3分でわかる技術の超キホン 磁性粉末の基礎知識 [磁気特性/製造方法/用途など]

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磁性粉末の解説

磁性材料は、外部磁場の印加によって強く磁化され、外部磁場を除いても自発磁化が残る強磁性の性質を示します。
粉粒体は、粉、粒などの集まったものですが、粉粒体の粒径が1㎜以上を「粒子」、1㎜以下を「粉末」と呼ぶようです。
今回は、強磁性の性質を持つ磁性粉末をご紹介します。

1.磁性粉末の特徴

(1)磁性粉末の大きさ

今回紹介する磁性粉末の粒径は1㎜以下、マイクロサイズ(1/1,000㎜)から、ナノサイズ(1 /1,000,000㎜)です。
 

(2)磁性粉末の原料

原料には、フェライト系(鉄の酸化物)と金属系(鉄、ニッケル、コバルト等が主成分)があります。

フェライト系では、スピネル型フェライト系(組成式:AFe2O4、AはMn、Co、Ni、Cu、Zn等)などがあり、その代表はマグネタイト(Fe3O4)です。

金属系では、窒化鉄希土類金属などがあります。
 

(3)磁性粉末の磁気特性

(a)単磁区粒子

バルク状態の強磁性体は、磁壁により磁区に分割された「多磁区構造」になっていますが、磁性粉末はその粒径が磁壁幅より小さくなると、磁気異方性エネルギーが最小になる方向を向いた単磁区構造になります。
鉄の場合、磁壁幅は約80nmです。
多磁区構造の粉末では磁場を印加すると磁壁が移動して減磁されますが、単磁区構造の粉末では減磁が逆磁区の発生、または磁化ベクトルの回転により起こるので、保磁力が大きくなります。
 

(b)超常磁性

バルク状態の強磁性体は、温度上昇とともにその強磁性が揺らいでいき、キュリー温度(Tc)でほぼ磁化が消失し、さらに高温になると常磁性になります。

強磁性体の磁性粉末は、その粒径を上記(a)よりさらに小さくすると、体積に比例する磁気異方性エネルギーが熱ゆらぎに比べて小さくになり、磁化が自由に回転するようになります。

その結果、個々の磁性粉末の磁気モーメントが、あたかも常磁性体の原子のモーメントと同様に振る舞うようになり、磁化曲線にヒステリシスが現れずに常磁性的な挙動を示します。
この状態を「超常磁性」と呼び、磁場をかけると粒子の磁化が磁場方向に揃いますが、零磁場では熱ゆらぎにより磁化が粒子内で固定されずランダムに回転するために、集団平均の磁化がゼロになります。

マグネタイトの場合、超常磁性が発現する粒径は約10nmです。
超常磁性の挙動は常磁性に似ていますが、通常の常磁性体の場合、磁気モーメントの単位は原子あるいはイオンであるのに対し、超常磁性の場合、粒子のもつ自発磁化であるので、超常磁性の磁化は常磁性体に比べて大きくなります。
 

磁性粉末は、磁石として使用される場合は上記(a)に示す単磁区構造による大きな保持力を活用し、磁性流体として使用される場合は上記(b)に示す超常磁性の状態を活用しています。
 

2.磁性粉末の製造方法

(1)溶融プロセス、機械プロセス、化学的プロセス

製造方法には、溶融プロセス機械プロセス化学的プロセスがあります。
 

① アトマイズ法

「アトマイズ法」は、溶融プロセスに分類され、溶けた金属(溶湯)から磁性粉末を作る製造法です。金属または合金の溶湯を、るつぼ底部の小孔から流出させて細流とし、これに高速の空気、窒素、アルゴン、水などを吹き付けると、溶湯は飛散、急冷凝固して磁性粉末となります。
アトマイズ法の適用例として、Fe-Si-Al系Fe-Si系の金属磁性粉末があります。
 

② 粉砕法

「粉砕法」は、機械プロセスに分類され、圧縮、剪断などの力により原料を破壊させることによって微細化します。湿式法乾式法があり、装置としてはボールミルサンドミルビーズミルがあります。
粉砕法は、磁性粉末の初期生産段階から最終生産段階の様々な工程で採用される微細化には無くてはならない製造法です。
 

③ 還元拡散法

還元拡散法は、化学的プロセスに分類され、希土類元素酸化物粉末とFe等の遷移金属粉末に、金属カルシウム等のアルカリ土類金属の還元剤を混合して加熱し、希土類元素酸化物を還元して拡散反応によって合金化する希土類系合金の磁性粉末の製造法です。
還元拡散法の適用例として、Sm-Fe-N系合金の磁性粉末があります。
 

(2)共沈法、水熱合成法

磁性流体の製造方法には、上記②粉砕法の他に、共沈法、水熱合成法があります。
 

④ 共沈法

「共沈法」は、ガスや溶液状態での化学反応により、原子もしくは分子からの核生成と成長により磁性粉末を得る製造法です。「生長法」とも呼ばれます。
目的とする金属イオンを含む溶液にアルカリを添加し、溶液中のイオン濃度積が溶解度積よりも高くなる過飽和の状態にして、難溶性塩を析出して沈殿させます。得られた沈殿物は金属塩が均一に混合した状態であるため、固体試料を粉砕して混合するだけでは得られない特性を示す場合があります。
共沈法の適用例として、3価の鉄イオンと2価の鉄イオンを混合した水溶液にアルカリを添加し、加熱熟成して生成するマグネタイトのナノサイズ(粒子径10nm程度)の磁性粉末があります。
 

