【ナノ粒子分散 実践編】分散液の作製方法、ビーズミルなど分散機の概要を解説《ナノ粒子入門③》
ナノ粒子分散に関する前回のコラム「【ナノ粒子分散 理論編】相互作用の種類、凝集のメカニズムと分散技術の基本」では、粒子の凝集-分散における理論やアプローチについて説明しました。
今回は、実際にナノ粒子を溶媒へ分散させるためにはどのような手法があるのかについて解説します。
目次
1.ナノ粒子分散液の作り方
ナノ粒子は凝集しやすいという特徴があるため、それらをほぐして(解砕して)、再度凝集しないように安定化させることが必要です。多くの場合、ナノ粒子、溶媒、分散剤を含む液を分散機により処理し、ナノ粒子分散液を作製します。(図1)
【図1 ナノ粒子分散液の作り方イメージ】
うまく分散させるためには、様々な条件を最適化する必要がありますが、中でも重要なポイントについて次に説明します。
2.ナノ粒子の分散液作製のポイント
(1)ナノ粒子表面を溶媒で「濡らす」
凝集した粒子をほぐす(解砕する)ためには、分散機を用いて機械的な力を与えることが有効ですが、よりよくほぐすためには、粒子表面を溶媒でよく濡らすことが重要です。
凝集した粒子同士の隙間に溶媒が浸透することによって、凝集力が低下します。さらに、よく濡れていることにより分散機による力が凝集粒子内部まで伝わりやすくなります。
良い濡れを実現するためには、ルーカス‐ウォッシュバーンの式(LW式)1)が参考になります。
ここでは詳細を省きますが、LW式によると溶媒が凝集体へ浸透しやすくなるためには、①凝集体の隙間が広いこと、②溶媒と粒子表面の接触角を小さくすること、が必要です。
分散成功のためには、強く凝集しすぎていない粒子を選定すること、ナノ粒子表面が分散させたい溶媒をはじいてしまうような状態の場合には、界面活性剤を使用する、粒子を表面処理するなどの工夫が必要です。
(2)適した分散機を選定する
分散機は、凝集粒子に対してせん断力もしくは衝撃力を与えて微粒化を進行させます。
せん断力を利用した分散機は、微小な空間に速度勾配を生じさせて、その場にある粒子凝集体を引き離すように解砕し、基本的には粒子を破砕することはありません。
一方で、衝撃力を利用する分散機は、分散機内の分散媒体(ボールやビーズ)などを凝集体に衝突させて解砕するもので、場合によっては粒子が破砕する可能性もあります。
また、分散機によって得意とする粘度域があるため、目的の分散液粘度や、さらには、バッチ式か連続式かなど、様々な点を考慮して分散機を選定する必要があります。
(分散機については、3.で詳しく解説します)
(3)ナノ粒子表面を安定化する
凝集粒子を解砕しても、時間とともに再度凝集してしまうことがあります。再凝集しないよう安定させるためには、分散剤を用いることが多く、様々な種類の分散剤があります。
例えば、解砕された粒子表面に高分子を吸着させることで、立体障害により再凝集を阻止します。
3.ナノ粒子用の分散機
(1)分散機の種類
上述の通り、分散機は、せん断力や衝突力を利用して粒子を微粒化しています。
表1に代表的な分散機をまとめています。それぞれの分散機の特徴を考慮し、目的の分散液を得るために最適な分散機を選定することが必要です。
【表1 ナノ粒子に用いる分散機の種類と分散原理】
分散機の種類 | 分散原理 | 具体例 | 備考 |
媒体撹拌型ミル | 粒子、溶媒等中に媒体としてビーズやボールを入れ撹拌する。媒体の運動によって生じる衝撃力やせん断力を利用。 | ビーズミル | 低~中粘度の分散体に対応。ナノ粒子の分散にも適用。装置、媒体の洗浄に多量の洗浄液が必要。 |
容器駆動型ミル | 容器に媒体(ボールなど)と粒子、溶媒等を入れ回転させる。媒体が粒子と衝突する際に生じる衝撃力を利用。 | ボールミル | 構造が簡単であるため、維持が容易。装置、媒体の洗浄には多量の洗浄液が必要。容器の大きさでバッチスケールが決定。 |
ロールミル | 異なる速度で回転するロールの隙間でのせん断を利用。 | 3本ロールミル | 高粘度の分散体に対応。ナノ粒子の分散にも適用。 装置の洗浄が容易で少量多品種の生産へも対応可能。開放状態の作業であり、溶媒の揮散が問題となることも。 |
(2)ビーズミルの基礎知識
ここでは、低~中粘度のナノ粒子分散液作製によく使用される「ビーズミル」について詳しく見ていきます。
ビーズミルは容器の中に微小な球状の媒体(ビーズ)を充填し、撹拌することでビーズを運動させます。
ビーズの運動によって生じる衝撃力、せん断力で微粒化が進行します(図2)。
【図2 ビーズと凝集粒子の相互作用】
従来のビーズミルは衝撃力による分散が主体でしたが、一次粒子の破砕防止のためせん断力が主体の機種も登場しています。
① ビーズミルの構造(仕組み)
図3に縦型ビーズミルの構造例を示しています。
撹拌軸を備えたベッセルの中にビーズを充填し、撹拌します。
下部より分散液原料を投入しビーズと粒子とを接触し、微粒化します。
十分処理したのちに、セパレーターを介してビーズを分離し目的の分散液を取り出します。
【図3 縦型ビーズミルの構造例】
ビーズミルはベッセルの向きにより縦型と横型があります。
両者の特徴は主にビーズの充填率の違いにあります。充填率は高い方が分散効率は良くなりますが、縦型に比べ横型の方が充填率を高くすることができます。
② ビーズミルで用いるビーズ(材質、注意点など)
ビーズミルで用いられるビーズの材質は、主にガラス、アルミナ、ジルコニアが使用され、ビーズ径はφ0.03 mm~φ2.0 mm程度です。大きなビーズほど解砕力は強い一方、小さな凝集体は解砕されず、微粒化されません。ナノ粒子を分散させるためには、微小ビーズを選択する必要があります。
しかしながら、ビーズ径が小さくなると、1粒あたりの重量も軽くなるため、解砕力も弱くなってしまいます。そこで、密度の高いビーズ材質を選定する、ベッセルへの充填密度を上げる、処理時間を長くするなど運転条件の精査が必要です。
また、ビーズ材質のコンタミネーションも避けることができないため、試験段階からチェックしておくなど注意が必要です。
今回は、ナノ粒子の分散を実際に行う手順や使用する装置についての説明を行いました。
実際に分散を成功させるためには、粒子の状態から分散液の組成、分散条件まで様々な因子の精査が必要かと思います。より詳しい実務知識を習得したい方は、粒子分散に関する技術セミナーもご活用ください。
次回は、ナノ粒子の評価について、粒度分布測定を中心に解説していきます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 M・S)
《引用文献、参考文献》
- 1)小林敏勝「トコトンやさしい 粒子分散の本」,日刊工業新聞社(2022)