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ステンレス鋼とは?種類・特徴・用途等を解説|Fe-Cr系/Fe-Cr-Ni系/析出硬化系

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ステンレス鋼

1.ステンレス鋼とは?

「ステンレス」と聞くと、塗装無しでも錆びることなく恒久的に光沢を保つ金属というイメージを持たれると思います。ステンレス鋼(Stainless Steel)は20世紀初頭に開発されて以来、日本のJIS規格だけでも100種類以上の鋼種が制定され、鋼材メーカ独自に開発された鋼種も含めて、用途ごとに使い分けられています。

ステンレス鋼」とは、鉄(Fe)をベース(50%以上)として、クロム(Cr)を10.5%以上含有し、炭素鋼含有率を1.2%以下としたものと定義されています。

 

ステンレス鋼の基本的な特徴

ステンレス鋼は錆びないといわれますが、表面に酸化物被膜を形成して安定するという点では、炭素鋼や銅と同じです。炭素鋼の場合は酸化鉄による赤色、銅の場合は酸化銅による緑色の被膜で覆われるため変色しますが、ステンレス鋼の場合は、Crを10.5%以上含有することで表面が「不働態被膜」と呼ばれる非常に薄い(数nm)酸化クロムで覆われ、この被膜は透明であるため金属光沢を維持して錆を生じない外観を保ちます。

酸素の存在下においては、不働態被膜は部分的に破れてもすぐ修復する機能を有するため、長期間にわたって安定した耐食性を有します。また中性水溶液中では、高流速環境下においても不働態被膜は安定していて、高い耐エロージョン性を有します。

耐食性をさらに向上し、あるいは機械的性質を改善する目的でニッケル(Ni)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、窒素(N)など各種元素を添加したステンレス鋼が開発され、用途・環境に応じて使い分けられています。

 

2.ステンレス鋼の種類

(1)Fe-Cr系ステンレス鋼

① フェライト系ステンレス鋼

Fe-Cr系ステンレス鋼は1000℃程度に加熱することで、C量が少ない場合(0,1%以下)はフェライト組織(α相)になり、「フェライト系ステンレス鋼」と呼ばれます。

焼き入れ硬化性には乏しく、強度や溶接性の面では優位性が低いので、焼きなまし状態での耐食性を利用した用途に適します。

代表的な鋼種として、13Cr系のSUS405、18Cr系のSUS430があります。

 

② マルテンサイト系ステンレス鋼

C量が多い場合(~0.75%)は加熱することでオーステナイト組織(γ相)となり、その後に焼き入れすることでマルテンサイト組織となります。実用的には焼き入れ焼き戻しを行うことで、機械的性質を整え、「マルテンサイト系ステンレス鋼」となります。

高い強度と耐摩耗性を有するので、機械構造用部品として使用されます。線膨張係数が炭素鋼とあまり変わらないので、高温用途で炭素鋼と組み合せて使用することも可能です。

代表的な鋼種として、13Cr系のSUS410、18Cr系のSUS440、があります。13Crに4Niを添加して耐食性を高めた鋼種もあります。
マルテンサイト系ステンレス鋼を硫化水素を含有する環境で使用する場合は、応力腐食割れの感受性を低減するため、焼き戻しを複数回行って硬度を下げた鋼種を使用する必要があります。

 

(2)Fe-Cr-Ni系ステンレス鋼

① オーステナイト系ステンレス鋼

“18-8ステンレス”という呼び名をよく耳にすると思います。これは18Cr-8Niからなる基本的なオーステナイト系ステンレス鋼SUS304のことで、食器、流しなど家庭用にも幅広く使用されています。

オーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性、加工性、溶接性の面でFe-Cr系ステンレス鋼より優れています

磁性をもたないため磁石につかないのも特徴です。低温靭性にも優れるので、低温用材料としても使用することができます。

オーステナイト系ステンレス鋼のデメリット(弱点)は、孔食、応力腐食割れ、粒界腐食など局部腐食を発生しやすい点です。(※関連記事:「海水など水溶液中での金属腐食メカニズム」を参照)

