n型半導体、p型半導体って何?これで不純物半導体がわかる

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半導体

連載「これならわかる半導体超入門」の第4回は、半導体の原理を理解する上での重要な前提知識「n型半導体」「p型半導体」を説明するとともに、キャリア濃度の温度依存性について解説します。

1.n型半導体の基礎知識

半導体における「不純物」

当連載シリーズ第3回までのコラムで述べたように、半導体はほとんど絶縁体で、そのままでは電気的なデバイスには使えませんが、不純物を適量混ぜることで電気的な特性を制御することができます。
ここで言う「不純物」とは、半導体を形成する元素とは別の元素という意味であって、混ぜるもの自体の純度は高い物を使います。

なお、不純物を混ぜていない半導体を一般的に「真性半導体」と呼びますので、当コラムでも以降はこの言葉を使います。第3回までに説明してきた半導体とは、すべて真性半導体のことです。

真性シリコンに少量のリン(P)を均一に混ぜた結晶を考えましょう。
「少量」のイメージは、シリコンの原子密度~5×1022/cm3に対して、1×1016/cm3程度~1×1018/cm3程度、つまりシリコン原子5百万個~5万個当たりリン原子ひとつが入っている勘定です。                          
ここでの説明には、一番直感的にイメージしやすい平面的な図を使いますが、リンは図1のように最外殻電子が5個であり、シリコンより一つ多くなっています。

 

シリコン原子とリン原子の最外殻電子数の比較
【図1 シリコン原子とリン原子の最外殻電子数の比較】

 

そのため、シリコン原子に囲まれたリン原子が周りのシリコン原子と結合すると、電子が一つ余った状態、すなわち結合軌道には入れないことになり、図2のように反結合軌道に入ります

 

シリコン-リン結合部の電子状態
【図2 シリコン-リン結合部の電子状態】

 

これは伝導帯に電子が一つ入った状態に相当します。
しかし実際には、この電子はプラスに帯電した(もともと5個の電子を持つ状態で中性だったリン原子核の周りに4個の電子しかいない勘定なので)リン原子核にクーロン力で束縛され、図3のような状態になります。
薄く描いたシリコン結晶の中に、プラスの固定された電荷と動き回れる電子を付け加えたイメージです。

 

シリコン中のリンに束縛された電子のイメージ
【図3 シリコン中のリンに束縛された電子のイメージ】

 

ドナーとは

この状況をバンド図で示せば、図4のようになります。
縦軸はエネルギー、横軸は空間的な場所を模式的に示したものです。
リンから供給された余分な電子は、リン原子核にクーロン力で束縛されているため伝導帯の電子より少しエネルギーが低く(~50meV)、絶対零度では空間的には局在化しています。
この場合のリンのように、シリコンに対して電子を供給するような不純物を「ドナー」(donor)と呼び、バンド図中でのエネルギー位置を図4のようにEDで示します。

 

シリコン中のリンが作るドナーレベル
【図4 シリコン中のリンが作るドナーレベル(バンド図)】

 

ドナーレベルの深さ(と言う表現を使います)、この場合~50meVが、室温に相当するエネルギー(~25meV)と同程度なので、実は室温ではほぼすべての電子は伝導帯に上がっていてドナーは実質的には空になり、伝導帯には混ぜたリンの数に相当する動ける電子があるという状態です。

一方、価電子帯から伝導帯に上がる電子の数は、室温ではわずかですから(真性シリコンの場合~5×1010cm-3程度)、価電子帯にできる正孔の数もわずかです。

 

n型半導体とは

このように伝導帯の電子の数が価電子帯の正孔の数より多く、電気伝導が主に電子によってなされている半導体を「n型半導体」(n は”negative”すなわち主に負電荷によって電気伝導が支配されていることによる)と呼びます。

また、電気伝導を担う物電子あるいは正孔)を、電荷を運ぶという意味で「キャリア」と呼び、この場合の電子のように、数が多い方を「多数キャリア」、少ない方を「少数キャリア」と呼びます。

つまり、多数キャリアが電子であるのがn型半導体ということです。

不純物を混ぜたn型シリコン

 

2.p型半導体の基礎知識

今度はシリコンに少量のホウ素(B)を均一に混ぜた結晶を考えましょう。
少量のイメージは、リンの場合と同様、シリコン原子5百万個~5万個当たりリン原子ひとつです。
ホウ素は図5のように最外殻電子が3個であり、シリコンより一つ少なくなっています。

 

シリコン原子とホウ素原子の最外殻電子数の比較
【図5 シリコン原子とホウ素原子の最外殻電子数の比較】

 

そのため、シリコン原子に囲まれたホウ素原子が周りのシリコン原子と結合すると、電子が一つ足りない状態、すなわち結合軌道に空き(正孔)がある状態になります(図6)。

 

