バイオマスからのブタジエン生産:直接合成の飛躍的進展

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ブタジエン

現在多くの化学品は石油等の化石原料から生産されていますが、化石原料に依存せずにバイオマス等の再生可能原料から化学品を生産する技術の確立がますます重要になりつつあります。

本稿では化学品の代表例として、合成ゴム製造等で幅広くかつ大量に使用されているブタジエンを取り上げ、バイオマスからのブタジエン生産、即ち、バイオブタジエン生産の検討の現況を紹介します。

 

1.バイオブタジエン

米国国立再生可能エネルギー研究所(NREL)が2016年の評価報告書中で、市場規模や技術開発の観点から、再生可能原料からの生産が期待できる化学品として表1に示す12種の化学品を選定しています1)。ブタジエンはその一つです。

【表1 再生可能原料からの生産が期待できる化学品(米国NREL)】

ブタジエン フルフラール 1,3-プロパンジオール
1,4-ブタンジオール グリセリン プロピレングリコール
乳酸エチル イソプレン コハク酸
脂肪アルコール 乳酸 パラキシレン

バイオブタジエンの合成経路
【図1 バイオブタジエンの合成経路(※米国NREL資料を基に作成)】

 
バイオブタジエンに関して、2016年までの合成経路の検討をNRELは図1のように整理しています。
則ち、①-④:発酵生成物である中間体を化学反応によりブタジエンに転換する二段階処理と、⑤:発酵のみによる一段階の直接合成とに大別しています1)

NRELは①-④の二段階処理はある程度確立された経路だとしています。

実際、例えば経路④の2,3-ブタンジオール発酵はこれまでに多くの機関で研究され、既に高い収率が得られています。日本でもかつては山梨大学で研究され、近年は山口大学や鳥取大学で検討されています2)

しかし、この二段階ルートには課題があります。まず、目的の中間体を他の生成物や原料から分離・精製する必要があります。これは難度が高いため高コストの工程とならざるを得ません。

さらには、回収した中間体をブタジエンに転換する化学反応の工程が発酵工程以外に必要となることも、高コスト化を招きます。

 

2.バイオブタジエンの直接合成

図2の経路⑤の直接合成ルートが実現すれば、上記二段階処理の課題は解消されます。
しかしNRELはこの直接合成を、合理的なプロセスではあるものの、研究例が少なくブタジエン収率が低いとみられるのが難点だと2016年時点で評価しています。

2014年にフランスのGlobal Bioenergies社がバイオブタジエンの直接合成に成功したと発表しました3)

同社の遺伝子組み換え微生物によってグルコース(ブドウ糖)を発酵させ、ブタジエンの生成が検出出来たので、その成果に基づき実用化を目指すという内容でした。ただし、2022年の現在に至るまで、同社からその後の経過は報告されていません。

 

3.理研・神戸大の報告

このような中で理研・神戸大が2021年4月にバイオブタジエンの直接合成に成功したと発表しました4)

その合成経路を図2に示します。
理研らの手法は、芳香族化合物分解菌が保有する既存の「ムコン酸生産経路」と、新たに開発した「ムコン酸からブタジエンを生産する酵素」を組み合わせ、大腸菌を菌体触媒に用いたものです。

 

理研・神戸大によるバイオブタジエン直接合成の経路
【図2 理研・神戸大によるバイオブタジエン直接合成の経路】

 

この組み換え大腸菌の培養条件の最適化により、グルコースから培養液1Lあたり2.1gのブタジエンを生産したと報告しています。

実用化に向けては生産性をさらに高める必要があるとみられますが、Global Bioenergies社による「ブタジエン検出」の水準から生産性が飛躍的に向上した画期的な成果だと言えます。

今後の進展が期待されています。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
 


≪引用文献、参考文献≫


 

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