食用油を酸化させない3大ポイントを知ろう!(食用あぶら考②)
目次
安全安心な食用油は酸素との戦いから!
前回のコラム(食用あぶら考①「油の劣化ってどんなこと?毒にもなる油の話」)では、おそらく油の劣化からドーナツによる悲劇が起こったことをお伝えしました。
結局は、それは油が酸化する際に作り出した様々な有害物質によってもたらさられたもののようでした。
でも、ちょっと時間がたったからって、ドーナツが食べられなくなるのはもったいない。
21世紀になって人類を支える様々な資源が大量生産大量消費によって枯渇しかかっている現在、安易に食品ロスに甘んじるのは賢い人間のすることではありません。
このにっくき酸化と戦うために、まずは酸素がどのくらいの時間で食べ物を食べられなくしてしまうのかを見てみましょう。
酸素はどのくらいの時間で食べ物を危険に酸化する?
プラスチックフィルム包装の中に、油掛けをしたあられを入れ、包装内の空気に別の気体を混ぜることで、酸素の濃度を調整しました(※1)。
そして、通常の空気と同じ酸素濃度(酸素濃度21%)の空気と、より酸素濃度の低い空気を含むものを長期間保存して、どのくらい酸化の度合いに差が出たかを比較してみました。
あられの過酸化物価(POV)の数値を計測し、厚生労働省の定める食用油に関する衛生規範で、油で処理した菓子で超えてはならないとされるPOV50を何日で超えるか、酸素濃度別で比較してみました。
37℃の状態では、通常の空気で約120日で基準を超えました。
しかし、包装内酸素濃度が2.3%のものは、180日経過してもPOV50を超えませんでした。
文字通り、包装品の食品は、酸素濃度が低いほど酸化されにくく、保存性が高くなったのです。
そう、油を劣化させないためには酸化を防ぐ必要があり、酸化を防ぐためにはそもそも油を酸素に触れさせなければよいのです。
それでは、食用油の賢い酸化防止法をまとめて学んでおきましょう!
酸化を防ぐ3大方法とは?
では、どうやって食品から酸素をシャットアウトすればよいのでしょうか?
その基本方針は3つに絞ることができます。
【参加を防ぐ3大方法】
- 置き換える
- 吸収する
- 抜き取る
それでは、それぞれの方法について具体的な方法を見ていきましょう。
その1:置き換える:窒素ガス充填
濃度別の酸素の酸化実験でもみたように、包装内の酸素濃度を低くすることは対策の基本です。
化学の授業で習うように、包装内の酸素の割合を低くすればよいのですから、先に挙げた実験のように、別の気体を吹き込んで酸素の割合を減らせばよいのです。
例えば酸素の代わりに窒素を入れてしまえば、そもそも酸素と接触することはありませんよね。
スナック菓子の袋には、スナックの油を酸化させないために窒素が封入されていることが多々あります。
ポテトチップスなどかさばって壊れやすいものなら、袋の中の気体がクッションの役割を果たして、輸送中に割れにくくなることも期待できるかもしれません。
その2:吸収する:脱酸素剤
食品パッケージを開けたら、そこに入っていた小さな袋が熱くなったのでびっくりした・・・なんて方もいらっしゃるのではないでしょうか。
小さな袋とは脱酸素剤のことで、熱くなったのはパッケージを開けたことで入ってきた酸素が脱酸素剤中の鉄粉を酸化して熱を出したからです。
鉄粉が酸化されやすい性質について、酸化で熱を出す現象を活用したのが、皆さんが日常的に使っている使い捨てカイロです。
一方、発熱よりも酸素と反応し吸収してしまう現象を利用したのが脱酸素剤なんですね。
脱酸素剤は、酸化反応などによって酸素を吸収する物質を、酸素を通す袋に封入すれば作ることができます。
鉄粉のような無機材料のほかに、二重結合を多く含むアスコルビン酸や各種フェノール類を含む有機材料を使うこともあるようです。
密封パッケージの中にこれら脱酸素剤を入れておけば、食品よりも強く酸化反応をします。
脱酸素剤がパッケージ中の酸素を吸収しつくした結果、食品が酸素から守られるのですね。
その3:抜き取る:消泡剤、バブリング、脱気
これまで見てきた2つの方法で、食品に触れる空気中の酸素はやっつけた!と安心される方も多いのではないでしょうか。
しかし、最後の敵は内部にあり。
実は油は酸素が溶け込みやすい物質で、食品に使われた油そのものが含む酸素が酸化を招くこともあるのです。
油に酸素が溶け込まないようにするためには、そもそも油が気体を取り込まないようにするために、微量な消泡剤を使うことも有効です。
この消泡剤は、シリコーン(ジメチルシロキサン)などが使われていますが、もちろん安全性が確認されている使用量には上限がありますので、しっかり厚生労働省の「食品・添加物等の規格基準」に適合するように使ってください。
ほかにも、窒素などの不活性ガスを油に吹き込んでしまう方法(バブリング)や、油の入った容器を減圧することで油中から気体を抜くこと(脱気)も挙げられます。
(※本稿は中谷技術士事務所の中谷明浩講師からのご寄稿を、日本アイアールが再構成したものです)
【参考文献】
※1 太田静行 著「油脂食品の劣化とその防止」(幸書房)