合金元素を添加することで、これらの弱点を改善した鋼種として以下のようなものがあります。

  • SUS316: モリブデン(Mo)を少量添加することで耐食性をより向上させたもの
  • SUS304L, SUS316L: 炭素(C)量を低くすることで耐粒界腐食性を改善したもので、溶接性も向上します。
  • SUS321, SUS347: チタン(Ti)あるいはニオブ(Ni)を少量添加することで、耐粒界腐食性を改善した安定化ステンレス鋼と呼ばれる鋼種です。
  • SUS310S: Cr-Niの合金元素を25-20まで高めて耐熱性、耐酸性をより向上させた鋼種です。

 

② オーステナイト‐フェライト系ステンレス鋼(二相ステンレス鋼)

フェライト組織(α相)とオーステナイト組織(γ相)がほぼ1:1の割合で常温状態において安定した金属組織です。「DSS(Duplex Stainless Steel)とも呼ばれており、代表的な鋼種としてSUS329J4L(25Cr-7Ni-3Mo-N)があります。

オーステナイト系ステンレス鋼に比べ、引張強さと耐力が高い高強度材料です。
二相ステンレス鋼の最大の特徴は、耐孔食性、耐隙間腐食性、耐応力腐食割れ性に優れている点です。オーステナイト系ステンレス鋼に比較してCrとMoの含有量を高め気体元素である窒素(N)を添加することで、優れた耐食性を実現しています。

オーステナイト系ステンレス鋼に比べ、(高価な)Niの含有量が低いので価格面でも有利す。また、強度が高いため、オーステナイト系ステンレス鋼を使用する場合に比較して圧力容器の肉厚を薄くすることが可能であり、同一用途に対する必要量を低減できるなど経済性にも優れた面があります。

原油(硫化物、炭酸ガス)、化学などの産業向け、あるいは海水用など、高い耐食性を要求される機器の材料として使用されています。

 

《耐食性の指標:PRE値について》

PRE」とは、”Pitting Resistance Equivalent number”の頭文字を取ったもので、ステンレス鋼の耐食性評価指標となる数値であり、下記の式で定義されます。

 PRE = Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N

PRE値を、ステンレス鋼の代表的な鋼種であるSUS304,SUS316,SUS329J4Lで比較すると、それぞれ18,25,38となります。PRE値が高くなるにつれて、耐孔食性、耐隙間腐食性が向上します。
PRE値が40以上のものを「スーパー二相ステンレス鋼」(SDSS:”Super Duplex Stainless Steel”)と呼びます。1990年代に開発され、特に優れた耐隙間腐食性を有することから、塩分濃度と水温が高い中東の海水域で使用されるポンプなどの部品の材料としての適用が進んでいます。

 

《二相ステンレス鋼のデメリット》

常温ではフェライト、オーステナイトという2つの組織がほぼ1:1の割合で安定しますが、高温になると金属組織が不安定となり、300℃以上の高温で使用するのには適しません。

また、板材など製造段階で溶接を行う場合の入熱条件・冷却条件、あるいは鋳造により成型する場合の冷却速度、など適切な施工管理が必要です。
不適切な溶接施工を行うと、溶接熱影響部(HAZ)にCr窒化物が析出して耐食性が低下する、あるいはσ相とよばれる硬くて脆い金属間化合物が生成されて靭性が低下する(シグマ脆化)ことがあるので、施工管理に十分な注意が必要です。鋳造の場合は、冷却速度が遅いと、σ相が生成されやすくなりますので、適切な鋳造方案を作成することが重要となります。

 

(3)析出硬化系ステンレス鋼

オーステナイト系ステンレス鋼は、熱処理によって硬さを得ることができませんが、一定の元素を添加して「固溶化」と呼ばれる熱処理を施し、金属間化合物を元の金属組織中に分散析出させることで、硬度と強度を増すことが出来ます。これを「析出硬化系ステンレス鋼」と呼びます

強度を必要とするシャフト材やタービン部品に用いられます。

析出硬化を起こすために添加される合金は、Ti, Mo, Cuなどです。
代表的な鋼種としてSUS630があります。「17-4PH」とも呼ばれ、17Cr,4Ni,4Cuが主合金成分です。

 

このように一口に「ステンレス」と言っても様々な種類があります。
使用環境によってはステンレス鋼といえども腐食したり割れを生じたりすることがあるため、用途・使用条件に応じて適切に鋼種選定することが重要です。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)

 
[※関連記事:電磁ステンレス鋼の基礎知識[フェライト系/オーステナイト系]はこちら]

 

 

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