ポリウレタンの基礎とアミン触媒の構造および開発動向
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今回は、ウレタンフォームなど私たちの生活と密接な関係にある「ポリウレタン」について解説します。
目次
「ポリウレタン」とは、ウレタン結合を分子内に有するポリマーの総称です。
ポリウレタンの合成は式1に示すように、ポリイソシアネートとポリオールとの反応が基本です。
ここでR1とR2は芳香族、脂肪族、脂環族の炭化水素基です。
・・・(式1)
イソシアネート基の持つ非常に高い反応性がこの合成を可能にしています。
式Aのようにイソシアネート基に、アルコール等の活性水素を有する化合物が付加する反応は非常に起こりやすい反応です。実際のポリウレタン製造工程では、反応を促進するために触媒の添加や加熱が行われますが、無触媒で室温でも反応が起こるのが特徴です。
・・・(式A)
生成したウレタン結合を有する化合物が、式Bのように、更にイソシアネートと反応してアロファネートを形成する反応も起こり得ます。
・・・(式B)
またイソシアネートにアミンを加えれば、式Cのように、ウレア結合が形成されます。
・・・(式C)
ウレア結合を有する化合物が、式Dのように、更にイソシアネートと反応すればビウレットが形成されます。
・・・(式D)
以上のように、ポリウレタンの合成は式1の反応を基本にしつつ、イソシアネート基の高い反応性に起因する複雑な要素も含んでいます。また必要に応じて改質も可能です。
さて、イソシアネートに水を加えたらどんな反応が起こるでしょうか?
式Eをご覧ください。アミンと二酸化炭素とを中間で発生し、最終的にウレアが形成されます。
この二酸化炭素の発生はウレタンフォームの製造に利用されています。
・・・(式E)
ポリウレタンの合成に関わる化学反応の詳細に関心のある方は、文献1)と成書2)をご参照ください。
ポリウレタンは日本国内で現在約50万tの需要があります3)4)。図1はその用途の内訳を示したものです。
ウレタンフォーム以外の分野で、塗料(Coatings)、接着剤(Adhesives)、 シーラント(Sealants)、エラストマー(Elastomers)の分野は「CASE」と総称されています。
【図1 日本国内のポリウレタンの用途(2021年,日本国内),引用データ3)から作成】
実際にポリウレタンに使用されている原料を紹介します。
世界で現在使用されているポリイソシアネートの96%以上が、下記2種の芳香族系ジイソシアネートだと見積られています5)。
図2-1に示す2,4-体とその異性体である2,6-体との混合物であり、主として軟質フォームに使用されています。
図2-2の構造を有し、硬質フォームおよび他の用途に使用されています。
ポリオールとしては主に使用されている長鎖系ジオールの系の他に、1,4-ジオール等の短鎖系ジオールも使用されています。
長鎖系ジオールとしては、フォーム用には図3のPPG(ポリプロピレングリコール)に代表されるポリエーテル系ポリオールが、CASE用にはポリエステルポリオールやポリカーボネートポリオールが使用されています。
【図3 PPG(ポリプロピレングリコール)】
ポリウレタンは幅広い分野で使用されている優れたポリマーですが、経時劣化しやすいという点にやや弱点があります。ポリウレタンは耐久性に乏しい素材というイメージをお持ちの方もおられると思います。
このポリウレタンの劣化については以前から研究されており6)、主に下記3種の劣化が複合的に作用していることが分かっています。
劣化の緩和には、紫外線吸収剤や酸化防止剤の添加に加えて、原料であるポリイソシアネートやポリオールの選択も有効です。
ウレタンフォームの黄変は、前述の芳香族系イソシアネートに起因するキノン構造の生成によると言われています。このため、黄変を避けたい分野では脂肪族系や脂環族系のジイソシアネートが用いられています。
また加水分解にはポリオールの種類が影響します。ポリエーテル系の方がポリエステル系よりも耐性が高いことが知られています。
ポリウレタンの用途中で、エラストマーの比率は図1に示したように5.7%であり決して高くはありませんが、ポリウレタンの特徴を活かしたユニークなものが含まれています。
それが熱可塑性エラストマーです。
ポリウレタンでは製造過程でポリオールを長鎖系か短鎖系かで切り替えることにより、図4に示すように、ポリマー分子中にソフトセグメントとハードセグメントを有するブロック共重合体を製造することができます。
ハードセグメントが分子間の水素結合で物理的架橋構造を形成することにより、熱可塑性エラストマーとして機能します。
【図4 ポリウレタンによる熱可塑性エラストマー】
ポリウレタンにおいてもリサイクルは重要な課題であり、環境に負荷を与えないリサイクル法の検討が進行中です7)。
早期の実用化が期待されます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》