シリコン-ホウ素結合部の電子状態
【図6 シリコン-ホウ素結合部の電子状態】

 

しかし実際には、この正孔はマイナスに帯電した(もともと3個の電子を持つ状態で中性だったホウ素原子核の周りに4個の電子がある勘定なので)ホウ素原子核にクーロン力で束縛され、図7のような状態になります。

 

シリコン中のホウ素に束縛された正孔のイメージ
【図7 シリコン中のホウ素に束縛された正孔のイメージ】

 

アクセプターとは

これをリンの場合と同様のバンド図で示せば、図8のようになります。
ホウ素から供給された余分な正孔は、価電子帯の正孔より少しエネルギが低く( ~50meV。正孔から見れば図の上に行くほどエネルギーが低い)、絶対零度では空間的には局在化しています。
この場合のホウ素のようにシリコンに対して正孔を供給する(電子を受け取る)ような不純物を「アクセプター」(acceptor)と呼び、バンド図中でのエネルギー位置を図のようにEAで示します。

 

シリコン中のホウ素が作るアクセプターレベル
【図8 シリコン中のホウ素が作るアクセプターレベル(バンド図)】

 

リンの場合と同様、アクセプターレベルの深さ、この場合~50meVが、室温に相当するエネルギー(~25meV)と同程度なので、実は室温では、ほぼすべての正孔は価電子帯に上がっていて(正孔から見れば価電子帯にいる方がエネルギーが高い)アクセプターは実質的には正孔がいない状態(電子が詰まっている)になり、価電子帯には混ぜたホウ素の数に相当する動ける正孔があるという状態です。

一方、価電子帯から伝導帯に上がる電子の数は、室温ではわずかです(真性シリコンの場合~5×1010cm-3程度)。

 

p型半導体とは

このように価電子帯の正孔の数が伝導帯の電子の数より多く、電気伝導が主に正孔によってなされている半導体を「p型半導体」(p は”positive”すなわち主に正電荷によって電気伝導が支配されていることによる)と呼びます。
この場合、多数キャリアは正孔であり、少数キャリアは電子ということになります。

 

アクセプターとドナーの深さ

 

3.不純物半導体におけるキャリア濃度の温度依存性

不純物を混ぜること(これを「ドープする」と言い、またドープされた不純物のことを「ドーパント」と言います)でキャリア濃度を制御したn型半導体、P型半導体を「不純物半導体」と呼んで「真性半導体」と区別します。

真性半導体では、キャリア濃度の温度依存性は指数関数的でしたが、不純物半導体ではどうなるのかを、n型の場合で説明します。p型の場合も電子と正孔を入れ替えれば同様に考えることができます。

図9では、絶対零度から高温までの伝導帯の電子濃度と、フェルミ準位の位置をいずれの軸もリニアスケールで示しており、凍結領域、出払い領域、真性領域での挙動を順に説明していきます。

 

伝導帯の電子濃度とフェルミ準位の位置の温度依存性
【図9 伝導帯の電子濃度とフェルミ準位の位置の温度依存性】

 

絶対零度ではドナーレベルから伝導帯に電子は上がれないので伝導帯の電子数はゼロです。少し温度が上がるとドナーレベルから一部の電子が伝導帯に上がります。ここまでの温度範囲を「凍結領域」と呼びます。

さらに温度を上げるとドナーにあった電子はほとんどすべて伝導帯に上がります。これは伝導帯の方が居場所が多い(状態密度が大きい)ためです。この温度範囲では、ドナーは空っぽになるため「出払い領域」と呼び、伝導帯の電子数は、この温度領域では温度によらずほぼ一定になります。

 

不純物イオン領域と飽和領域

 
さらに温度を上げると、価電子帯からも多数の電子が伝導帯に上がってこれるようになります。
真性半導体の場合と同様の温度依存性を示し、この電子の数の方がドナーからの電子の数を上回るようになるため、「真性領域」と呼びます。

この間、フェルミ準位の位置は図の下方に示したように変化します。
凍結領域では、EDとECの中間にあり、出払い領域では温度上昇と共にドナーレベルから徐々にバンドギャップの中央に移っていきます。

 

フェルミ準位が半導体がデバイスの材料として使われる温室

 

4.まとめ(おさらい)

  • 真性半導体に不純物を混ぜ、キャリア濃度を制御した半導体を「不純物半導体」と言う。
  • 電子を供給するような不純物を「ドナー」、正孔を供給するような不純物を「アクセプター」と呼ぶ。
  • 電気伝導が主に電子によってなされている半導体を「n型半導体」、主に正孔によってなされている半導体を「p型半導体」と呼ぶ。
  • 不純物半導体でのキャリア濃度の温度依存性は、凍結領域/出払い領域/真性領域の三温度領域に分かれる。

 
次回は、「化合物半導体」について解説します。

 

(アイアール技術者教育研究所 H・N)

 

 

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