【機械設計マスターへの道】送風機/圧縮機の必須基礎知識・厳選解説
流体機械は、ポンプなどの「水力機械」と、送風機・圧縮機などの「空気機械」に大別されます。
空気機械である送風機や圧縮機の作動原理は、基本的には水力機械であるポンプと同一です。
ターボ形と容積形があって、ターボ形には遠心・斜流・軸流があり、容積形には往復式と回転式がある、という構造上の分類も同じです。
本コラムでは、水ポンプとは異なる空気機械特有の事項を中心に解説します。
目次
1.圧力による呼び名の区分
送風機・圧縮機は、作り出す圧力により次のように呼び名が分類されます。
- ファン(Fan) : 圧力上昇 10kPa以下(圧縮比1.1以下)
- ブロア(Blower) : 圧力上昇 10kPa~100kPa(圧縮比1.1~2.0)
- 圧縮機(Compressor) : 圧力上昇 100kPa以上(圧縮比2以上)
ファンとブロアを総じて「送風機」といいます。
2.ターボ形送風機の羽根車翼形状
ターボ型ポンプの羽根は、すべて回転方向に対して後向きに湾曲していますが、送風機の羽根車には、これ以外の形状の羽根をもつものもあります。
(1)多翼ファン
回転方向に対して前向きに湾曲した短い羽根を数十枚備えたもので、「シロッコファン」とも呼ばれています。「シロッコ」とは、砂漠に吹く熱風のことです。
多翼ファンは効率は低いものの、同一寸法、同一回転速度の条件下において、他の形式の羽根に比較して大きな通風能力を発揮することができます。
ビルの換気・空調用に広く利用されています。一般家庭の台所の換気扇にも使用されます。
ケーシングは渦巻き形で、遠心ファンに分類されます。
(2)ラジアルファン
半径方向に放射状の羽根を備えたもので、「パドルファン」と呼ぶこともあります。
遠心力に対して十分な強度を持たせることが可能で、ボイラ誘引、セメント空気輸送など、摩耗が避けられない環境や高温気体を扱う用途に適用されます。
ケーシングは一般に、斜流または軸流になります。
3.圧縮機の仕事と効率
ポンプの場合は、有効出力である水動力は密度、流量、全揚程から一義的に決定されます。また漏れ損失と機械損失を除いた水力効率は1種類です。
圧縮機の場合は、圧縮過程によって3種類の仕事と効率を考慮する必要があります。
(1)断熱圧縮
外部との間に熱の授受が行われず、気体の流れに摩擦が働かない、すなわち等エントロピ圧縮(可逆断熱圧縮)の理想的な状態です。
気体の比熱比(断熱指数)をκとすれば気体の状態は、pvκ=const.の法則に従って変化します。
気体定数をR、圧縮機の吸込み温度をT1、圧縮機の吸込み、吐出しにおける圧力をそれぞれ 1,p2
とすれば、断熱圧縮における圧縮機の仕事 Lad は次の式で表されます。
Lad={κ/(κ-1)}RT1{(p2/p1)(κ-1)/κ-1} ・・・(1)
圧縮機の軸動力Lsから機械損失Lmを引いた値を、内部仕事Liといいます。
Li=Ls-Lm
内部仕事Liは、実際に気体に与えられた仕事量を表します。
このとき、ηad= Lad/Li を断熱効率、ηadt= (Lad/Ls)x100(%) を全断熱効率といいます。
(2)ポリトロープ圧縮
実際の機械では、気体と壁面の間に熱の出入りがあって、完全な断熱圧縮は行われません。
また、流れの抵抗によって生じた熱が気体に加えられるため、等エントロピ圧縮よりも気体の温度上昇が大きく、かつ比容積が大きくなって圧縮機の仕事量は増大します。
ポリトロープ指数nを導入すれば、(1)式のκをnと置き換えて、ポリトロープ圧縮における圧縮機の仕事 Lpolは、次式となります。
Lpol={n/(n-1)}RT1{(p2/p1)(n-1)/n-1} ・・・(2)
圧縮機の吐出し温度をT2とすれば、T ,p, nの間には次の関係があります。
T1/ T2 = ( p1/p2)(n-1)/n ・・・(3)
ηpol= Lpol/Li をポリトロープ効率 ηpolt= (Lpol/Ls)x100(%) を「全ポリトロープ効率」といいます。
