3分でわかる技術の超キホン 電子部品「ヒートシンク」の放熱原理・材料・選び方
1.ヒートシンクとは?
ヒートシンクは、日本語で「放熱器」といわれています。
熱が発生する場所に用いられることが多いです。
半導体に付属する電子部品として扱われることも多いです。
今日、あらゆる分野で電機製品が活躍しており、それらには半導体が使われています。
半導体素子に電流が流れると、内部損失(熱)が発生します。
半導体素子内の接合部温度(ジャンクション温度)が許容値を超えると熱歪みが生じ、機能劣化や故障の原因となり、著しい場合は素子が破壊されてしまいます。
したがって、素子内に発生する熱を速やかに外部に逃がしてやる必要があり、そのためにヒートシンク(放熱器)が必要になります。
すなわち、電機製品を安定して長期間働かせるために、素子のヒートシンクと放熱技術が不可欠なのです。
例えば、パソコンの内部を見てみると、多くのギザギザがついた部品を見たことがあるかと思います。
これがヒートシンクなのです。
今回は、特に半導体の放熱をする電子部品としてのヒートシンクについてみていきましょう。
2.ヒートシンクの概要(放熱原理)
一般に熱は、熱伝導、熱伝達(対流)、熱放射(ふく射)という3つの方法で伝わります。
こうした放熱の様子を、プリント基板や空気などを含めた実際の使用環境に即して検討してみると、熱は熱源となる半導体チップから図1のような流れで、最終的な熱の放出先となる空気へと伝わっていきます。
【図1 ヒートシンクによる放熱の様子】
図1は、パワートランジスタをヒートシンクに取付けたときの熱の流れを示したものです。
発熱は、パワートランジスタの内部にある半導体チップで生じます。
熱は、熱伝導で外装に伝わり、外装及びヒートシンクから周囲の空気に逃げます。(熱伝達、熱放射)
半導体から出た熱をヒートシンクに伝熱し、さらにヒートシンクの熱を空気に放熱するには表面積が多い方が有利になります。
よって、大きなサイズのものが放熱性能が高いということになります。
また同じサイズの中でも、くし形のフィンや剣山のような形状を作り、出来るだけ表面積を多くすることにより平らな金属板よりも効果が高くなります。
【参考:伝熱の3形態】
- 熱伝導:分子間の振動、もしくは自由電子による熱移動現象
- 熱伝達(対流):固体面から流体に熱伝導で伝わり、熱を受けた流体が移動することで熱も移動する現象
- 熱放射(ふく射):物体から熱エネルギーが電磁波という形で放射されることによる伝熱現象
3.ヒートシンクの材料
ヒートシンクの材料としては、熱伝導性が良く、入手もしやすいことから、銅とアルミニウムが主に使用されます。
銅は特に熱の伝わりが良く、放熱性が非常に高いという特徴がありますが、アルミニウムの方が安価で、重量が軽いため、アルミニウム製のヒートシンクが多いです。
しかし、最近では大電流や高発熱対応で銅を指定するケースが増えているようです。
アルミニウムの中にも材質の種類があり、A1100、A5052、A6063、などがあります。
そのなかでもヒートシンクに使用されることが多いのが、A6063になります。
A6063は、マグネシウム(Mg)とシリコン(Si)が成分に添付されたアルミ合金です。
製造するときにアルミビレット(押出用鋳塊)を加熱後、圧力をかけて押し出して製造され、複雑な断面形状を作ることができます。
また、他のアルミニウムより熱伝導率が低いのですが、鋳造の一つであるアルミダイカストも量産性、価格、加工性の良さから選択の一つです。最近では熱伝導率の高いダイカスト材料も出てきています。
4.ヒートシンクの選び方
通常ヒートシンクの放熱の問題を考えるときには、「熱抵抗」という概念を使います。
これは、単位が「℃/W」で表され、ある物体に1ワットの熱を加えたら何度上昇するかで表します。
まず、熱の流れについて考えてみると、トランジスタなどの接合部で発生した熱は、ケースを通ってヒートシンクに伝導し、主に対流によって外気へ放出されます。
この時の半導体接合部の損失をP(W)、接合部と外気との温度差を⊿T(℃)、熱移動経路の熱抵抗をRa(℃/W)とすると、次の関係があります。
P=⊿T/Ra(W)
これは、オームの法則I=E/Rと同じ形をしていて、覚えやすい関係です。
熱抵抗Raは、接合部からケースまでの内部熱抵抗Rj、ケースとヒートシンク間の熱抵抗Rc、ヒートシンクと大気間の熱抵抗Rf に分けられ、直列につながっています。
Ra=Rj+Rc+Rf(℃/W)
という関係になります。
これらの関係を示したのが図2になります。
【図2 ヒートシンクの熱抵抗】
図2において、Tは、それぞれの温度なので、⊿T=Tj―Ta、Ra=Rj+Rc+Rf から、
P(半導体発熱量)=⊿T/Ra(W)という関係が成り立ちます。
ヒートシンクを選ぶ場合には、上記式のRfを求めることになります。
すなわち、P=(Tj―Ta)/(Rj+Rc+Rf)から、
Rf=(Tj―Ta)/P―Rj―Rc となります。
半導体接合部(ジャンクション)温度Tj、消費電力(半導体発熱量)P、ジャンクション温度と半導体ケース間の熱抵抗Rjは、半導体の仕様書に記載されています。
例えば、それぞれ、Tj=150、Rj=1.25、P=8 のものを使用し、半導体ケースとヒートシンク間の熱抵抗は、熱伝導性絶縁シートの仕様書からRc=1.5のものを使用するとします。
半導体使用時の周囲温度を50℃とすると、
Rf=(150-50)/8-1.25-1.5
=9.75 となり、熱抵抗が9/75(℃/W)以下のヒートシンクを選ぶことになります。
実際には、ヒートシンクメーカーのカタログに熱抵抗、形状などが記載されているので、安全性、信頼性等を考慮し、最適なものを選ぶとよいでしょう。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 E・N)