粘弾性の基本がわかる!高分子材料の力学挙動を読み解く理論と数式モデルを解説

私たちの身の回りにあるプラスチックやゴム、あるいは接着剤や塗料といった高分子材料は、金属のような固体とも、水のような単純な液体とも異なる、独特の力学特性を示します。これを「粘弾性(Viscoelasticity)」と呼びます。粘弾性材料は、力を加えると瞬時に変形するだけでなく、時間の経過とともに変形が増大したり、あるいは一定の変形を保持していても内部の応力が減衰したりする時間依存性を持っています。
製品の耐久性評価、振動・騒音の制御、成形加工時の流動解析など、製造業のあらゆる場面で粘弾性理論の理解は欠かせません。
本記事では、粘弾性モデルの基礎となる物理的な概念から、代表的な数式モデルであるマクスウェルモデルやケルビン・フォークトモデル、さらにはより実務的な標準線形固体モデルまで、その力学挙動を解説します。
目次
1.粘弾性の本質と基本要素
粘弾性を理解するためには、まず理想的な固体と液体の性質を整理し、それらを組み合わせるための「要素」を知る必要があります。
(1)弾性と粘性の違い
理想的な固体は「弾性」を持ち、フックの法則に従います。これは、応力がひずみに比例し、力を除けば瞬時に元の形状に戻る性質です。
(※フックの法則の基本的な解説はこちら)
一方、理想的な液体は「粘性」を持ち、ニュートンの粘性法則に従います。こちらは応力がひずみの変化速度(ひずみ速度)に比例し、加えられたエネルギーは熱として散逸されるため、元の形状には戻りません。
(※流体の粘性・ニュートンの粘性法則に関する基本的な解説はこちら)
粘弾性材料は、これら両方の性質を時間軸の中で同時に発現します。例えば、タイヤのゴムは衝撃を吸収する弾性を持ちながら、内部摩擦によって振動を減衰させる粘性も備えています。
(2)スプリングとダッシュポット
粘弾性モデルを数式で表現する際、視覚的な補助として「スプリング(バネ)」と「ダッシュポット」という2つの機械的要素を用います。

【図1 スプリングとダッシュポット】
- ① スプリング(弾性要素)
弾性を表す要素であり、応力をσ 、ひずみをϵ、弾性係数をEとすると、以下の関係式で表されます。
これは瞬時応答を示し、時間に依存しないエネルギー蓄積を意味します。
- ② ダッシュポット(粘性要素)
粘性を表す要素であり、粘性係数をη とすると、以下の関係式で表されます。
これは変形の速度に依存する応答を示し、エネルギーの散逸(損失)を意味します。
これら2つの要素をどのように組み合わせるかによって、材料特有の挙動を模した「粘弾性モデル」が構築されます。
2.マクスウェルモデルとは?
「マクスウェルモデル(Maxwell Model)」は、スプリングとダッシュポットを「直列」に連結した最もシンプルな粘弾性モデルの一つです。主に、応力緩和現象を説明するのに適しています。

【図2 マクスウェルモデル(直列構造)】
(1)マクスウェルモデルの構造と基本式
直列連結であるため、スプリングとダッシュポットにかかる応力は等しく(σtotal=σs=σd)、全体のひずみはそれぞれの和(ϵtotal=ϵs+ϵd)となります。これを微分形式で表すと、以下の構成方程式が得られます。
(2)応力緩和挙動
マクスウェルモデルの最大の特徴は「応力緩和」を表現できる点にあります。
「応力緩和」とは、ひずみを一定(ϵ=ϵ0)に保持したとき、内部の応力が時間の経過とともに減少していく現象です。
先ほどの構成方程式において、ひずみが一定なので
となります。これを解くと、応力σ(t)は以下のように指数関数的に減少します。
ここで、
は 「緩和時間」と呼ばれます。時間が経過するにつれてダッシュポットがゆっくりと動き、スプリングの伸びを肩代わりするため、全体の応力が消えていく様子をシミュレートできます。
(3)マクスウェルモデルの限界
マクスウェルモデルは、長時間経過すると応力が完全にゼロになる性質を持ちます。
これは、永久に変形し続ける「液体」に近い挙動を示す材料(未架橋のポリマーなど)には適していますが、一定の形状を維持する固体(架橋ゴムなど)の挙動を完全に再現するには不十分です。
3.ケルビン・フォークトモデルとは?
「ケルビン・フォークトモデル」(Kelvin-Voigt Model)は、スプリングとダッシュポットを「並列」に連結したモデルです。こちらは、クリープ現象を説明するのに用いられます。

