電気製品/自動車部品に関する防水試験と規格を総整理!

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電子機器の防水規格・防水試験

当連載は「電子機器における防水技術~Advanced Waterproof Hardware Design for IT Devices~」をテーマとして、防水設計に関する専門家である鈴木崇司講師が解説します。

第2回は、防水試験:防水性能試験(IP試験)です。

1.【防水等級IPX1~8】試験の目的と試験方法

IPX1: 垂直に滴下する水に対する保護

《IPX1の試験方法》

  • 試験対象機器の上に、高さ200mmの位置から水滴を垂直に滴下します。
  • 水滴の量は、1分間に3mmから5mmと規定されています。
  • 試験時間は10分間です。
  • 機器を回転テーブルに置き、1分間に1回転させながら試験を行います。

《IPX1の試験目的》
垂直に落下する水滴に対する保護性能を確認します。

 

水滴滴下試験イメージ

 

IPX2: 15度傾斜した状態で垂直に滴下する水に対する保護

《IPX2の試験方法》

  • IPX1の試験と同様に水滴を滴下しますが、試験対象機器を15度傾斜させた状態で行います。
  • 機器を15°傾けた状態とし、各位置で2.5分間、4位置で計10分間試験を行います。

《IPX2の試験目的》
機器が傾斜した状態での水滴に対する保護性能を確認します。

 

水滴滴下試験イメージ2

 

IPX3: 散水に対する保護

《IPX3の試験方法》

  • 試験対象機器に対して、鉛直から60度の範囲で散水します。
  • 散水は、振動管または散水ノズルを使用し、水の流量は1分間に10リットルと規定されています。
  • 試験時間は10分間です。

《IPX3の試験目的》
あらゆる方向からの散水に対する保護性能を確認します。

 

噴流試験イメージ

 

IPX4: 飛沫に対する保護

《IPX4の試験方法》

  • 試験対象機器に対して、あらゆる方向から飛沫をかけます。
  • 水の流量は1分間に10リットルと規定されています。
  • 試験時間は10分間です。
  • IPX3と同様に、振動管または散水ノズルを使用しますが、より広範囲に水をかけます。

《IPX4の試験目的》
あらゆる方向からの飛沫に対する保護性能を確認します。

 

飛沫試験イメージ

 

IPX5: 噴流水に対する保護

《IPX5の試験方法》

  • 試験対象機器に対して、あらゆる方向から噴流水を噴射します。
  • 水の流量は1分間に12.5リットル、水圧は30kPaと規定されています。
  • 試験時間は3分間です。
  • ノズルの直径や噴射距離なども細かく規定されています。

《IPX5の試験目的》
あらゆる方向からの噴流水に対する保護性能を確認します。

 

噴流試験イメージ2

 

IPX6: 耐水性に対する保護

《IPX6の試験方法》

  • IPX5よりも強い水圧で、試験対象機器にあらゆる方向から暴噴流水を噴射します。
  • 水の流量は1分間に100リットル、水圧は100kPaと規定されています。
  • 試験時間は3分間です。
  • ノズル口径は12.5mmです。ノズルと機器の距離は2.5m~3mです。

《IPX6の試験目的》
あらゆる方向からの暴噴流水に対する保護性能を確認します。

 

IPX5とIPX6、IPX6Kの比較表(ノズル径/水量/水圧/噴射距離/噴射時間)

 

IPX7: 浸水に対する保護

《IPX7の試験方法》

  • 試験対象機器を水深15cmから1mの水中に30分間沈めます。
  • 水深は機器の仕様によって異なります。

《IPX7の試験目的》
一時的な浸水に対する保護性能を確認します。

 

浸漬イメージ

 

IPX8: 潜水に対する保護

《IPX8の試験方法》

  • IPX7よりも厳しい条件で、試験対象機器を継続的に水中に沈めます。
  • 水深や時間は、機器の種類や使用環境によって異なります。
  • 試験方法についての詳細は、製造メーカーと試験機関での個別の取り決めがなされます。

《IPX8の試験目的》
継続的な潜水に対する保護性能を確認します。

 

これらの試験方法により、電気機器や電子機器の筐体が、水に対してどの程度保護されているかを評価します。

 

2.電気製品の防水性能に関する規格と試験の概要

私たちの身の回りにあるスマートフォンやスマートウォッチ、あるいは屋外で使用する照明器具や監視カメラなど、多くの電気製品には「IPX〇〇」という表示がされています。このIPXとは、電気製品の防水性能を示す国際規格であり、私たちの生活を安全に、そして便利にするために重要な役割を果たしています。

 

(1)IPXとは何か?

