《伝熱の基礎③》対流熱伝達の必須知識まとめ[ニュートンの冷却法則/温度境界層と速度境界層など]

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対流熱伝達の基礎

今回は伝熱の3形態から対流熱伝達の基礎を解説します。
対流熱伝達の詳細な理解には流体力学の知識が必要になりますが、本記事では流体力学に関しては定性的な説明に留めて、対流熱伝達の考え方と基礎知識を中心に解説します。

1.対流熱伝達の具体例

人は扇風機の風に当たると涼しさを感じ、扇風機の風量を増すと、より涼しさを感じます。熱いお風呂に入った時に、暫く動かずにいると熱さが和らぎますが、お湯をかき混ぜると再び熱さを感じます。これらは人が体感できる対流熱伝達です。

電子回路の冷却に用いられるヒートシンクは、主に対流熱伝達で電子機器の発熱を放熱して温度を維持するための部材です。ヒートシンクに強い風を送ると、より多くの熱を放熱することができます(図1)。

 

ヒートシンクでの対流熱伝達
【図1 ヒートシンクでの対流熱伝達 ※参考文献をもとに作図1)

 

2.対流熱伝達とは

物体の周りに流体が流れていて、物体と流体の間に温度差があるとき、物体と流体の間に発生する熱移動形態を「対流熱伝達」と呼びます。
流体の流れがファンやポンプなどによって強制的に引き起こされる場合を「強制対流熱伝達」、温度差に起因する自然対流(自由対流)によって引き起こされる場合を「自然対流熱伝達」と呼びます(図1)。

図2に温度Thに加熱された壁面と、温度TLの流体の間の対流熱伝達における温度分布と流体速度分布を模式的に示します。

 

加熱された壁面における対流熱伝達
【図2 加熱された壁面における対流熱伝達】

 

流体は物体表面に付着して静止しているため、物体表面と表面の極近傍の流体の間は熱伝導で熱が移動します。しかし全体では、流体の移動によっても熱エネルギーが移動します。その結果、対流熱伝達は伝導伝熱よりも熱移動量が大きくなります。熱いお風呂でお湯をかき混ぜると熱く感じるのは、伝導伝熱から強制対流熱伝達に伝熱形態が変わることで、お湯から体への熱の移動量が増えるためです。

断熱では対流熱伝達を発生させない工夫が必要です。
例えば、住宅の断熱性能を高めるために使用される二重ガラス窓では、自然対流が発生しないよう、図3のようにガラス間の隙間寸法が狭くなっています。隙間が広くなると自然対流が発生して高温面から低温面への熱流が増加、さらに広い隙間ではセル状の自然対流となり、熱流が急激に増加します2)

 

垂直な密閉空間内の自然対流
【図3 垂直な密閉空間内の自然対流 ※引用文献2)

 

3.ニュートンの冷却法則

図4のように、温度T1、表面積Sの物体の周りに温度T2の流体が流れている場合、対流熱伝達による物体表面と流体との間の伝熱量Q は(1)式で表されます。

 

伝熱量

対流熱伝達
【図4 対流熱伝達】

 

ここでhは「熱伝達率」と呼ばれる対流熱伝達の程度を表す比例係数で、物性値である熱伝導率とは異なり、流れの状態によって変化する値です。
物体表面の微小面積dSでの伝熱量qを考えると、熱流束を表す(2)式と(1)式から(3)式が得られます。(3)式はニュートンの冷却法則と呼ばれ(※)、対流熱伝達での伝熱量を表す基本的な関係式です3)

 

熱流束

 

ニュートンの冷却法則

※(1)式をニュートンの冷却法則と呼ぶこともあります。

 

4.温度境界層と速度境界層

物体表面において、流体は物体表面に付着しているため、流体の温度と速度は物体表面の温度と速度と同じになります。
強制対流熱伝達では、図5のように物体表面から離れるに従って温度が急激に変化する「温度境界層」と呼ばれる薄い層と、速度が急激に変化する「速度境界層」と呼ばれる薄い層が形成されます。流体の動きが速いほど速度境界層は薄くなり、温度が低い流体が物体に近づき、その結果温度境界層も薄くなります。
このように温度境界層と速度境界層の間には密接な関係があります。

 

温度境界層と速度境界層
【図5 温度境界層と速度境界層】

 

