プロが教える技術文書の書き方:絶対に押さえておくべき5つのポイントを解説
技術者にとって、技術文書の作成は、避けて通れない課題です。
しかし技術者の多くは文書の作成に苦手意識を持っています。
本記事では、元技術者で工業系専門のプロライターとして活動している筆者が、読み手に伝わる技術文書を作成するための具体的なポイントを5つ解説します。
目次
1.技術文書とは
技術文書とは、技術的な内容をチームや、他部署、顧客など、さまざまな相手に伝えるためのものです。調査報告書や技術報告書、仕様書、論文、著書、手引きなどがこれに該当します。
わかりやすい技術文書は、チームの生産性向上や知識の継承を実現します。また、問題解決を迅速にしたり、顧客の信頼を獲得できる場合もあります。つまり優れた技術文書は、重要な資産になるのです。
一方でわかりにくい技術文書は誤解を産みます。そのため、作業ミスや、問い合わせの対応、調査作業などが発生し、時間を奪います。結果として、プロジェクトの遅延や品質問題を引き起こす可能性もあります。
2.技術文書作成で押さえておくべきポイント5選
優れた技術文書では、必ずいくつかのポイントが押さえられています。
ここでは、技術文書を書き慣れていない人でも実施しやすいポイントを5つ紹介します。
(1)明確性
技術文書において最も重要なのは「明確性」です。
読み手を迷わせず、正確に伝えるためには、次のようなポイントに注意します。
- 曖昧な表現を避ける: 複数の文脈で受け取れてしまう文章や憶測を残す文章を書かない
- 具体的に断言する: 数値や分量、対象範囲などを断言する
- 何に言及している文章かを意識する: 主語が省略されていても、何について述べている文なのかを意識する
(2)事実と意見の区別
前述の明確性にも通じる部分がありますが、技術文書においては事実と意見の区別が重要です。
推論や予測、感想などは、事実とは分離し、意見であることを明記します。
事実を述べる際には「テスト結果によると」「ログファイルの分析により」などの根拠を示します。意見や推測を述べる際には「筆者の見解では」「想定される原因として」などの表現を使い、事実と区別します。このような表現により、読み手は情報の信頼性を適切に判断できます。
(3)論理的な構成
技術文書を読む人は、文章を読みながら、その内容を頭の中で整理し、理解しながら読んでいきます。つまり、わかりやすい技術文書では、読み手にとって分かりやすい構成であることが求められます。
文書の構成は、一般的には[概要→詳細→具体例→まとめ]になりますが、それ以外にも次のようなポイントに注意するといいでしょう。
見出しを活用する
見出しは、読み手にとっても書き手にとっても道しるべになります。
書き手は、文書を書きはじめる前に見出しを作ることで、文書の階層構造が整理できます。
また見出しを付ける際には、読み手が必要な情報を素早く見つけられる工夫が必要です。読み手に分かりやすい見出しには、結論先行形式「○○の対応策」、と疑問文形式「なぜ○○が発生するのか?」があります。
情報に優先順位をつける
情報には重要度に応じた優先順位があります。
見出しを使いながら構成を作成する際、重要な情報は前に配置し、詳細な情報は後にします。
読み手は必ずしも全文を読むわけではありません。見出しで情報を分類するのに加え、重要な情報を先に出すようにします。
一つの段落には一つのテーマ
技術文書に限らず、文書はいくつかの段落に分けられます。
技術文書を書く際には、一つの段落対して一つのテーマのみを扱います。テーマが変わる際には段落を分けるようにします。段落の最初の文で要点を示し、続く文でそれを説明・補強する構造が理想的です。
MECEの活用
“MECE“(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)とは「漏れなく、ダブりなく」を指す言葉です。情報を要素や対称概念、時系列、ステップになどに分けて考えていきます。
(4)読みやすい文章を書く
具体的な主語
日本語では主語が省略されていても意味が通じるケースが多いです。しかし書くときに主語を意識するだけでも、主語と述語のねじれを防いだり、文が示すものが明確になるなど、読みやすい文章が作れます。
また主語を意識し、「〜される」「〜が行われる」のような受動態ではなく、「システムが〜する」「ユーザーが〜する」のような能動態で表記したほうが読みやすくなります。
専門用語の適切な使用