IPXとは、IEC(国際電気標準会議)によって定められた防水性能の保護等級を示す規格です。
IP(Ingress Protection)コードの一部であり、水の侵入に対する保護レベルを数値で表しています。
IPXの後の数字は、0から8までの9段階で水の侵入に対する保護レベルを示しており、数字が大きいほど高い防水性能を持つことを意味します。

(例)

  • IPX5: あらゆる方向からの噴流水による有害な影響がない
  • IPX8: 継続的に水没しても有害な影響がない

[※関連記事:電子機器の防水規格(IPX)を基礎から解説!IPコードの表記、防水等級、試験方法等がわかる

 

IPXの追加規格

近年、より過酷な条件下での防水性能が求められるようになり、以下の追加規格が設けられました。

  • IPX4K:加圧された水しぶきに対する保護を示します。特に自動車の車載部品などで要求される規格です。
  • IPX6K:強力な加圧水流に対する保護を示します。こちらも自動車の車載部品などで要求される規格です。
  • IPX9:高温高圧水に対する保護を示します。IPX9Kとほぼ同義ですが、規格によって試験内容が多少異なります。
  • IPX9K:高温高圧水蒸気に対する保護を示します。特に高圧洗浄機など、高温高圧水を使用する環境下での使用を想定した製品に要求されます。

 

(2)IPXの意義・重要性

電気製品は、水に濡れると故障や感電の原因となることがあります。IPXの規格は、製品がどの程度の防水性能を持つのかを明確にすることで、消費者が製品を安全に、そして安心して使用できるようにするために設けられています。特に、屋外で使用する製品や、水回りでの使用が想定される製品においては、高いIPXの等級が求められます。

IPXの等級は、IEC 60529規格やISO 20653規格に定められた試験方法によって評価されます。上述のように、各規格によって試験内容や条件は異なります。例えば、IPX5の試験では、製品にあらゆる方向から噴流水を3分間噴射し、IPX8の試験では、製品を特定の水圧と時間で水中に沈めます。
これらの試験をクリアした製品のみが、それぞれの等級を表示することができます。
また、追加規格のIPX4K、IPX6K、IPX9、IPX9Kに関しては、高温高圧の水を噴射するなど、より過酷な条件での試験が行われます。

 

(3)IPXとISO規格・IEC規格との関係

IPXの規格は、国際規格であるISO 20653(道路車両 – 保護等級(IPコード))IEC 60529(外郭によって提供される保護等級(IPコード))などで規定されています。
これらの規格は、国際的な取引において、製品の品質と安全性を保証するために重要です。

 

(4)IPXとJIS規格との関係

日本国内においては、IEC 60529規格に基づいてJIS C 0920「電気機械器具の外郭による保護等級」として規格化されています。
JIS規格は、日本の産業界のニーズや安全基準を考慮して策定されており、国際規格と同等の品質を保証しています。また、自動車部品などにおいてはJIS D 5020など、各産業ごとのJIS規格も存在します。

 

(5)IPコード(Ingress Protection Rating)

  • IEC(国際電気標準会議)によって定められた、機器の防塵・防水性能を等級で示す規格です。
  • 「IP」の後に2つの数字が続き、最初の数字が防塵性能、2番目の数字が防水性能を示します。
  • 防水性能は、0から9Kまでの等級で表され、数字が大きいほど高い防水性能を持ちます。
  • 試験方法は、水滴、噴流水、浸水など、様々な状況を想定して行われます。
  • IPコードは、主に電子機器や産業機器などで用いられます。

 