5.熱伝達率と温度境界層

図6において、物体表面の極近傍では流体の速度が十分に遅く、伝導伝熱によって熱が移動すると見なせ、伝熱量はフーリエの法則(4)式で表すことができます。
ニュートンの冷却法則(3)′式とフーリエの法則、壁面近傍の温度勾配の近似(5)式から、熱伝達率hの近似式(6)式が得られます。
この式は、熱伝達率が温度境界層厚さに逆比例することを意味しています。
扇風機の風量を増すとより涼しく感じる理由は、体表面付近の速度境界層が薄くなり、その結果温度境界層も薄くなることで熱伝達率が高くなって体からの放熱が増えるためです。

 

壁面近傍での対流熱伝達
【図6 壁面近傍での対流熱伝達】

 

ニュートンの冷却法則等4式

 

δTは物体の形状や流体の流れの状態に強く依存するため、hは場所に依存した値となります。
この場所ごとのhを「局所熱伝達率」と呼びます。
また物体表面温度が一定の場合、物体表面全体での平均熱伝達率haveを(7)式で計算することができます。

 

平均熱伝達率

 

対流熱伝達での伝熱量の見積もりにおいて、過去の知見や実験データ、数値シミュレーションなどから、hまたはhaveを知ることが必要かつ重要となります。

 

6.無次元数と相似則

熱伝達率の見積もりにおいて、無次元数4)相似則5)を用いることで過去の知見や実験データ等から熱伝達率の推定が出来ます。熱伝達率の推定に関わる代表的な4つの無次元数を表1に示します。

これらの無次元数のうちプラントル数(Pr数)は物性値で、流体の種類と状態によって決まる値です。
多くの現象において、強制対流熱伝達では、ヌセルト数(Nu数)はレイノルズ数(Re数)とPr数の関数として表され、自然対流熱伝達ではNu数はグラスホフ数(Gr数)とPr数の関数として表されます。
また、Nu数には熱伝達率と同様に、局所Nu数平均Nu数があります。

 

【表1 対流熱伝達に関連する無次元数】
対流熱伝達に関連する無次元数

例えば、図7のような一定温度の平板との間で熱伝達する、乱れが無い流れ場において、平板前縁から距離xでの局所Nu数と平板全体の平均Nu数は(8)、(9)式で求めることが出来ます6)
Nu数が分かれば、実際の寸法や熱伝導率から熱伝達率を求めることができます。

 

水平平板での強制対流熱伝達
【図7 水平平板での強制対流熱伝達  参考文献6)

 

局所ヌセルト数、平均ヌセルト数

 

7.対流熱伝達の熱抵抗

伝導伝熱の場合と同様に、対流熱伝達も熱抵抗を用いて電気等価回路に置き替えることができます。
熱伝達率h、伝熱面積がAの熱抵抗は(10)式となります。
ここで二つの流体が隔壁を介して熱伝達する図8(a)のような熱交換器を考えます。
平板と両側を流れる高温流体と低温流体の温度が定常状態にあるとき、図8(b)のような電気等価回路から合成抵抗Rtを計算し、(11)式から伝熱量を計算することができます。

 

熱伝達率hの対流熱伝達の熱抵抗

 

対流熱伝達と伝導伝熱の電気等価回路
【図8 対流熱伝達と伝導伝熱の電気等価回路  ※引用文献7)

また、合成抵抗×伝熱面積(Rt×A)の逆数は「熱通過率」(W/(m2・K))と呼ばれ、熱交換器の性能指標としても利用されます。図8での熱通過率Kは(12)式となります。
熱交換機器では伝熱面積を増やすことで流速が低下して熱通過率が下がり、機器としての熱交換性能が低下する場合が多くあるため、最適な伝熱面積を設定することが重要です。

 

熱通過率K

 

8.まとめ

対流熱伝達は流体の移動が強く関係する現象であるため、詳細に現象を把握するためにはナビエ・ストークス方程式と呼ばれる流体運動の基礎方程式を扱う必要があります6)
しかし本記事で解説したように、対流熱伝達では熱伝達率が流速に依存することを理解していれば、実際の伝熱現象の把握や設計において簡単なモデルで現象を把握する、あるいは経験式や実験データをもとに伝熱量を見積ることは可能です。

 
次回は、輻射伝熱(ふく射伝熱)について解説します。

 

(アイアール技術者教育研究所 技術士(機械部門) T・I)

 


《引用文献・参考文献》


 

【連載:伝熱の基礎】

 

 

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