⑤ 水熱合成法

「水熱合成法」は、高温高圧の熱水の存在下で行われる化合物を合成、または結晶成長させる製造法です。
圧力鍋と同じような手法で、耐圧リアクター容器を密閉したまま加熱することで、常温常圧では溶媒に溶けにくい物質も容易に溶解し、生成物を得ることができます。
水熱合成法の適用例として、鉄イオン溶液と表面修飾剤を合成することにより、超常磁性を有しつつ高い磁気応答性を持つ高機能性クラスタ磁性粉末があります。

 

3.磁性粉末の用途(使用例)

今回のコラムでは、磁性粉末を圧粉体(粉末を圧縮して所定の形状としたもの)としてではなく、粉末状態で使用する、磁区観察、複写機トナー、磁性流体、および磁性ビーズ(*1)の使用例についてご紹介します。

(*1):生物医学用途の表面などを改質した磁性粉末
 

(1)磁区観察(ビッター法、粉末図形法〉

大きさ数10nmのマグヘマタイト(γ-Fe2O3)、マグネタイト等の磁性粉末を含むコロイド溶液を強磁性体試料の表面にのせて、強磁性体試料の磁壁または磁区に吸引、凝集した磁性粉末が作る模様を、光学顕微鏡、電子顕微鏡により観察します。
磁性粉末のサイズによって空間分解能が決まりますが、磁性粒子を小さくし過ぎると、超常磁性になり凝集され難くなる課題があります。
 

(2)複写機トナー

トナー本体に磁性粉末のキャリアを混合した2成分トナーが製品化されています。
2成分トナー方式の複写機には、マグネトロールというロール状の磁石が使われます。
磁性粉末のキャリアは、トナーを携えながらマグネトロールに磁気的に吸着した後、マグネトロールから感光ドラムに移動します。
トナーは感光ドラムに静電力により移動しますので、トナーの帯電を保持するために、磁性トナーのキャリアには、磁石に吸いつく性質をもちながら電気抵抗が高い、粒径10μm程度のフェライト系の磁性粉末が使用されます。
 

(3)磁性流体

磁性流体は、磁性粉末表面に界面活性剤の分子層を形成し、溶媒中に均一に分散させたコロイド溶液で、いわば液状の磁性体です。
ほとんどの磁性流体には、粒径15nm以下のマグネタイトが使用されます。
磁性流体は、磁石を近づけると磁化が生じて磁石に引き寄せられますが、磁石を遠ざけると磁化が消滅して元の液体に戻ります。
 

(a)磁性流体の使用例:回転軸シール

回転運動用のシールユニットに磁性流体が利用されています。
回転軸とそれを囲む磁極片との間に小空間を設け、磁性流体を充填します。回転軸と磁極片との隙間に磁束線に沿って磁性流体が保持されますので、圧力差があっても磁性流体は漏れ出ることがなく、液体シールが形成される仕組みです。
回転軸シールは、ハードディスクドライブ(HDD)等の軸受に使用されています。
 

(b)磁性流体の使用例:スピーカ

スピーカは、ボイスコイルに流れる電流によって発生される変動磁場と、磁石と磁極片によって形成されている磁場との相互作用によってボイスコイルが振動し、発音します。
ボイスコイルの磁場空間に磁性流体を充填すると、ダンピング効果とセンタリング効果をもたらしスピーカの周波数特性を向上、発熱を抑制する効果が発揮されます。
 

(4)磁性ビーズ

Fe系スピネルは生体適合性が高いので、磁性ビーズとして医療分野で使用されています。

応用例として、Fe系スピネルナノ粒子にカルボシキデキストラン(*2)を被覆した磁性ビーズのMRI造影剤があります。
MRI(Magnetic Resonance Imaging)は、H2O中のプロトンによる核磁気共鳴を利用する画像診断技術です。
ラジオ波によるプロトンの核スピンの緩和時間が、患部の状態によって異なることを検知して病巣を特定しますが、カルボシキデキストランを被覆したFe系スピネル磁性粉末からなる造影剤は、緩和時間を短縮する効果があり、画像コントラストを鮮明にすることができます。
MRI造影剤に使用される磁性粉末は、超常磁性でなければならないので、強磁性粒子の粒径サイズは超常磁性を示す寸法以下に限定されます。

(*2):デキストラン(グルコースのみからなる多糖類)のOH基をCOOH基で置換した高分子
 

4.磁性粉末の技術動向は要注目

磁性粉末は、主に圧粉体(粉末を圧縮して所定の形状としたもの)の材料として使用されるマイクロサイズ領域では、最終製品の磁気特性および生産性の向上の観点で、また主に粉末状態で使用されるナノサイズ領域では、単磁区構造の粒子の磁気特性改善、超常磁性粒子および磁性ビーズの高機能性化などの観点で技術開発が進められており、今後も多くの分野での利用が期待されています。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 Y・O)
 

 

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