新薬創出加算とは?適用要件や加算の仕組みなど要点解説
2010年度の薬価制度改革で試験的に導入された、新薬創出加算制度はご存じでしょうか?
革新的な医薬品開発を行う企業にとって、薬価引き下げを緩和する新薬創出加算はぜひ活用したい制度です。
新薬創出加算は、制度開始からさほど期間が過ぎていないこともあり、頻繁に制度改正が行われています。
本コラムでは、2022年度改定の情報を含め、新薬創出加算の概要を簡単にご紹介します。
新薬創出加算について、すでにご存じの方もそうでない方も、ぜひ一度、目を通してみてください。
目次
1.新薬創出加算とは?
新薬創出加算は、条件を満たした特許期間中の新薬に対し、薬価改定時に薬価の引き下げが猶予されるよう、加算を行う制度です。
正式名称を「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」といい、薬価制度改革が行われた2010年度から試験的に導入されています。
「革新的な新薬の創出を加速させること」を目的として掲げられており、企業・品目によって対象の可否が判断されます。
また、新薬創出加算の対象となる新薬を「新薬創出加算品」といいます。
2.新薬創出加算の対象要件
新薬創出加算の対象の可否は下記の2点で判断されます。
- 対象となる企業か否か
- 対象となる品目か否か
新薬創出加算の対象判断には企業要件を満たしているかが優先されます。
新薬創出加算を有効に活用するためには、まず企業要件を満たす必要があります。
以下で、対象となる企業・品目の要件をご紹介します。
(1)対象となる企業
新薬創出加算対象の可否は、まず企業ごとに判断されます。
- 「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」に基づき、厚生労働省から開発要請もしくは公募された品目の開発
- 真に医療の質の向上に貢献する医薬品の研究開発
新薬創出加算は、上記の取り組みを行っている企業が対象となります。
(2)対象となる品目
新薬創出加算の対象品目は、下記条件をいずれも満たしている品目が対象です。
- 後発医薬品が薬価収載されていない新薬
- 薬価収載から15年経過後の薬価収載をむかえていない新薬
さらに、上記条件に加えて、下記のいずれかを満たしている必要があります。
- オーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)
- 厚生労働省が公募して開発された医薬品(開発公募薬)
- 薬価算定時に画期性加算、もしくは有用性加算が行われた医薬品(加算適用品)
- 革新性や有用性がある新規作用機序の医薬品、もしくは同等の作用機序で先発医薬品の薬価収載から3年以内かつ3番手以内に薬価収載された医薬品
- 先駆け審査指定制度の指定品目
- 薬剤耐性菌に対する治療効果が明確な薬剤耐性菌の治療薬
なお、「乖離率が全収載品の平均乖離率をこえないもの」と定義されており、該当する医薬品は新薬創出加算の対象から外されます。
対象範囲 | 対象品目 |
後発医薬品が発売されていない かつ 薬価収載から15年以下 |
|
【表1 新薬創出加算の対象範囲・品目】
3.加算率の決め方
新薬創出加算は、加算対象に決定した品目がどの程度の加算を受けられるかが、企業ごとの評価によって異なります。
具体的な評価項目は、収載品目数の他、臨床試験数や公募品目の開発数などです。それぞれ点数化され、評価されます。
(1)企業の評価指標
新薬創出加算の加算率を決める企業指標は下表2の通りです。
指標内容 | 取得ポイント |
PhaseⅡ以降の国内臨床試験実施数 | 上位25% 4pt 中位50% 2pt |
新薬収載実績 | 上位25% 4pt 中位50% 2pt |
過去5年の革新的新薬(新薬創出等加算対象品目または新規作用機序医薬品)の収載実績 | 実績あり 2pt |
過去5年の薬剤耐性菌の治療薬の収載実績 | 1品目について2pt |
過去5年の開発公募品(開発着手数・承認取得分を除く) | 1品目について2pt |
過去5年の開発公募品(承認取得数) | 1品目について2pt |
過去5年の世界に先駆けた新薬の開発(品目数) | 1品目について2pt |
【表2 企業評価指標】
2022年度の薬価改定時に、企業規模によらず革新的な新薬開発に取り組む企業が企業規模に関係なく評価されるよう、「革新的新薬の収載実績」で評価する項目が追加されました。
(2)加算係数
新薬創出加算は、それぞれの企業の医薬品開発の取り組みによって加算に差がつけられます。
そのため、新薬創出加算対象に決定した品目が、どの程度の加算を受けられるかは、企業ごとの評価によって異なります。
上述した企業指標の項目ごとに点数化し、合計点の上位25%、最低点数、それ以外に区分分けして加算係数が加えられます。
区分 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ |
範囲 | 上位25% | Ⅰ、Ⅲ以外 | 2pt以下 |
加算係数 | 1.0 | 0.9 | 0.8 |
【表3 企業分類の加算係数】
区分Ⅲの範囲が、2022年度の薬価改定で「最低点数」から「2pt以下」へ引き上げられました。
4.加算の返還
先述した通り、新薬創出加算の対象は下記をいずれも満たしている品目です。
- 後発医薬品が薬価収載されていない新薬
- 薬価収載から15年経過後の薬価収載をむかえていない新薬
新薬創出加算の対象から外れた医薬品について、新薬創出加算対象期間中に加算されていた額は、直後の薬価改定で引き下げられます。これを「加算の返還」といいます。
5.革新的医薬品開発を後押しする新薬創出加算
新薬創出加算は、開発の必要性が高い医薬品開発を後押しするために試験的に実施されている制度です。
対象となるためには、厳しい企業要件をクリアする必要がありますが、開発した新薬が新薬創出加算品となれば、薬価低下を抑えられます。
対象品目に該当する医薬品開発を行う企業にとって、ぜひ活用したい制度の一つといえるでしょう。
本コラムでは詳しく触れませんでしたが、前回の薬価改定時にいくつか改定がなされ、要件クリアが厳しくなったとの見方がされていました。
しかし、2023年度薬価改定では、対象企業数、品目数ともに前年度と比較し、増加しています。
新薬創出加算は、社会的に必要性が高い革新的医薬品の開発を後押しする制度なので、今後も発展が期待できるでしょう。
たびたび検討・改善が重ねられており、翌年の傾向が見えづらい新薬創出加算ですが、検討する価値は十分にある制度です。効果的に医薬品開発が行えるよう、最新情報を入手するよう心がけるとよいでしょう。
(アイアール技術者教育研究所 S・N)
≪引用文献、参考文献≫
- 1)厚生労働省「新薬創出・適応外薬解消等促進加算について」
- 2)厚生労働省「令和2年度薬価制度改革の概要」