(6)water resistant規格

  • 主に時計などの製品で用いられる防水性能の規格です。
  • 「ATM」(気圧)や「bar」(バール)などの単位で防水性能を示します。
  • 例えば、「5ATM」は、5気圧の圧力に耐えられることを意味し、日常生活での使用には十分な防水性能を持ちます。
  • 試験方法は、静水圧試験が一般的で、一定の水圧下で浸水しないことを確認します。
  • water resistant規格は、IPコードに比べて、より具体的な使用状況を想定した防水性能を示します。

 
《IPコードとwater resistant規格の主な違い》

  • 規格の策定機関:IPコードはIEC、water resistant規格はISO(国際標準化機構)など
  • 評価基準:IPコードは等級、water resistant規格は圧力単位
  • 試験方法:IPコードは様々な状況を想定、water resistant規格は静水圧試験が一般的
  • 主な用途:IPコードは電子機器・産業機器、water resistant規格は時計など

 
《補足》

  • 「防水」と「耐水」は、厳密には意味が異なります。「防水」は水中で使用できる性能を指し、「耐水」は水滴や噴流水などに耐えられる性能を指します。
  • IPXコードも存在します。IPコードの2桁のうち、どちらか一方のみ試験を行った場合は、「IPX〇」「IP〇X」のようにXで表記します。

 

3.自動車部品に関する主な防水規格と試験の概要

(1)IPコード

自動車部品においても、水や異物に対する保護性能を評価するために広く用いられています。
自動車部品の場合、特にIPX4K、IPX6K、IPX9Kといった規格が重要となります。
各規格の具体的な内容は下記のとおりです。

IPX4K
  • あらゆる方向からの水の飛まつに対する保護。
  • 自動車、二輪自動車などで、水の飛まつが直接かかる部品に適用されます。

 

IPX6K
  • 高圧水噴流に対する保護。
  • 高圧洗浄機などによる洗浄を想定した試験が行われます。

 

IPX9K
  • 高温・高圧水に対する保護。
  • 高温高圧水による洗浄を想定した、より厳しい試験が行われます。

 

耐水試験イメージ

 

(2)ISO 20653

  • 自動車の電気機械装置の保護等級(IPコード)について規定した国際規格です。
  • 自動車特有の環境条件(高圧洗浄、高温水噴射など)を考慮した試験方法が定められています。

 

(3)JIS D 5020

  • 日本の自動車部品の防水試験に関する規格です。
  • ISO 20653に準拠した内容となっており、自動車部品の耐水性能を評価するために用いられます。

 

(4)JIS D 0203

  • 自動車部品の耐湿および耐水試験方法について規定した日本産業規格です。

 

(5)USCAR規格

  • USCAR」(United States Council for Automotive Research)は、北米の自動車メーカーが中心となって設立した研究機関で、自動車部品の信頼性に関する規格を策定しています。
  • 車載用コネクタなどの信頼性評価に使用されています。
  • USCAR規格は、特に自動車のコネクタにおける防水性能や耐久性に関する厳しい基準を設けており、例えばUSCAR-2は車載用コネクタの信頼性規格として重要な役割を果たしています。

 

USCAR-2

USCAR-2」は、自動車用コネクタの電気的および環境的性能要件を定義する規格です。
振動、温度サイクル、湿度、および流体への暴露を含む、様々な環境条件に対するコネクタの耐久性を評価するための試験手順が含まれています。防水性能に関する基準も含まれており、車載コネクタの信頼性を確保するために重要な役割を果たしています。

 

これらの規格に基づいて試験を行うことで、自動車部品が実際の使用環境において十分な防水性能を持つことが保証されます。
自動車部品の防水性能は、安全性や耐久性に大きく影響するため、これらの規格を理解し、適切な部品を選択することが重要です。

 

鈴木 崇司 講師 《この記事の執筆者》

 鈴木崇司 講師
 神上コーポレーション株式会社 代表取締役

 開発QCDの最適化を追求する「匠のコンサルタント」として豊富な実績。
 設計の上流工程のみならず、製造フェーズまで含めた技術支援が可能。
 (※神上コーポレーションのWEBサイトはこちら)

 

 

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