3分でわかる技術の超キホン D-アミノ酸の特徴って何?要点整理はこれでOK!

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Dアミノ酸の解説

長い間、タンパク質を構成するアミノ酸はL型のアミノ酸のみと思われており、細菌以外の生物にはD型アミノ酸は存在しないものと一般的に考えられていたことから、D型のアミノ酸はあまり注目されていませんでした。
しかし、近年の分析技術の向上に伴い、植物、高等動物などにもD-アミノ酸が広く存在することが明らかになってきており、D-アミノ酸の機能や代謝、栄養面についての研究も盛んにされるようになりました。

今回のコラムでは、多くの報告がなされるようになったD-アミノ酸について、代表的な特徴をざっとまとめてみました。

D-アミノ酸の存在・分布について

微生物をはじめ、植物、動物等々におけるD-アミノ酸の存在については多くの報告がされています。
 

微生物

D-アラニンとD-グルタミン酸はいずれも、細菌細胞壁ペプチドグリカンの必要不可欠な構成成分として知れらています。

グラム陽性茵の細胞壁の構造は、N-アセチルムラミン酸とN-アセチルグルコサミンが交互にβ(1→4)結合したコポリマーの乳酸部分にL-アラニル-D-グルタミル-L-リジル-D-アラニル-D-アラニンが結合し、リジン残基のε-アミノ基にはさらに、グリシンのペンタマーが結合しています。
ペンタグリシンの末端アミノ基がD-アラニル-D-アラニン部分と反応し、末端のD-アラニンが1分子遊離するとともに架橋が形成され、ペプチドグリカンになります。これによって強固な網目構造が形成され、菌体を保護しているのです。

架橋部分のテトラペプチドは細菌によって利用されているD-アミノ酸が異なる場合もあり、D-アスパラギン酸や D-セリンおよび D-リシンなども報告されています。

D-アミノ酸の含有率は地球上に初期に出現した生物ほど多く、特に細菌は多くのD-アミノ酸を含有しており、古細菌や真核生物になるにつれD-アミノ酸の含有量は低くなるとの報告もされています。
 

魚介類・甲殻類

タコ・イカの脳神経系やムラサキイガイ、アカガイにD-アスパラギン酸があることが発見されています。

また、エビ・カニなどの甲殻類のほとんどの組織にD-アラニンが存在しています。
特に筋肉、肝臓、すい臓は豊富で、全アラニンに対する比率は、30-60%にも達することが知られており、これらはアラニンラセマーゼによって生合成されています。
D-アラニンは、ハマグリやアサリの異歯亜網のいろいろな組織中に存在していますが、一方で、ホタテ、マガキ翼形亜網にはD-アラニンはほとんど存在しないとされています。

また、海藻にもD-アラニン、D-アスパラギン酸が顕著に存在しており、ヒジキやスジメにも多く含まれています。
 

植物

植物にも多くの種類のD-アミノ酸が存在することがわかってきました。

例えば、エンドウには、D-アラニン、N-マロニル‐D-アラニン、D-グルタミン酸、D-アスパラギン酸が、ほうれん草等にはN-マロニル‐D-トリプトファンが存在することが見出されています。また、リンゴの果汁には、D-アスパラギン、D-アスパラギン酸、D-セリン、D-アラニンなどが検出されており、その他スイカ、パパイア、マンゴー等の多くの果実にD-アミノ酸が発見されています。その他種々の植物にいろいろなD-アミノ酸があることが報告されていますが、N-マロニル‐D-アラニンのように、高等植物におけるD-アミノ酸の多くは、遊離型としてよりもN-アシルまたは特殊ペプチドとして存在していることが多いようです。

これらのD-アミノ酸の由来としては、例えば、エンドウにおけるD-アラニンは、植物体内で生成や代謝が行われていると考えられています。

一方で、微生物が生成したD-アミノ酸を植物が吸収することも考えられ、その含量は生育した場所によって異なるともいわれています。実際、リンゴの葉や果実中に含まれている D-アミノ酸とその木が育てられた土壌中の D-アミノ酸の種類は良く一致しているとの報告もあります。
 

昆虫

ナガカメムシの血中にD-アラニンが存在することが知られています。
また、カイコガには D-セリンが存在し、その部位が中腸、卵巣、精巣、脂肪体に限定されること、およびD-セリンが各器官内でそれぞれ産生されているという報告があります。
 