【図3 ケルビン・フォークトモデル(並列構造)】
(1)ケルビン・フォークトモデルの構造と基本式
並列連結であるため、スプリングとダッシュポットのひずみは常に等しく(ϵtotal=ϵs=ϵd)、全体の応力はそれぞれの和(σtotal=σs+σd)となります。構成方程式は以下の通りです。
(2)クリープ挙動
ケルビン・フォークトモデルの最大の特徴は「クリープ挙動」を表現できる点にあります。
「クリープ」とは、一定の応力(σ=σ0)を加え続けたとき、ひずみが時間の経過とともにゆっくりと増大していく現象です。
応力を一定として微分方程式を解くと、ひずみϵ(t)は以下のようになります。
ここで、
は「遅延時間」と呼ばれます。力を加えた瞬間、ダッシュポットが抵抗となってスプリングの急激な伸びを抑えますが、時間が経つにつれてスプリングが最終的な伸びまで到達します。また、力を取り除くと、スプリングの力でダッシュポットが押し戻され、最終的には元の形に戻ります(遅延弾性)。
(3)ケルビン・フォークトモデルの限界
ケルビン・フォークトモデルは、力を加えた瞬間に発生する「瞬時弾性変形」を表現できません。現実のプラスチックやゴムは、荷重をかけた瞬間にまずある程度変形し、その後にゆっくりと変形が増大するため、このモデルだけでは実材料の再現には不向きです。
4.実用的な複合モデル:標準線形固体モデル
単一のマクスウェル要素やケルビン要素では表現しきれない現実的な材料挙動を再現するために、これらを組み合わせたより複雑なモデルが考案されました。その代表例が「標準線形固体モデル(Standard Linear Solid Model / Zener Model)」です。
(1)標準線形固体モデルの構成
標準線形固体モデルにはいくつかの形式がありますが、一般的なのは「マクスウェル要素にスプリングを並列に連結した形」あるいは「ケルビン要素にスプリングを直列に連結した形」です。

【図4 標準線形固体モデルの構造】
このモデルを導入することで、以下の3つの挙動を同時に表現することが可能になります。
- ① 荷重直後の「瞬時弾性変形」
- ② 時間とともに進む「遅延変形(クリープ)」
- ③ 応力緩和挙動
(2)数理的メリット
標準線形固体モデルの構成方程式は、ひずみとその時間微分、応力とその時間微分をすべて含む形(1次微分方程式)になります。
この方程式を用いることで、動的粘弾性測定(DMA)で得られる貯蔵弾性率や損失弾性率の周波数依存性などを、比較的良好にフィッティングすることが可能です。
(3)一般化粘弾性モデルへの展開
さらに複雑な高分子材料の挙動を再現する場合、複数の緩和時間を持たせるために、多くのマクスウェル要素を並列に並べた「一般化マクスウェルモデル」が用いられます。現代の有限要素法(FEM)解析ソフトに実装されている粘弾性パラメータの多くは、この一般化モデルに基づいています。
5.粘弾性モデルを実務に活かす視点
理論としてのモデルを理解した上で、実際の設計や評価にどのように活用すべきかを考える必要があります。
(1)温度と時間の換算則
粘弾性挙動は温度に強く依存します。高分子材料において「低温での短時間挙動」と「高温での長時間挙動」が等価であるという「時間-温度換算則(WLF則)」を理解する際、粘弾性モデルの緩和時間が温度変化によってどうシフトするかをイメージすることが重要です。モデルの粘性係数は温度上昇とともに指数関数的に減少するため、緩和時間は短くなります。
(2)製品設計における注意点
プラスチック部品の「スナップフィット」や「ネジ締め」の設計では、応力緩和が大きな問題となります。締結直後は十分な保持力があっても、数ヶ月後には粘弾性挙動によって応力が緩和し、緩みが生じる可能性があります。設計段階でマクスウェル的な緩和特性を考慮し、最低限必要な平衡応力を担保できる材料選定と形状設計を行うことが求められます。
[※おすすめ記事:スナップフィットの例で学ぶ 強度計算・応力設計のポイントはこちら]
また、衝撃吸収材の設計では、ダッシュポットによるエネルギー散逸(損失)を最大化するよう、使用環境と材料の緩和時間をマッチングさせる必要があります。
6.まとめ
粘弾性モデルは、複雑な材料挙動を「スプリング」と「ダッシュポット」という直感的な要素に分解し、微分方程式として定量化するための強力なツールです。
- マクスウェルモデルは「応力緩和」の基本。
- ケルビン・フォークトモデルは「クリープ」の基本。
- 標準線形固体モデルは実材料に近い「瞬時弾性」と「平衡応力」をカバー。
これらの基礎を抑えることで、線形粘弾性の範囲において、高分子材料の複雑な挙動を論理的に捉えられるようになります。
CAE解析の結果を評価する際や、新しい材料の選定を行う際に、対象とする材料がどのモデルに近い特性を持っているのかを意識することは、エンジニアとしての洞察力を高める一助となるはずです。
(アイアール技術者教育研究所 N・N)
《参考文献》
- 1)日本レオロジー学会 編「新版 レオロジー基礎知識」
- 2)JIS K 7244(プラスチック-動的機械特性の試験方法)
- 3)小野木禎三 著「化学者のためのレオロジー」






































