ナノ粒子とは?特徴、作り方、用途、危険性など要点解説!《ナノ粒子入門①》
近年、ナノテクノロジーは様々な分野で進歩しており、その中でも「ナノ粒子」は様々な材料が研究対象となり応用が検討されています。
この連載では、複数回に渡ってナノ粒子の基礎知識について解説していきたいと思います。
今回は、ナノ粒子の基本的な特徴、作り方、用途について解説し、その危険性についてもご説明します。
目次
1.ナノ粒子とは?
「ナノ」とは10-9(10億分の1)を表す言葉であり、「ナノ粒子」とは概ね直径が1 ~100 nmの大きさの粒子のことを指します。
では、粒子のサイズが小さくなるとどのような特徴があるのでしょうか?
ナノ粒子は、「小さい」、「表面積が大きい」ことが特徴で、バルク材料とは異なる物性を見せてくれます。
粒子が小さいことによるメリット
「小さい」粒子になると、条件によっては粒子が沈降しにくくなるため、分散安定性が向上します。また、可視光(400~800 nm)よりも十分に「小さい」ことで、光の散乱が起こりにくく分散体の透明性を保つことができます(図1)。
【図1 小さなナノ粒子】
表面積が大きいことによるメリット
「表面積が大きい」ことで、触媒反応のように表面で進行する反応では単位重量あたりの活性が向上します(図2)。また、金属ナノ粒子では融点が下がるため、より低温での処理が可能になります。
【図2 表面積の大きなナノ粒子】
より小さな~10 nm程度の粒子となると、表面原子が全体積に占める割合が大きくなり、バルクでは無視できる表面の効果が支配的となります。更にバルク状態とは電子状態が異なるものとなり、光物性,電気伝導,比熱,電磁率などの様々な物性が粒子のサイズに影響を受けるようになります。(量子サイズ効果)
以上のように、「ナノ粒子」はそれよりも大きい粒子に比べて、特異的な性質を持つことが知られています。
次にどのような方法でナノ粒子が作られているか見ていきます。
2.ナノ粒子の作り方
ナノ粒子の作り方は大きく分けて、ボトムアップ法とトップダウン法の2つに分けられます。
代表的な作製方法を下記にまとめています。各手法によって、得られる粒子のサイズや形状、結晶性など特性が異なるため、目的に応じて作製手法を選定する必要があります。
また、多くのナノ粒子は表面エネルギーが高く凝集しやすい性質があります。凝集が多いとナノ粒子の特異な性質が得られないため、作製したナノ粒子は凝集抑制、分散化検討が必要となります。
(1)ボトムアップ法
ボトムアップ法は、原料を溶解や気化することで原子や分子状態とし、それらを組み立て粒子を得る方法です。
【図3 ボトムアップ法】
【表1 ナノ粒子の作製方法例:ボトムアップ法編】
作製方法 | 概要 | |
乾式法 | ガス中蒸発法 | 不活性ガス中で金属を蒸発させ、ガストの衝突により冷却、凝縮させナノ粒子を生成する方法。 |
スパッタリング法 | スパッタ―現象を利用し、ナノ粒子を生成させる。高融点物質及び化合物等の生成に適している。 | |
化学気相成長法 (CVD) |
ガス状原料の気相での化学反応を利用して粒子を合成する。均一なナノ粒子を合成することが期待できる。 | |
湿式法 | 化学還元法など | 原料を溶解させた溶液を還元、熱分解することで粒子を生成させる。 |
(2)トップダウン法
トップダウン法は、大きいなバルク固体から出発し、それを微細化することで粒子を得る方法です。
【図4 トップダウン法】
【表2 ナノ粒子の作製方法例:トップダウン法編】
作製方法 | 概要 |
機械的粉砕法 | 大きな粒子に物理的な力を加えることで、粉砕しナノ粒子とする。 |
3.ナノ粒子の用途
ナノ粒子の主な用途と研究例をご紹介します。
(1)導電性材料
金属粒子をフィラーとした導電性ペーストは、電子回路の配線材料や導電性接着剤として使用されています。
金属粒子をナノ化することで、融点が低下し低温での焼結が可能となります。
文献1)では低温焼結銀ナノ粒子インクを開発し、室温~180 ℃での焼結を達成しています。
(2)透明導電膜
文献2)では、透明導電膜として知られている酸化インジウムにスズをドープしたITOナノ粒子インク(ITO:Indium-Tin-Oxide)を作製しています。
ITOナノ粒子インクを用いることで、基板へ配線パターンを調節描画し、乾燥後、焼結することで製膜することが可能となり、従来の方法に比べて簡便で低コストプロセスが期待されます。
(3)光学材料
文献3)では、光学樹脂へ金属酸化物ナノ粒子を分散させることで、樹脂を高屈折率化しています。
ナノ粒子を用いることで、透明性を維持したまま、屈折率の調整が可能となります。
4.ナノ粒子の危険性は?規制はある?
最後にナノ粒子の危険性について触れたいと思います。
ナノ粒子は先に述べたとおり、「小さ」く、「表面積が大きい」ために、人体や環境に対する有害性を心配する声も聞かれます。「小さい」ために、粒子の体内への吸収率が上がることや、「表面積が大きい」ことで、大きな粒子よりも生物学的活性が高いことも懸念されています。
では、ナノ粒子を取り扱う上で規制措置などがあるのでしょうか?
現在(2023年12月)日本においては、ナノマテリアルに関して法律による規制措置は行われていません。
ただし、経済産業省、環境省、厚生労働省により、安全性評価方法の検討も含めた議論が行われています4)。
また、海外ではナノマテリアルに関する規制措置が取られている場合もあるので注意が必要です。
経済産業省では、国外におけるナノマテリアルに関する規制情報を下記ホームページにて公開していますので参考にしてください。
(https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/other/nano.html)
また、日本産業衛生学会では化学物質の労働者に対する暴露濃度の許容濃度※を勧告しており、ナノ粒子としては「二酸化亜鉛ナノ粒子」、「二酸化チタンナノ粒子」が勧告されています5)。
職場において概粒子を扱う際には環境整備および適切な保護具が必要です。
※許容濃度:労働者が1日8時間、週40時間程度、肉体的に激しくない労働強度で有害物質に暴露される場合に当該有害物質の平均暴露濃度がこの数値以下であればほとんどすべての労働者に健康上の悪い影響が見られないと判断される濃度。
以上、今回はナノ粒子の基本について解説しました。
次回は、ナノ粒子の特性を引き出す上で重要となる粒子分散技術の基礎理論について解説します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 M・S)
《引用文献、参考文献》
- 1) 武居正史「室温~低温焼結型銀ナノ粒子の技術」,BANDO TECHNICAL REPORT,Vol. 19, pp. 2 – 6(2015)
- 2) 中許昌美「ITO透明導電膜形成用インクの開発とその特性」, 表面技術, Vol.60, No.10, 631-635(2009)
- 3) 大林達彦「熱可塑性ナノコンポジット光学材料の開発」,FUJIFILM RESEARCH & DEVELOPMENT, No.58, 48-51(2013)
- 4) 杉浦琴 他「ナノマテリアルをめぐる規制の動向」, 月間化学物質管理, Vol.8, No.5, pp15-28 , 2023.Dec
- 5) 産業衛生学雑誌, Vol.66, No.5, pp.207 – 239 (2024)