分散液の乾燥:皮張りと沈降を考える《Roll To Rollフィルム乾燥のツボ⑥》
Roll To Rollフィルム製造の乾燥プロセスに関する連載の最終回は「分散系の乾燥」について解説します。
分散物を伴う乾燥では「皮張り(Skinning)」や「沈降」などの現象も考慮する必要があります。
今回も搔い摘んだ説明になりますので、詳細はセミナー、文献やツール(文献1)をご活用ください。
1.フィルム製造の乾燥工程における偏析《皮張りと沈降》
塗膜中の分散物粒子は、ブラウン運動しながら重力により沈降します。
一方、乾燥中は膜面が基材フィルムに接近します(図1)。
膜収縮が速いと皮張りになるし、粒子が重いと沈降します。膜厚方向で分散物もバインダー等の添加剤も一様に均一な膜にしたいのであれば、「皮張らず沈降しない」拡散支配の状態を目指すことになります。小粒径、薄膜が理想ですが、乾燥速度はトレードオフになってしまいます。
【図1 分散粒子に作用する力】
2.皮張りと沈降の支配因子(文献2~4)
蒸発支配の皮張り(スキン層)と、沈降と拡散の傾向は図1の両対数マップで示されます。
横軸のNsは沈降速度と乾燥速度の比、縦軸のPe数は乾燥速度と膜厚の積を拡散係数で割った値です。
【図2 蒸発・沈降・拡散の関係】
3.皮張りと沈降の見積もり(文献1)
着目している分散液の乾燥状態がどこにあるか大まかに知りたい時は、RTR解析ツールに条件入力すれば推算結果とマップ内の位置を知ることができます(図3,4)。
実際の現象は複雑な要因を含むのであくまでも目安ですが、Roll To Roll量産機の試行前に予め見積もって対策条件を準備しておくと、問題が発生しても、現場でドタバタせずに対応しやすいでしょう。
【図3 ツールによる皮張りと沈降の見積もり】
【図4 ツールのグラフ表示】
当連載「Roll To Rollフィルム乾燥のツボ」シリーズは、このコラムが最後になります。
Roll To Roll製造における乾燥プロセスのエッセンスを大雑把に紹介してきましたが、詳細な技術知識や実務対応力を習得したい方は、文献の確認やセミナーの受講をお勧めします。
(※この記事は AndanTEC代表 浜本伸夫 講師からのご寄稿です。)
≪引用文献、参考文献≫
- 1)AndanTEC(アンダンテック)、ウェブサイト「Tools/Drying(乾燥・クリーン度)」
https://www.andantecodawara.com/drying - 2)Christine M. Cardinal, Yoon Dong Jung and Kyung Hyun Ahn, L. F. Francis, “Drying Regime Maps for Particulate Coatings”, AIChE Journal, 56 (2010) p2769-2780
- 3)山村方人,「電極製造へ向けた大面積塗布乾燥技術の基礎」2021.12.10 FC-Cubicオープンシンポジウム
https://fc-cubic-event.jp/wp-sympo/wp-content/uploads/2020/10/tech-info-1.pdf - 4)辰巳怜,「粒子分散液の塗布・乾燥プロセスを解明する微視的数値計算」一般社団法人先端膜工学研究推進機構2021年度膜工学春季講演会 膜工学サロンA 塗布膜p32(2022/3/29)
https://maftech-kobe.or.jp/home/wp-content/uploads/2022/03/Maku2021_tatsumi.pdf
- 第1回: 乾燥の3要素と数式化
- 第2回: 乾燥風の吹き出し方式と乾燥能力
- 第3回: 乾燥速度の支配因子:膜面温度とガス濃度をやさしく解説
- 第4回: 定率乾燥と減率乾燥
- 第5回: 溶媒の影響と比エンタルピー線の計算,飽和蒸気圧の見積方法
- 第6回: 分散液の乾燥:皮張りと沈降を考える
- 第1回: 実験室からRoll To Rollへ|塗れる条件と塗工・乾燥のポイント
- 第2回: 薄く塗るか?厚く塗るか?適正なダイ構造と条件
- 第3回: スケールアップの注意点を解説|狭幅パイロットから広幅の量産へ
- 第4回: 同時重層のポイントを解説|粘度と流量のバランスは?
- 第5回: バックアップしない塗工方式 TWOSD (Tensioned Web Over Slot Die)