【自動車部品と制御を学ぶ】FCV用水素タンクの技術
FCV(Fuel Cell Vehicle、燃料電池自動車)で用いる水素タンクは、燃料電池スタック(FCスタック)とともに、FCV固有の重要なコンポーネントです。
今回のコラムでは、水素タンクに関する技術について解説します。
目次
1.FCVシステムにおける水素の供給
「メタノール改質」と呼ばれ、車両に補給されたメタノールを改質して水素を合成しFCスタックに供給するという方法も考えられますが、現在量産適用されているのは水素ステーションにおいて外部から車両の水素タンクへ水素を充填・貯蔵する方式です。
高圧水素タンクを含むFCVシステムの基本構成について図1に示します。
2.車両での水素の貯蔵(タンクの種類・方式)
車両において水素を貯蔵する方法には、高圧水素タンク方式を含め、以下のように様々な方法があります。
(1)低圧水素タンク
気体のまま貯蔵しFCスタックへの供給燃料として容易に使えますが、低圧貯蔵の場合には、タンク容積を大きくしなければなりません。
一方、水素供給インフラ整備への負担は軽くなります。
小容積で少量の水素貯蔵を前提として、電動カートなど小型モビリティへの適用が考えられます。
(2)高圧水素タンク
天然ガス車用の高圧天然ガスタンクの圧力レベルは20Mpa(200気圧)でしたが、FCv用として70Mpa(700気圧)適用の水素タンクが実用化されています。
車両ではタンクの搭載スペースに制約があるため同一タンク容積において、水素の貯蔵圧縮圧力を高めることにより多くの水素を貯蔵できますので、水素満タン時の車両航続距離を延ばすことができます。
(3)液化水素タンク
水素を超低温(-253℃)まで冷却・液化し断熱構造をもつタンクに貯蔵します。
液化すると気体状態の1/800の体積になり車両搭載には有利になります。
一方、タンク内温度が上昇するとボイルオフと呼ばれる水素の気体化が生じるため、ある気体化レベルまでに抑制する工夫が必要となります。
(4)水素吸蔵合金
水素の原子径が小さいことを利用し、特殊な合金の分子間に吸蔵して貯蔵する方法です。
水素吸蔵合金から水素を取り出す場合には、熱を加えます。
車載においては重量が課題で、1kgの水素を貯蔵するのに80kg程度の吸蔵合金が必要となります。
水素吸蔵合金以外で水素を吸蔵させる材料としてはカーボンナノチューブなどがあります。
(5)ハイブリッド型水素タンク
高圧水素タンクに水素吸蔵合金を組み合わせたハイブリッド構造を用いるものです。
3.車載水素タンクに必要な特性
FCV用として車載する高圧水素タンクには次のような特性が必要になります。
- 耐透過性(気密性): 原子径が小さい水素がタンク容器材料を通じて外部へ透過をすることを抑止しなければなりません。
- 耐圧性: 70Mpa(700気圧)適用のタンクでは、1㎠当たり700kgfの力が作用しますので、それに耐えられるタンク本体の構造的な強度が必要になります。
- 弾性: タンクの水素が車両走行により消費されて圧力が低下すると、タンクは収縮変形する力を受けます。車両環境で想定しなければならない最低温度-40℃の条件での変形に対応できる弾性が必要になります。
- 劣化寿命: タンク内面は常に圧力をもつ水素にさらされており、タンク材料の経時的な劣化も考慮して寿命設計がされなければなりません。
- 軽量・コンパクト: 車両の室内空間を確保するために水素タンクはコンパクトに、すなわち同一容量であればタンク肉厚を最低限にしなければなりません。またFCVにおいて生成した電力量の消費効率を向上させ航続距離を延ばすためには車両の軽量化が必要でタンクの軽量化も重要となります。
- 低コスト: FCVが普及できる車両コストにするためには、もちろんタンクのコスト低減も必要です。
4.適用技術の例
トヨタの2代目MIRAI用の例では、水素タンクを多層構造とし、内側材料としてEVOH(エチレンビニールアルコール共重合体)やポリアミド6(ナイロン6)を使用し耐水素透過性を向上し、一方、タンク外側は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を用いてタンクの構造強度を向上しています。
MIRAIでは、三個のタンクのタンクを用いて合計有効水素貯蔵量5.6kg(合計タンク容量141L)とし、航続距離約850km(WLTC測定モード)を達成しています。
ホンダのクラリティ FUEL CELLでは水素タンクのライナー材としてアルミニウムを使用し、GTR(Global Technical Regulation No.13、水素及び燃料電池自動車に関する世界統一基準)に適合しています。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)
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