半導体とパワー半導体の違いとは?初心者向けに技術進化の過程から解説

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パワー半導体

皆さんも一度くらいは「半導体」という言葉を聞いたことがあるでしょう。
近年はその頭に「パワー」を付け「パワー半導体」と呼ばれているのは一体なぜなのでしょうか?
実は「パワー」という枕詞が付くまでに相当の紆余曲折があったはずです。
それをひも解いていかなければ、なぜ「半導体」と「パワー半導体」という二つの言葉があるのか判りにくいでしょう。

1.言葉の違い「半導体」と「半導体技術」から

まず「金属と絶縁体の間」の性質を持つ物質としての「半導体」という言葉があります。
それから、このような特異な性質を持つ物質である「半導体」を使った技術の総称として「半導体技術」があります。

専門家でない方にとってやっかいなのは、この本来「半導体技術」というべきところを、単純に「半導体」という言葉で済ませている場合が多いからです。

ではこのコラムでいうところの、つまり、タイトルの「半導体」はどちらでしょうか?
それは「半導体技術」のことです。
一般に「パワー半導体」というときも、ほぼ例外なく「パワー半導体技術」のことです。

どちらも基板には「半導体」という物質を使っています。
基板の半導体は、まさしく「物質」の半導体のことです。
したがって「パワー」という枕詞が付いたからと言って、「金属と絶縁体の間」という性質が変わる訳ではありません。「半導体技術」も「パワー半導体技術」も、基板として使われている物質は「金属と絶縁体の間」の性質を持つ物質に他なりません。

今後はそのような意味で、「半導体技術」から“技術”を省略させて頂きます。
同じく「パワー半導体技術」からも“技術”という言葉を省略して話を進めましょう。
そして物質としての半導体を指す場合は、改めて「物質としての」という枕詞を補うことにします。

 

2.「半導体」の紆余曲折

続いて「パワー」という枕詞がつくまでの紆余曲折について説明しましょう。

まずは歴史をひも解くことから始めます。
「半導体」(技術)の開発の歴史は、まさにトランジスタの歴史です。初期のトランジスタが開発されたころ、普通の「半導体」と「パワー半導体」の区別はまだありませんでした。つまり、両者は同じ祖先から進化してきたものです。進化の過程は詳細にみると複雑で紆余曲折を経たものです。片方に「パワー」という枕詞がつき、他方にはつかなかったのです。

きちんとたどるのは骨の折れる作業ですが、「半導体」と「パワー半導体」の区別がつくようになるには必要なことです。少しだけ我慢してください。

 

(1)トランジスタ

「半導体」でも「パワー半導体」でもトランジスタが中心的な部品です。
トランジスタは電子デバイスです。電子デバイスは、入力電圧と出力電流で定義されます。
1947年最初のトランジスタが発明されてから、数年の内に初期のトランジスタが量産され始めました。
それは、ゲルマニウム(Ge)という「物質としての」半導体を基板に用いたバイポーラ型トランジスタ(バイポーラトランジスタ)でした。

 

(2)バンドギャップ

「物質としての半導体」は、大雑把に言えば、バンドギャップの大きさによって性能が分化します。
図1をご覧ください。これは「物質としての」半導体のバンドギャップの一覧を表したものです。

 

半導体基板の素材に使用される「物質としての」半導体のバンドギャップ
【図1 半導体基板の素材に使用される「物質としての」半導体のバンドギャップ (単位は eV)】

 

ゲルマニウム(Ge)のバンドギャップは0.67 eVと図中に並べた中では最も小さいです。
単位のeVは電子ボルトと言ってエネルギーの単位の一つです。真空中電子が1V(ボルト)の電位差を抵抗なしに進んだ時に得られるエネルギーです。
次に小さいのはシリコン(Si)の1.12 eVです。

現在「半導体」と言えば、このSiを基板に用いた電子デバイスに関する技術の総称のことです。「シリコンテクノロジー」と呼ばれることもあります。
SiCGaNは広いバンドギャップを持つので「ワイドバンドギャップ半導体」と呼ばれます。

 

(※関連コラム:【パワー半導体の基礎】ワイドバンドギャップ半導体の特徴/メリット/課題 はこちら)

 

(3)二つの接合で基板表面を三つに分割

1950年代、初期のトランジスタは、一つの基板(「物質としての」半導体)を使って一つずつ製造されていました。

まず半導体基板の表面を、二つのPN接合を用いて三つに分割します。
真ん中を「ベース」と呼び、両端を「エミッター」、および、「コレクター」と呼びます。
この三領域にそれぞれベース電極、エミッター電極、コレクター電極を接続します。
電極は、入力電圧を印加したり、出力電流を流したりするのにも使われます。

のちに「MOSFET」という新しいタイプのトランジスタが開発されます。
半導体基板の表面を、同じように二つのPN接合を用いて三つに分割します。
真ん中の領域を「チャネル」と呼び、その表面をゲート絶縁膜で覆ってからゲート電極を接続します。
両端は「ソース」、及び、「ドレイン」と呼び、それぞれソース電極とドレイン電極を接続します。

このように、バイポーラ型であっても、MOSFETであっても、トランジスタの製造は、二つの何らかの接合を用いて半導体基板の表面を三つの領域に分けることから始まります。
現在最先端の「半導体」で使われている「FINFET」と呼ばれるトランジスタでも同じです。

 