ポリトロープ効率 ηpol とn、κの間には次の関係があります。
ηpol ={(κ-1)/κ}{n/(n-1)} ・・・(4)
(3)等温圧縮
同じ圧縮比でも気体の圧縮に伴う温度上昇が大きいほど、必要な仕事量が大きくなります。
圧縮時に気体を冷却して温度を一定に保つ等温圧縮を行うと、気体はボイルの法則 pv=const. に従って変化します。
圧縮機の吸込みにおける気体の体積を v1 とすれば、等温圧縮における圧縮機の仕事を Liso は、次式で表されます。
Liso= p1 v1 ln(p2/p1) ・・・(5)
ηiso= Liso/Li を等温効率、ηisot= (Liso/Ls)x100(%) を全等温効率といいます。
4.中間冷却
前述のように、気体の圧縮に伴う温度上昇が大きいほど、必要な仕事量が大きくなるので、要求圧力が高い場合は、圧縮機を多段とすることにより、一段当たりの圧縮比を小さくします。
さらに、図のように段の中間(圧力pz)で気体を冷却することでABDEの経路をたどって等温圧縮(A→F)に近づけ、BDECで囲まれる面積に相当する分、A→Cに比較して圧縮動力を低減することができます。
圧縮機のケーシング内に冷却器を組み込んで一段ごとに冷却を行う構造のものを「等温圧縮機」といいます。
また、圧縮機の段数をz、吸込み圧力をps、吐出し圧力をpdとしたとき、圧縮仕事を最小にするための各段の圧縮比 πz を次式で求めることができます。
πz= (pd/ ps)(1/z) ・・・(6)
たとえば、pd/ ps が8で、段数5のとき、各段の圧縮比は、8(1/5)=1.516 となります。
5.ターボ形送風機・圧縮機の特異現象
ポンプはQH特性に山(右上り領域)があると、吐出流量制御弁とポンプの間に自由表面を持った貯水槽が有る場合にのみ、山のピーク付近からやや左の小流量側に流量変化させたときに、サージング現象が発生します。
(※ポンプのサージング現象については、ポンプ運転上の注意事項・厳選解説もご参照ください。)
ところが、気体機械である送風機・圧縮機は、水の場合と異なり配管内がすべて気体で満たされているため、圧縮比対流量の特性が右上がりとなる領域で、負荷側の抵抗特性にかかわらずサージングが発生します。
サージングが起きると、大きな圧力変動、激しい振動、大きな騒音が発生して、長時間続いた場合には、送風機・圧縮機や配管あるいは接続する装置・機器が破損することもあるので、避ける必要があります。
このため、送風機・圧縮機の特性曲線にはサージングの発生限界を示すサージラインを明示し、運転上サージング領域に入ることが避けられない場合は、バイパスラインを設けて気体を一部吸込み側へ戻して、サージング回避に必要な運転流量を確保するようにします。
6.ターボ形送風機・圧縮機の風量制御
吐出し弁開度、回転速度制御、といったポンプ流量制御に用いる手段は送風機・圧縮機の風量制御にも適用することができます。
気体を扱う送風機・圧縮機は、液体を扱うポンプと異なりキャビテーションに対する心配がありませんので、吸込み側に絞りを設けて風量制御することも可能です。
(1)吸込み弁絞り
吸込み弁開度を絞ると、吸込み側の抵抗が増大するため、吐出し圧が下がり、運転風量を低下させることができます。吸込み圧力が低下することで気体の密度が減少するので、その分だけ運転動力を低減することができます。
(2)インレットベーンコントロール
羽根車吸込み部直前に、扇状に分割した放射状の可動案内羽根(「インレットベーン」あるいは「サクションベーン」といいます)を配置して、この羽根の角度を変えて風量制御する方法です。
ベーンの角度を変えることにより、羽根車に流入する流れに旋回成分(「予旋回」といいます)を与え、これにより羽根車の理論ヘッドが低下するので、風量を制御できるとともに、羽根車の仕事が減少する分、運転動力も低下します。
つまり、要求風量に見合った分だけの仕事を羽根車にさせる方式であり、弁により抵抗を付ける方式に比較してより合理的です。
(日本アイアール 特許調査部 S・Y)