意外と知らないDHA・EPA|化学的な特徴は?含有している動植物は魚類のみ?
健康食品の分野で「DHA」と「EPA」をよく目にします。
これらは物質として化学的・物理的にどんな特徴があるのでしょうか?
またこれらは自然界ではどこに存在するのでしょうか?
今回は、身近な存在ながらも意外と知られていないDHAとEPAの基礎知識をご紹介します。
1.DHAとEPAの名称について
「DHA」も「EPA」も略称であり、脂肪酸の仲間です。その名称が構造そのものを表しています。
DHA(Docosahexaenoic Acid, ドコサヘキサエン酸)に関する表記と構造式を表1に示します。
DHAは炭素数が22で、二重結合を6個有する脂肪酸です。正式名称のDocosa(ドコサ)が22を、hexa(ヘキサ)が6を、enoic(エン)が二重結合を表しています。略号で22:6と表記されます。
またDHAはω3(オメガ3)またはn3系列に属すると言われます。これはCOOH基とは反対側の炭素から数えて3つ目の炭素に二重結合が存在することを表したものです。
【表1-1 DHAの表記と化学式・構造式】
表1-2に示すようEPA(Eicosapentaenoic acid, エイコサペンタエン酸)も同様です。
EPAは炭素数が20で、二重結合を5個有する脂肪酸です。正式名称のEicosa(エイコサ)が20を、penta(ペンタ)が5を表しています。
【表1-2 EPAの表記と化学式・構造式】
2.DHAとEPAの特徴とは?(他の脂肪酸との比較)
DHAとEPAを、炭素数が近い他の脂肪酸と比較したのが表2です。
DHAとEPAの不飽和度が高い(多数の二重結合を有す)ことが分かります。これは、両者の酸化安定性に乏しいという欠点にもなりますが、表右列に示したように両者が低融点という特性を持つ理由でもあります。
アラキドン酸(略号20:4)もよく知られた脂肪酸であり、低融点を示します。ただし、DHAとEPAがω3なのに対してアラキドン酸はω6の系列であり、生合成ルートがDHAやEPAとは異なることが知られています。
【表2 DHA・EPAと他の脂肪酸の比較】
3.DHA・EPAはどこに存在するか《生産者は魚じゃない?》
DHA やEPAは天然の産物です。
では具体的にどの動植物の体内に存在するのでしょうか?
表3は代表的な動植物に含まれる油脂の組成を比較したものです。
【表3 動植物が含有する油脂の組成1),2)】
表3から、DHAとEPAは魚類にのみ含まれており、陸上の動植物には含まれていないことが分かります。
いわゆる「魚臭い」という臭いは、酸化されやすいDHAとEPAの酸化生成物による臭いだとされています。
しかし、これは魚類が自らの体内でDHAとEPAを生産することは意味しません。
海中の藻類がDHAとEPAの真の生産者であり、これを餌とする魚類に蓄積されるという経路がよく知られています。各藻類のDHAやEPAの生産濃度も既にかなり解明されています1)。
4.微生物の活用が進む?今後のDHA・EPA生産
DHAやEPAの安定的な供給を目的に、現在、微生物を用いた工業的な発酵生産が模索されています3)。その際の微生物としては、藻類だけではなく高生産性が期待できる細菌(バクテリア)も検討されています。
魚を経由しないDHAやEPAが消費者に届くようになる可能性もあります。
関連技術の今後の動向に注目しましょう。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》
- 1) 鹿山光, AA, EPA, DHA-高度不飽和脂肪酸, 恒星社厚生閣(1995)
- 2) 齋藤洋昭, 高度不飽和脂肪酸について, 中央水産研究所研究報告 第14号, 59-78(1999)
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010612482.pdf - 3) 小川拓哉, EPA,DHAをつくる有用細菌, 生物工学97(10), 619(2019)
https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9710/9710_biomedia_4.pdf