専門用語は適切に使う必要があります。読み手が同じ分野の専門家の場合には、あまり心配は要りません。しかし外部に向けた文書の場合には、専門用語が一般的な認識と一致しているか、他の分野の人にも分かる言葉か確認が必要です。
また専門用語を使用する際には、用語の定義が文書中でブレないことや、同じ概念に対して複数の名称を用いていないか注意しましょう。
読みやすい文章表現
一文の長さは、理解しやすさに大きく影響します。一文は50字以内を目安とし、複数の内容を含む場合は文を分割します。
また、修飾語と被修飾語の関係を明確にし、修飾語は被修飾語の近くに配置するのを原則にします。
接続詞の使用も重要です。「しかし」「そのため」「また」などの接続詞により、文章間の論理的な関係を明確にします。
(5)読み手を想定する
文書を書く前には、読み手の姿を想像します。また同時に「誰が、なぜ、どのようなときに読むか」を整理しましょう。事前に読み手を想定しておけば、専門用語の使い方や、詳細情報をどこまで記載するか、書きながら迷うことが少なくなります。
読み手のレベルに応じた書き方
読み手が、初心者や一般のユーザーなど、高い知識を持っていない場合には、背景知識の説明から始め、段階的に詳細情報を記載します。
一方で経験者や専門家に対しては、要点を先に示し、詳細情報は必要に応じて参照できるよう、後半に配置するといいでしょう。
読み手のレベルが想定できない場合には、見出しも活用しながら、概要を先に示し、後ろに詳細を記載するのが一般的です。
想定される質問を考える
読み手が文書を読みながら、どのような疑問を持つかを考えます。疑問に対して回答を先回りで記載したり、詳細で述べることで、より伝わりやすい文書になります。
FAQ形式の章を設けたり、注意書きで補足説明を加えるのも効果的です。
3.図表や補足資料の効果的な活用
技術文書では、文章だけでなく図表や補足資料を使うのも効果的です。
(1)図表の使い分け
- フローチャート: 処理の流れや手順を示す場合
- 構成図: システムの構造や関係性を示す場合
- 表: 仕様や設定値の一覧を整理する場合
- グラフ: 性能データや変化を視覚的に示す場合
(2)図表作成時の注意点
図表には必ず説明文を付け、文章中からの参照も明記します。「図1に示すように」「表2を参照」などの表現により、文章と図表の関係を明確にします。
また、図表のタイトルは内容が分かりやすいものにし、必要に応じて凡例や注釈を追加します。
4.「わかりにくい文書」になる原因
わかりにくい技術文書には、共通する問題があります。
ここでは、技術文書を分かりにくくする問題を4つ紹介します。
(1)構造的な問題
情報の整理ができておらず、どこに何が書かれているか分からなくなっています。関連する情報が遠い場所にあったり、見出しから内容を想像できず、情報を探すのに時間がかかったり、目的の情報が見つからなかったりします。
見出しを活用する、事前に情報を整理するなどにより、改善がはかれます。
(2)表現の問題
表現があいまいだったり、主語や目的語が省略されているなど、正確な理解を妨げる文章が続くケースです。
主語を明確にしたり、明確性を意識した文を書く、あわてず一文一文をていねいに精査すると、表現の問題を防ぎやすくなります。
(3)情報量の問題
必要な情報が不足している場合と、不要な情報が多すぎて要点が見えない場合があります。読み手が求める情報レベルと、提供されている情報レベルにギャップがある状態です。
読み手の想定を明確にし、必要な情報を整理することで改善できます。
(4)書き手の文章に対する認識のズレ
技術文書を書く立場の人においては稀なケースですが、文章を読んだときに、他の人とは異なる解釈をしてしまいやすい人がいます。このような問題を抱えていると、技術文書に限らず、伝わりやすい文章を書くのは困難です。書いた文書に対して誤解されるケースがあまりにも多い場合には、自身の読解力から見直す必要があるかもしれません。
5.まとめ
優れた技術文書は、技術者にとって重要なスキルです。この記事で紹介したポイントを意識して継続的に実践すれば、文書作成スキルは確実に向上します。
特に重要なのは、読み手の立場に立って考えることです。技術的な内容を正確に伝えることも大切ですが、読み手が理解しやすい形で情報を整理し、表現することがより重要です。
まずは小さな文書から始めて、段階的にスキルを磨いていきましょう。日常的にメールやチャットでのコミュニケーションでも、明確で簡潔な表現を心がけることで、技術文書作成スキルは自然と向上していきます。
(アイアール技術者教育研究所 R・I)