動物

哺乳類の体液や組織中にも遊離のD-セリンやD-アラニンがかなりの濃度存在することが明らかにされています。
また、ミミズやカイコにD-セリンが存在することが知られています。
ラット脳、マウス大脳には、高濃度の遊離D-セリンが存在するとの報告があります。遊離D-セリンは哺乳類の大脳に高濃度に分布しているのですが、小脳にはほとんど存在しないようです。ヒト脳も同様とされています。
また、鶏の卵を保温すると、その中でD-アスパラギン酸レベルが変動するとの報告がされていたり、節足動物の変態時にD-アミノ酸濃度が一過的に上昇することなどから、D-アミノ酸と分化・成長との関係も注目されています。
 

食品

植物(野菜、果物、穀物など)を原料とする食品も多量のアミノ酸が含まれています。
また、チーズやワインなどの発酵食品にも種々のD-アミノ酸が数%~数10%も含まれていることが報告されており、例えば、味噌や醤油には、D-アラニン、D-グルタミン酸、その他多種類のD-アミノ酸の存在が認められています。

食品中のD-アミノ酸は、原料由来のもののほか、製造工程における加熱、微生物による発酵等々によって生成・混入する場合があります。
例えば、ビールに含まれるD-、L-アミノ酸の割合は、ビールの原料と製造に用いられる微生物の種類に大きく依存しているとの報告がされています。
また、乳酸発酵純トマト酢の生産段階のうち、乳酸菌が関与する乳酸発酵工程の後にD-アミノ酸濃度が顕著に増加し、またD-アミノ酸の種類も増えるという結果も得られています。
 

D-アミノ酸の味は?

昆布のうまみ成分であるグルタミン酸には、鏡像異性体(光学異性体)であるL-グルタミン酸とD-グルタミン酸が存在しますが、旨味をもつのはL-グルタミン酸であり、D-グルタミン酸には呈味性がほとんどありません

その他のアミノ酸も、L-体とD-体は異なる味を呈することが知られています。
D-アラニン、D-フェニルアラニン、D-セリン、D-トリプトファン、D-ロイシン、D-バリンなどは、それらのL-アミノ酸より、かなり強い甘味性を持っています。
例えば、D-アラニンはさわやかな強い甘みがあり、砂糖の3 倍甘く、D-トリプトファンに至っては35倍甘いというデータもあります。カニや甘エビの甘さはD-アラニンに由来しているのではないかともいわれています。

D-アミノ酸の味質修飾効果について検討された報告もされており、D-アスパルギン酸、D-グルタミン酸、D-プロリン、D-アラニンを添加したそばつゆは、無添加またはL-アミノ酸添加のものと比較して、まろやかな味わいになるとされています。

また、日本酒の味にD-アミノ酸が関係しており、生酛造りのものや長期熟成のものにD-アミノ酸含有量が高くなる傾向がみられ、なかでも、D-アスパラギン酸、D-アラニン、D-グルタミン酸が多く含まれている日本酒は、官能評価試験で好評価だったという報告もされています。実際、D-アミノ酸含量を増強した酒が発売されているようです。
 

D-アミノ酸の消化・吸収について

食品中のD-アミノ酸は小腸で吸収されていることが確認されています。
ただし、たんぱく質中のD-アミノ酸(結合型 D-アミノ酸) を分解する消化酵素は今のところ発見されておりませんので、吸収されるのは遊離型D-アミノ酸だけと考えられています。
小腸での吸収にはトランスポーターが関与していると考えられており、既知のトランスポーターがD-アミノ酸を輸送しているという報告がされています。
 

D-アミノ酸の生合成酵素

D-アミノ酸は、外部から取り入れるほか、生体内で合成される場合があります。
生合成には酵素が関与していることがわかっています。
 

ラセマーゼ

L-アミノ酸からD-アミノ酸を生合成する酵素は「ラセマーゼ」といわれ、これまで10数種類のアミノ酸ラセマーゼが見いだされています。補酵素としてピリドキサール5’-リン酸(ビタミンB6の補酵素形)を必要とするものがあります。

細菌の細胞壁に含まれているD-グルタミル酸やD-アラニンは、いずれもアミノ酸ラセマーゼによって合成されています。

アラニンラセマーゼは、細菌の必須酵素であり、すべての細菌が持っている酵素です。シクロスポリンAを生産するカビの TolyPocladium niveum もアラニンラセマーゼを持っていますが、それはシクロスポリンA に含まれるD-アラニンを供給するためといわれています。

