メッキと塗装の違いとは?メリット・デメリットなどを比較解説

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メッキと塗装

表面処理の中で、「メッキ」(めっき・鍍金)と「塗装」は広く使用されている処理方法ですが、両者にはどのような違いがあるのでしょか?今回は、メッキと塗装の違いと、それぞれの特徴(メリット・デメリット)について説明し、両者の使い分けのポイントをわかりやすく解説します。

1.メッキと塗装の目的と相違点

(1)メッキと塗装の目的

はじめに、メッキと塗装の目的について確認してみます。
メッキと塗装は、両者とも素材の表面にμm単位の薄い皮膜を形成する表面処理です。
メッキ・塗装による表面処理には、大きく分けると3つの目的があります。

  • 保護:素材を守る(耐食性向上など)
  • 装飾性向上:色彩や模様、光沢などが、外観をきれいに整える
  • 機能付与:素材には無い特殊な性質を加える(防カビ性、抗菌性など)

以上の保護、装飾性向上、機能付与の仕様については、メッキと塗装では多少異なる部分もありますが、主な目的は同じです。

 

(2)メッキと塗装の相違点

メッキと塗装の技術的な大きい相違点は、被膜のタイプの違いです。

  • メッキは素材の表面に金属皮膜を形成 ⇒ 素材の原子と原子間の結合金属結合
  • 塗装は素材の表面に樹脂を含んだ皮膜を形成 ⇒ 素材の分子と分子間の結合ファンデルワールス力

物理の法則からするとファンデルワールス力は、金属結合に比較すると、はるかに弱い結合力です。それでは、塗装はすぐに剥げてしまうのかと言うとそうではありません。樹脂を含んだ塗料は高分子なので活性点が無数にあり、結果として大きな付着力になります。
それでも、メッキの結合力と比較すると、塗装の結合力は弱いと言えます。

この結合力の相違から起因して、メッキと塗装はそれぞれ以下のような特徴があります。

 

2.メッキと塗装の特徴比較

(1)メッキの特徴(メリット・デメリット)

メッキ処理には以下のような特徴があります。
 
《メッキのメリット》

  • 膜厚が均一密着性に優れ、剥がれにくい
    (メッキは金属結合であり、更に膜厚の制御がしやすい
  • 構造が複雑な部品形状でも均一に皮膜を作れる
    (メッキ槽への浸漬により、部品の隅や内面も処理可能)

 
《メッキのデメリット》

  • 処理には大規模装置が必要時間がかかる
    (脱脂槽⇒水洗槽⇒前処理槽(電解、酸洗)⇒メッキ槽⇒水洗槽⇒乾燥炉をはじめ廃液処理装置などが必要)
  • 手直しが難しい
    (メッキの一部が剥がれた場合に、再度メッキ処理を行うことは不可能)
  • 塗装のようなさまざまな着色は不可能
    (メッキは金属皮膜のため、金属の色のバリエーションは限界があるため)
  • 大型部品の処理が不可能な場合がある(メッキの槽の大きさに左右されるため)

 

(2)塗装の特徴(メリット・デメリット)

一方、塗装処理の特徴としては以下の点が挙げられます。
 
《塗装のメリット》

  • ハケ塗りやローラーなどは、簡易な治具で処理が可能
    (電着塗装などはメッキと同様の設備が必要となる場合がある)
  • ハケ塗りなどで手直し(再塗装)が容易
    (ハケ塗りなどで塗装の上から塗り直しを行うことも可能)
  • 塗料の種類が多く、多彩な色彩から選べる
    (塗料に着色顔料を混ぜることで、多彩な選択肢が可能)
  • ハケ塗りやローラーなどは大型部品でも処理が可能
    (ただし、電着塗装はメッキ同様に槽の大きさによりNG)

 
《塗装のデメリット》

  • 皮膜にムラが生じやすく密着性も弱い。
    (樹脂皮膜と素材の結合はファンデルワールス力のため)
  • ハケ塗り、ローラーなどでは部品の構造が複雑な場合は塗装が難しい場合がある
    (電着塗装は槽に浸漬することで構造が複雑な場合でも塗装可能)

 
以上のように、メッキと塗装はそれぞれ異なった特徴があり、目的や用途に合わせて使い分けが重要です。

 

3.「メッキ塗装」とは?《参考》

ここまで「メッキ」と「塗装」の違いについてご説明してきましたが、「メッキ塗装」という紛らわしい言葉も使われています。

メッキ塗装」は、金属を吹き付けによる「メッキ風塗装」のことを指すことが多いです。
素材の表面に銀などの金属を含んだ塗料を吹きかけ金属を析出し、その上に透明な塗装を行う方法であり、メッキのような光沢、質感を得ることができます。
その一方で、比較的はがれやすく、均一性もメッキほど高くはありません。

名前こそ紛らわしいですが、外観がメッキに似ている塗装(メッキ調の塗装)の一種スプレー塗装)と考えることができます。

 

4.まとめ[メッキと塗装の比較]

今回は メッキと塗装の相違点とそれぞれの特徴を整理してみました。
下記表1に両者の比較をまとめていますので、参考にして下さい。

 

【表1 メッキと塗装の目的・相違点まとめ】

目的 相違点 特徴
メリット デメリット
メッキ ①保護
②装飾性向上
③機能付与
メッキは素材の表面に金属皮膜を形成⇒素材の原子と原子間の結合(金属結合)
  • 膜厚が均一で密着性に優れ、剥がれにくい
  • 構造が複雑な部品形状でも均一に皮膜を作れる
  • 処理には大規模装置が必要で時間がかかる
  • 手直しが難しい
塗装 塗装は素材の表面に樹脂を含んだ皮膜を形成⇒素材の分子と分子間の結合(ファンデルワールス力)
  • ハケ塗りやローラーなど、簡易な治具で処理が可能で、大型部品にも対応しやすい
  • 手直しが容易
  • 塗料の種類が多く、多彩な色彩から選べる
  • 皮膜にムラが生じやすく密着性も弱い
  • ハケ塗り、ローラーなどでは部品の構造が複雑な場合は塗装が難しい場合がある

 
次回は、メッキの種類と原理・特徴について解説します。

 

(アイアール技術者教育研究所 T・I)

 

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