ばねのサージングと不等ピッチスプリング
通常スプリング(ばね)は、スプリングの線材間密着や応力による疲労破壊が起きないように設計しますが、計算はあくまでスプリングの静的状態で行います。
そのため、スプリングの動きにともないサージング(surging)現象が起きる場合には、設計どおりの耐久信頼性は得られません。
スプリングの設計手順
スプリングの基本的設計手順としては、まず材質と表面処理を選びます。
例えば必要強度や防錆度に応じて、バネ鋼でメッキ無しとするか、亜鉛メッキなど表面処理をするか、高強度のステンレス材を用いるかなどです。
次に必要セット力やバネ定数など必要な特性や搭載スペースに応じて、形状仕様(スプリング線径、有効巻き数、内径など)を決めます。
それから作動最小長さ、または、最大長さにおける応力によって作動時の平均応力と最大応力振幅を求め、材質と線径で決まる許容平均応力と許容最大応力振幅と合わせ、グッドマン線図などを利用して安全率を計算します。
以上の手順での計算においては、全てスプリングが均等に伸び縮みしていることを前提にしています。
スプリングのサージング現象
スプリングの各巻き線はマス(慣性質量)を持っているので、スプリングのストローク速度が速い場合には、この慣性質量により共振的な振動を起こす場合があります。これをスプリングの「サージング」と呼びます。
このような場合には、平均的な伸び縮みに対して部分的にさらに大きな伸び縮みが加わることとなります。
例えば圧縮スプリングでサージングが発生すると、局部的に追加の圧縮ストロークが発生することになるので、その部分の平均応力と最大応力は静的計算値よりも高くなります。
すなわち静的計算では信頼耐久性OKだったはずのスプリングが、サージングにより破損する可能性があるということです。
サージングへの対応策と実応力測定
サージングが発生していることが分かった場合の対応策としては、スプリング諸元を変えたり、強度の高い材料に変更するなどがありますが、サージングが完全に無くならない場合には、変更諸元や変更材料により充分な安全率が確保されているか確認実験が必要です。
スプリング線径が1mm程度以上の場合は、歪ゲージをスプリングに貼り、測定された歪から実応力を求めるという方法があります。これにより動的に発生する実応力に基づく安全率計算が可能になります。
挙動の可視化
現象の解明には、可視化による観察が有効です。
スプリングのサージングも搭載場所をアクリル部品などを用いて外から見えるようにして、高速度カメラで撮影するという方法があります。
スプリング局部の共振的な挙動では複雑な要因が複合している場合もあります。例えば搭載部の流体の動きの影響や、スプリングシートとスプリング間の摩擦によるスプリングへのねじり外力の影響などもあります。
可視化により想像もつかないような挙動が明らかになる場合もあるのです。
不等ピッチスプリング
スプリングサージングの対策でスプリング諸元を変える場合に、バネ定数を変更するという方法がありますが、限られたスペースで必要なセット力などの特性を確保する場合には設計自由度は高くありません。
これに対して不等ピッチスプリングでは、伸縮長さによりバネ定数が変えられます。通常のスプリングは、線間々隙ピッチは、均一ですが、不等ピッチスプリングでは、スプリングの部分部分でピッチを変えます。
外観としては、通常スプリングの搭載方向性を持たせないように左右対称とするため、スプリングの中心部と両端部で線間の疎密が違うスプリングとなります。
バネ定数が2段階に変る「2段不等ピッチスプリング」や、3段階に変る「3段不等ピッチスプリング」などの適用例があります。
(アイアール技術者教育研究所 H・N)