【機械設計マスターへの道】歯車列と歯車装置の基礎知識(遊星歯車機構と差動歯車機構)

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歯車の基礎知識(種類と使い方)を解説

機械には、歯車を用いるものが多数あります。
歯車は、駆動機から被動機へと動力を伝達するとともに、回転速度比を変える、回転方向を変える、回転軸の向きを変える、といった機能を備えた機械要素です。

(※歯車に関する基礎知識の解説については、別の連載シリーズ「機械製図道場」の 機械要素「歯車」の必須前提知識と基本的な図示方法 のページも併せてご参照ください。)

今回のコラムでは、歯車を用いた歯車列と歯車装置について解説します。

1.歯車列と歯車装置

駆動機から被動機へ回転運動を伝えるために構成された一群の歯車を歯車列といい、歯車列を使用した装置を歯車装置といいます。
 

2.遊星歯車装置とは?

かみ合う歯車がそれぞれ回転(自転)すると同時に、一方の歯車が他方の歯車の軸を中心として公転する装置を「遊星歯車装置(Planetary Gears)」といい、中心軸に取付けられた歯車を「 太陽歯車(Sun Gear)」、中心軸のまわりを公転する歯車を「遊星歯車(Planet Gear)」といいます。
また、遊星歯車が太陽歯車のまわりを公転するために必要となる腕(回転支持わく)のことを「キャリア」といいます。

遊星歯車は、複数個を配列することができます。
図1のように遊星歯車の外周に、さらに内歯歯車を設けて自転できるように配置した構造のものもあります。

遊星歯車装置
【図1 遊星歯車装置の構造(イメージ)】

 

遊星歯車装置は、次のような特長を有しています。

  • 複数の遊星歯車を用いることで負荷の分担ができ、装置の小型化が可能
  • 入出力軸を同一軸線上に配置することができる

 

遊星歯車装置トルクコンバータを組み合わせることで、動力伝達特性を向上し、自動車のオートマチックトランスミッションや産業機械用の変速装置などに適用されます。

[※トルクコンバータの解説はこちらのページをご参照ください]
 

遊星歯車装置の種類・分類

遊星歯車装置は、固定する要素の違いにより、次のような分類があり、回転速度比や入出力軸の回転方向にも違いがあります。
ここで、太陽歯車の歯数をZa、遊星歯車の歯数をZb、内歯車の歯数をZcとします。
 

① プラネタリ型

内歯車の回転を固定します。遊星歯車は自転しながら、キャリアとともに太陽歯車のまわりを公転します。
入力軸を太陽歯車、出力軸をキャリアとすれば、回転速度比は (Za+Zc)/Za です。
例えば Za=20,Zc=50 であれば 速度比は3.5となります。
入出力の回転方向は同一です。
 

② ソーラ型

太陽歯車の回転を固定します。遊星歯車は自転しながら、キャリアとともに太陽歯車のまわりを公転し、内歯車を回転させます。
入力軸をキャリア、出力軸を内歯車とすれば、回転速度比は (Za+Zc)/Zc です。
例えば Za=20,Zc=50 であれば 速度比は1.4となります。
入出力の回転方向は同一です。
 

③ スター型

キャリアを固定して、遊星歯車は公転せず、自転のみを行います。
この場合、厳密な意味では遊星歯車としての機能は発揮せず、太陽歯車と内歯車の間に入る遊び歯車としての役割を担います。
入力軸を太陽歯車、出力軸を内歯車とすれば、回転速度比は -Zc/Za で入出力の回転方向が逆となります。
例えば Za=20,Zc=50 であれば 速度比は-2.5となります。
 

3.差動歯車装置とは?

2つの軸の駆動力や回転速度に差が生じたときに、第3の軸が2つの軸からの作用を同時に受けて回転するような歯車装置のことを「差動歯車装置(Differential Gears)」といいます。

差動歯車装置は遊星歯車装置の1種であり、遊星歯車装置においていずれの歯車もキャリア(回転支持わく)も固定しなければ、どれか2つの要素の運動を決めると、残りの歯車の運動が差動歯車となります。

差動歯車が使用されている身近な例が自動車です。
自動車の駆動輪には、かさ歯車列を用いた差動歯車装置が装着されています。
なお、「かさ歯車」とは、駆動軸と被動軸とが直交する配置の時に使われる歯車のことです。
図2は、歯すじが直線でピッチ円すい母線と一致するかさ形状の歯車で、「すぐばかさ歯車」と呼ばれ、かさ歯車として最も普及している種類です。

すぐばかさ歯車
【図2 すぐばかさ歯車】

 

自動車の旋回と差動歯車装置

図3のように、エンジンの駆動力を伝える駆動歯車に取付けられた複数個(2個または4個)のピニオンギアと、駆動輪の左右両軸に取付けられたサイドギアが、かさ歯車としてかみ合っています。
駆動歯車の回転数をna、左側車輪の回転数をnb、右側車輪の回転数をncとすれば、2na=nb+nc の関係があります。

差動歯車装置(自動車駆動輪用)
【図3 差動歯車装置(自動車駆動輪用)】

 

直線運動の際には両輪の回転数が等しいので、ピニオンギアは自転せず、両輪の回転軸を中心として公転します。自動車が旋回運動すると後輪の左右には回転数の差が生じます。

例えば、右旋回であれば内側になる右側のタイヤの回転は遅く、外側になる左側の回転は速くなります。
このため、両輪に連結された左右のサイドギアの回転速度に差が生じて、ピニオンギアは公転とともに自転します。
この機構により左右のタイヤの回転差を吸収することができて、内側のタイヤがスリップすることなく自動車は滑らかに旋回することができます。

このように、歯車列を利用した遊星歯車機構を用いることで、機械に要求される様々な機能を実現することが可能となるのです。

 

(アイアール技術者教育研究所 S・Y)
 

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