【次世代太陽電池】ペロブスカイトとカルコパイライトの違いは?特徴や実用化を比較

ペロブスカイト太陽電池は、現在主流の結晶シリコン太陽電池を代替し得る次世代型太陽電池として期待されています。結晶シリコン系に迫る高い変換効率を示すだけでなく、重くて柔軟性に乏しい結晶シリコン系とは異なり、プラスチックフィルム上に形成できるため軽量で、曲面への設置も可能という特長を有しています。
こうした状況の中、同じくフィルム化が可能で、名称も似ている「カルコパイライト太陽電池」も注目を集めています。では、これら二つの太陽電池にはどのような違いがあるのでしょうか。
目次
1.ペロブスカイト太陽電池とカルコパイライト太陽電池
(1)両太陽電池の位置づけと開発背景
両太陽電池を比較する前提として、太陽電池の区分を表1に示します。
ペロブスカイト太陽電池、カルコパイライト太陽電池はいずれも次世代型太陽電池に分類されます。
【表1 太陽電池の区分】
本記事では、これら二つの太陽電池の比較に重点を置きます。
ペロブスカイト太陽電池については、下記の別コラムも併せてご参照ください。
カルコパイライト太陽電池は全く新規の太陽電池ではありません。以前はCIGS(Cu-In-Ga-Seの略、化合物系)太陽電池と呼ばれていました。かつてはガラス基板上に形成される高重量のものが主流でしたが、近年ではフィルム型としての検討が進み、結晶構造に由来する「カルコパイライト太陽電池」という名称が用いられることが増えています。
(2)発電特性・製造プロセス(成膜方法)の違い
表1の区分を前提に、ペロブスカイト太陽電池とカルコパイライト太陽電池を比較したものを表2に示します。
【表2 ペロブスカイト太陽電池とカルコパイライト太陽電池の比較】
両者とも組成を調整することにより半導体としてのバンドギャップや吸収波長を調整できますが、可視光の吸収が強いペロブスカイトに対してカルコパイライトは赤から近赤外を吸収するのが特徴です。
変換効率の点では両者とも結晶シリコン系に迫る値を有していますが、現時点ではペロブスカイト太陽電池がやや上回っています。
一方、成膜方法には大きな違いがあります。ペロブスカイト太陽電池は、原料溶液を塗布し、比較的低温で乾燥させるだけで成膜できるという製造プロセス上の大きな利点があります。これに対してカルコパイライト太陽電池では蒸着が必要になります。
変換効率と成膜法に関してはペロブスカイト太陽電池の方が優位です。しかしペロブスカイト太陽電池には、均一な膜を得るのが難しい、欠陥があると性能が大きく低下する、耐久性が乏しいという欠点もあり、これらの点で現状ではカルコパイライト太陽電池に及びません。カルコパイライト太陽電池は、タフな化合物半導体と評価されています。
(3)名称の由来となる結晶構造の違い
両者の名称はそれぞれの結晶構造に由来しています。各結晶構造を図1、図2に示します。

【図1 ペロブスカイトABX3の結晶構造】

【図2 カルコパイライトの結晶構造】
2.実用化に向けた取り組み
両者共に実用化に向けた実証段階にあります。
2025年4~10月に開催された大阪・関西万博の会場では、積水化学(株)のフィルム型ペロブスカイト太陽電池の実証実験が行われました。このほか、複数の施設においても実証試験が進行しています。
一方、カルコパイライト太陽電池については、豊田通商(株)が2025年11月から、路線バスの天井にフィルム型太陽電池を搭載した実証試験を開始しました。車内の空調などに必要な電力を太陽光発電で補うことで、エンジンの負荷を軽減し、燃費改善効果を検証するとしています*3)。
実用化の鍵を握るタンデム太陽電池構想
実用化に際して注目すべき点として、異種太陽電池を組み合わせたタンデム構造が計画されていることが挙げられます。
(株)PXPはフィルム型カルコパイライト太陽電池の開発に取り組むベンチャー企業であり、同社は、カルコパイライト単独での実用化を先行させ、その後ペロブスカイトとカルコパイライトのタンデム化を目指すとしています4)。タンデム化により30%以上の変換効率が見込まれています。
本記事を通じて、ペロブスカイト太陽電池とカルコパイライト太陽電池の違い、ならびに両者の組み合わせによる将来展望をご理解いただければ幸いです。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》
- 1) T.A. Chowdhury etc., Stability of perovskite solar cells: issues and prospects, RSC Adv. 13, 1787-1810(2023)
https://pubs.rsc.org/en/content/articlepdf/2023/ra/d2ra05903g - 2)H.K. Park etc., Flexible Cu(In,Ga)Se2 photovoltaics for bending applications: advances from materials to panels, J. Mater. Chem. C, 13, 2554-2577(2025)
https://pubs.rsc.org/en/content/articlepdf/2025/tc/d4tc04422c - 3)豊田通商株式会社(WEBサイト)
https://www.toyota-tsusho.com/press/detail/251104_006719.html - 4)株式会社PXP(WEBサイト)
https://pxpco.jp/product/technology/






