植物であるアルファルファの芽生えの無細胞抽出液中にも、アラニンラセマーゼの存在が確認されており、イネにはセリンラセマーゼがあります。

その他にも、アメリカザリガニ、ヤマトシジミなどからはアラニンラセマーゼが、アカガイからはアスパラギン酸ラセマーゼが単離・精製されています。

セリンラセマーゼの存在がヒトにも確認されており、D-セリンが生体内で合成されることが分かっています。セリンラセマーゼは、D-セリンと同様に前脳部に多く存在しています。
 

アミノトランスフェラーゼ(アミノ基転移酵素)

アミノ酸とα-ケト酸の間の反応を触媒する酵素で、アミノ酸からアミノ基を取り除き(アミノ基転移)、α-ケト酸を生成する反応と、別のα-ケト酸をアミノ酸に変換する反応により、D-アミノ酸など様々なアミノ酸を生成します。

元のアミノ酸はα-ケト酸に変り、種々の代謝経路に入ります。アミノ基受容体としては、α-ケトグルタル酸以外にグリオキシル酸(HCO-COOH)、オキサロ酢酸、ピルビン酸などが用いられます。
微生物や植物では、D-アミノ酸アミノトランスフェラーゼの触媒するアミノ基転移による相互変換など、主にピリドキサル酵素が関与することがわかっています。
 

D-アミノ酸の代謝・分解酵素

遊離型のD-アミノ酸の代謝・分解酵素としては、D-アミノ酸酸化酵素、D-アスパラギン酸酸化酵素が知られています。

両酵素ともに、酵母菌を含む多くの真核生物に広く存在することが知られています。高等動物では、腎臓、肝臓、脳などに分布しています。これらの酵素によって、遊離D-アミノ酸の一部は、2-オキソ酸(α-ケト酸)または相当するL-アミノ酸になり、栄養素として利用されますものもありますが、多くはそのまま排出される率が高いと思われています。

また、D-アミノ酸脱水素酵素(DAD)は、数種類の細菌に存在しているとの報告がありますが、詳しくはわかっておりません。
 

D-アミノ酸の生化学的機能に関する報告例は?

D-アミノ酸がもつ生化学的意義については、いまだよくわかっていないところが多いのですが、これまでのところ、報告されているD-アミノ酸が関連している例をいくつかご紹介いたします。

  • 細菌の細胞壁に含まれるペプチドグリカンには、D-アラニンとD-グルタミン酸が含まれています。ペプチドグリカンにD-アミノ酸を導入できなくなった細菌は、浸透圧に対する抵抗力を失って生育することができなくなるとされています。一方で、D-アラニンとD-グルタミン酸を含むことで、他の生物のもつタンパク質分解酵素の作用を受けにくくしているのではないかとも考えられています。
  • 細菌のバイオフィルム(菌体自身が産生した多糖体を主成分とする生物膜、細菌の集合体) の形成抑制・解体にD-アミノ酸が関与していることが明らかにされています。
  • トビイロウンカ吸汁活動に及ぼすアミノ酸の効果を調べたところ、L-アスパラギン酸とL-グルタミン酸の効果が顕著であったとともに、D-アスパラギン酸も吸汁を促進する作用があることを見い出した報告例があります。
  • 甲殻類では高塩濃度海水順応によりD-、L-アラニン含量が増加することが知られており、D-アラニンが浸透圧調整物質(オスモライト)として機能していると考えられています。
  • クルマエビのオスの生殖腺では、多量のD-グルタミン酸が存在していることから、D-グルタミン酸がクルマエビの生殖機能に関与していることが示唆されています。クルマエビでは、他のD-アミノ酸の分布に組織特異性があり、種々D-アミノ酸を使い分けていると考えられています。
  • カイコガにD-セリンを投与すると、中腸、卵巣、精巣中のピルビン酸、さらにATP量も増加したことから、D-セリンはピルビン酸に代謝される可能性が考えられています。ピルビン酸は生体のエネルギー通貨といわれる ATP 合成のキー物質であることから、D-セリンはグルコース以外のもう一つのATP産生源としてカイコガのエネルギー獲得に寄与している可能性があると報告されています。
  • カエルの皮膚にあるモルヒネの1000倍のオピオイドペプチド(Tyr-D-Ala-Phe-Gly-Tyr-Pro-Ser-NH2)であるデルモルフィンは、研究の結果、D-アラニンが活性発現に必須であることがわかっています。動物由来のペプチドにD-アミノ酸が検出された最初の例といわれています。

その他、D-アスパラギン酸の精巣内での内分泌活動の調整作用、D-イソロイシンの菌類成長促進作用などの報告例があり、D-アミノ酸は、生物学的に重要な機能に関与することが明らかになっています。
 
 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
 


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