は地域で発生するCO2を回収してメタンを合成、ガス導管で地域に合成メタンを配送する方法です。
さらに海外で製造した合成メタンを天然ガスと同様に液化して輸入し、国内で気化して利用する方法(c)も検討されています。
都市ガスのインフラを利用することで、(a)、(b)、(c)が連携した合成メタン利用が可能となります。
【図2 合成メタンの利用イメージ ※参考資料4)】
3.メタネーション
CO2とH2からメタンCH4を合成するメタネーションの基本的な反応は(1)式です。
H2の製造には、再エネ電力を用いた水電解(水の電気分解)が利用されます。
(1)式と(2)式をまとめると(3)式となり、メタネーションは、CO2とH2Oからメタンを合成する反応とも言えます。
(1)式には、化石燃料からの工業原料合成に利用されてきたサバティエ反応が利用されます。
(1)サバティエ反応
サバティエ反応とは、高温高圧化での触媒反応によりCO2とH2からメタンを合成する反応で、ノーベル化学賞受賞者であるフランスのポール・サバティエが発見しました。
触媒にはニッケル系材料が使用され、反応温度は300~500℃で制御されます。
サバティエ反応は発熱を伴う平衡反応であるため、メタン合成量を増やすために、反応器を加圧水で冷却する、H2Oを凝縮除去する、水素を段階的に供給する等の工夫が施されます。
また反応温度を下げるためのルテニウム触媒も研究されています5)。
図3は再エネ電力による水電解①とサバティエ反応②でのメタン合成のエネルギー変化を模式的に示したものです。実際の反応では①、②それぞれに損失が有り、投入エネルギーからメタンへの変換効率は55~60%程度になります6)。
【図3 メタン合成での熱力学エネルギーの変化】
(2)ハイブリッドサバティエ反応
ハイブリッドサバティエ反応は、サバティエ反応の発熱を水電解に利用して変換効率を高める方法です7)。
サバティエ反応を低温化し、水電解とサバティエ反応を一体化して熱利用効率を高めることで、変換効率が約80%まで向上すると期待されています8)。
(3)PEM-CO2還元反応
PEM-CO2還元反応は、PEM(Polymer Electrolysis Membrane 高分子電解質膜)を用いて約80℃の温度でH2OとCO2から直接メタンを合成する電気化学反応(図3、③)です7)。
図3に示したように①、②を経由しないためエネルギー損失が小さくなることも期待されますが、メタン合成の反応抵抗が大きく、変換効率は約60%と試算されています8)。
低温反応の利点を活かすことで、設備の低コスト化、大規模化、起動停止の容易化などを目指した研究が進められています。
(4)SOEC共電解
SOEC(Solid Oxide Electrolysis Cell 固体酸化物形電解セル)は、蒸気を電解して水素を製造する、電気化学反応デバイスです。
作動温度が700℃以上と高く、多くの熱エネルギーを電解に利用できるため、電力使用量を低減することができます6)9)。
SOECはCO2も電解できるため、SOECでH2O(蒸気)とCO2を共電解して得られるH2とCOの合成ガスからメタンを合成する技術が研究されています((4)~(6)式)。
このSOEC共電解によるメタネーションでは、85%以上の高い変換効率が期待されています6)8)。
4.e-gasの主な課題
e-gas(合成メタン)には、e-fuelと同様の課題があります。(※「e-fuel」の解説記事はこちら)
(1)水素の価格/再エネ電力の価格
合成メタンの価格は、e-fuelと同様に原料となるH2価格、再エネ電力価格に強く依存します。
そのため図2(c)のように、再エネ電力が豊富な海外で合成メタン等を製造して国内に輸入する、あるいは海外からH2を輸入することが検討されています。
(2)CO2の回収技術
CO2回収にはエネルギーが必要であり、図2(b)で工場等からのCO2100%回収や、家庭用ガス給湯器からのCO2回収は現実的ではありません。
合成メタンを持続的に供給するためには、e-fuelの場合と同様に、CO2を大気中から回収する技術(Direct Air Capture 略称DAC)が必要となります。
(3)CO2排出量カウント方法
e-fuelの場合と同様に、図2(b)において排出されるCO2の排出責任を、CO2を回収し合成メタンを製造した事業者が負うのか、合成メタン利用者が負うのかという、CO2排出量カウントの問題があります。
この問題に対する国内議論が始まっています7)。
(4)熱量変動
合成メタンを既設の都市ガス導管に導入する場合、合成メタンの混合割合によって、燃料ガスの熱量が変動します。
精密な温度制御が必要な工業炉や燃料電池では、熱量変動が工業製品の品質低下や性能低下を引き起こす懸念があります10)。
ガス供給元での熱量制御や、ガス機器の改修等の対策が必要となるため、社会的なコスト負担増とCO2低減を両立させる導入シナリオの策定が必要です。
5.都市ガスのカーボンニュートラル化へ向けて
都市ガスのカーボンニュートラル化の手段として、合成メタンの活用検討が急速に進んでいます。
しかし、合成メタンの製造には再エネ由来のH2が大量に必要となり、製造過程でエネルギーも損失するため、現在消費している都市ガス全量を合成メタンに置き替えることは現実的ではありません。
都市ガスの用途に応じて、電化、H2への燃料転換、合成メタン活用などの対策が選択されていくことが予想されます。
(アイアール技術者教育研究所 技術士(機械部門) T・I)
《引用文献・参考文献》
- 1)経済産業省 メタネーション推進官民協議会
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/methanation_suishin/index.html - 2)経済産業省 カーボンリサイクル技術ロードマップ改訂版 2021年7月
https://www.meti.go.jp/press/2021/07/20210726007/20210726007.pdf - 3)佐藤「安全に関わる水素の性質」安全工学 44(2005)378-385
- 4)経済産業省 第6回 産業構造審議会 産業技術環境分科会 グリーントランスフォーメーション推進小委員会 資料1 2022年4月14日
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/green_transformation/pdf/006_01_00.pdf - 5)井上 他「多角バレルスパッタリング法で調整したRu/TiO2触媒における熱自立CO2メタン化反応の検討」富山大学研究推進機構水素同位体科学研究センター研究報告39(2019)9-15
- 6)大阪ガス 「2030年合成メタン導入に向けた挑戦」第6回メタネーション推進官民協議会 資料5 2022年3月22日
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/methanation_suishin/pdf/006_05_00.pdf - 7)東京ガス 2021年12月22日プレスリリース資料
https://www.tokyo-gas.co.jp/news/press/20211222-01_01.pdf - 8)資源エネルギー庁 「合成メタンに関する最近の取組と今後の方向性」 第7回メタネーション推進会議 資料3-1 2022年4月19日
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/methanation_suishin/pdf/007_03_01.pdf - 9)水澤 他「共電解を利用したSOEC 型メタン製造システムに関する定常サイクル計算」燃料電池 14-4(2015),81-86
- 10)資源エネルギー庁 「熱量バンド制に関する機器調査への影響調査報告」第11回ガス事業制度検討ワーキンググループ 資料4 2019年12月25日
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/gas_jigyo_wg/pdf/011_04_00.pdf