(4)集積回路(IC)

半導体基板の表面を複数に分割するには、マスクを使います。
このとき、分割できる領域の数は、三つに限りません。つまり、マスクを上手にデザインすれば、それぞれ二つの接合で複数のトランジスタを基板表面に同時に製造することが出来ます。

これは、トランジスタの一つ辺りの製造コストを抑えるのに役立ちます。接合をどのように配置するか、電極をどのようにつけるか、あるいは、つけないかによって、トランジスタだけでなく、ダイオードやコンデンサーも作れます。
要するに、マスクの上に回路パターンを書き込んでおけば、一つの半導体基板の表面に複数の電子デバイスを作ることができます。

こうして、トランジスタの製造方法は集積回路の製造方法となりました。つまり、半導体基板表面に複数のトランジスタが同時に製造されるようになった訳です。1959年のことです。

 

(5)ムーアの法則

1960年代に入りIntelから「半導体基板表面の一定の面積辺りに集積されるトランジスタの数は2年ごとに一定の割合で増える」というムーアの法則が提唱されました。
この法則によると、半導体基板の大きさとトランジスタの製造方法が同じであれば、トランジスタ一個辺りの製造コストは2年ごとに一定の割合で減少することになります。

しかし、これは一つの半導体基板上に一つずつ製造している「パワー半導体」では成り立たないものです。ここから「パワー半導体」は、ムーアの法則に則って開発が進む「半導体」と分化していきます。

 

(6)デバイス・スケーリング則

1970年代に入り、IBMがムーアの法則を理論づけました。これは「デバイス・スケーリング則」と言われるものです。ムーアの法則にしたがえば、トランジスタ一個が占める半導体基板表面上の面積は2年ごとに一定の割合で減少します。

さらにトランジスタに入力する電圧も長さと同じ割合(面積の平方根)で減少させていくと、トランジスタ内の電界強度を保ったままムーアの法則を満たすことが可能となります(より正確には、拡散層濃度にも工夫が必要です)。
入力電圧を下げるのは、回路設計上の制約からすぐに受け入れられた訳ではなかったようですが、ICチップの電源電圧は下がる傾向にありました。「パワー半導体」ではそのようなことはありません。

 

(7)トレンドの違い

このように、「半導体」デバイスのトレンドは、ムーアの法則やデバイス・スケーリング則によって説明されます。これは複数のトランジスタを一つの半導体基板の上に集積化する集積回路に特有のものであり、印加する入力電圧は年々下がる傾向にあります。スイッチスピードの改善、一緒に働くトランジスタの数の増大、と共にトランジスタ一個辺りの消費電力を下げることもでき、これはコンピュータ産業の発展に適していました。

一方の「パワー半導体」は集積化を目的としていません。より大きな機械を制御するため、より大きな電力を用いて動作する電機システムのスイッチのオン・オフを制御することが求められています。よって、「パワー半導体」の適用範囲が広がるにつれ、求められる入力電圧は増大する傾向にあります。

陸に上がった古代海洋生物の子孫がクジラやイルカと大きく外見が異なるのと同様に、「半導体」と「パワー半導体」は、採用分野の需要に応じて別の方向に進化してきたのです。

 

(8)半導体基板の選択

しかしながら、共通の性質もまだ残っています。
トランジスタの開発で最も重要なことは、きちんとスイッチ・オフすることです。まずオフできなければスイッチングデバイスにならないからです。
そしてスイッチ・オフ時に流れてしまう漏れ電流は、消費電力を増大させます。高い電圧を印加した状態でも漏れ電流を抑えるには、よりバンドギャップの大きい半導体基板が必要です。

パワー半導体の基板は、制御するシステムが要求する電圧に応じてバンドギャップの大きいものを選ぶようになります。ワイドバンドギャップ半導体が期待されているのはそのためです。

反対に「半導体」では外部電圧が低下していきました。現在両者の電圧の差は最大で数千倍になりました。トランジスタ一個辺りのサイズは最大で1億倍です。

 

3.まとめ

「半導体」という言葉には二つ意味があります。
一つは、「金属と絶縁体の間の性質を持つ物質」という意味です。
もう一つは、その「半導体という物質の基板(半導体基板)の上に、可能な限り多くのスイッチングデバイス(トランジスタ)を集積化する技術の総称」です。

各トランジスタに入力する電圧はこれまで年々低くなってきています。
トランジスタ一個辺りが占める基板上の表面積も年々小さくなってきています。

一方「パワー半導体」という場合は、ほぼ「パワー半導体技術」のことを指しています。基板は比較的バンドギャップの広い「ワイドバンドギャップ半導体」という物質が使われることが多いです。一つの基板に作られるトランジスタの数は少なく、集積化されることはほとんどありません。典型的には一個です。
「パワー半導体」のスイッチングデバイスに入力する電圧は、採用されるシステムによって決まります。大型のシステムほど電圧は高くなる傾向にあります。

つまり「半導体」のトランジスタは小さくなり、電圧も低くなるように進化してきました。一方「パワー半導体」のトランジスタの電圧は高くなるように進化して来ました。一個の基板に一個のトランジスタを作るとした場合、さらに電圧を高くするために基板のサイズも大きくなります。

「半導体」と「パワー半導体」は同じ起源から逆の方向に進化してきた”親戚同士”といえるかもしれません。

 

(アイアール技術者教育研究所 H・W)
 


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