油の劣化ってどんなこと?毒にもなる油の話(食用あぶら考①)

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古いドーナツが起こした悲劇・・・その犯人は?

「そういえば5日前にドーナツを買ってきたんだった!」・・・小腹が空いたときにいいものがあったと常温の菓子棚から取り出してみました。季節は梅雨時。

見た目に、カビも生えていないし、色も変わっていない。でも消費期限はとっくに切れている。買った当時よりは油がてらてらして、かかっている粉砂糖がよりしっとりしたような気はするけれど、それ以外は気になるところはないし、まあいっか、と1つ食べたら・・・

 

ドーナツで食あたりになった知人の話ですが、それはそれはひどい目にあったとか。

でも、カビも生えていないし、生地の食感は普通だったし、粉砂糖も普通の甘味だったし、いったい何が問題だったのでしょうか?

 

そう、今回の食中毒の原因はもしかすると、ドーナツにしみこんでいた油の劣化だったのかもしれません!

 

古い油で食あたり!油が毒に変わっていく

食用油脂は、グリセリンに結合した脂肪酸の長い分子の鎖にたくさんの水素原子がくっついた構造をしています。

図は油脂の分子を構成する材料である脂肪酸のひとつ、オレイン酸のものですが、例えばこの長い鎖が長時間光や熱、酸素にさらされると、どんどん酸化が進み、中央の二重結合が切れて過酸化脂質を作ることがあります。

さらにこの過酸化脂質までもどんどん酸化により分解が進むと、その二次生成物としてアルデヒドなどのカルボニル化合物の割合が増えていきます。

アルコールが体内で分解されてアルデヒドになり悪酔いすることが知られているように、過酸化脂質やアルデヒドなどのカルボニル化合物には、毒性をもつものがあります。

油だって腐ると、風味が悪くなるだけでなく、体に悪いというのは、こういう理由です。

 

油からできる代表的な有毒物質

では、劣化した油からできる毒にはどんなものがあるのでしょうか。

過酸化脂質

過酸化物自体は分子量が大きく、腸で吸収されにくいため、腸の内部を傷つけることがあります。これが腹痛や下痢の原因となるといわれています。
また、マウスの経口投与試験では、過酸化物が体内の酵素を不活性化するため、血球の破壊、肝臓、腎臓、肺の肥大化、各組織の細胞変性、壊死等の恐ろしい症状をもたらしたということです。(※1)

アルデヒド

通常、油の劣化で生じる過酸化脂質には、より低分子のアルデヒドが含まれているでしょう。低分子のアルデヒドは腸壁からの吸収もされやすいため、劣化食用油脂(変敗油)の毒性は、これらアルデヒド(ヒドロペルオキシアルケナール)類が主因と考えられています。(※2)

とくにアクロレイン(2-プロペナール)は、医薬用外劇物に指定され、肺や目にダメージを与えるといわれています。

フライ調理を長時間行う人が気分が悪くなることがある「油酔い」の原因物質と考えられています。場合によっては、たばこの煙中(※3)と同程度のアクロレインが天ぷら揚げ作業中に発生したガスから検出されることもある(※4)ため、注意が必要です。

 

 

劣化食用油脂で起きた食中毒の例

では、冒頭の身近な例はともかくも、社会的に有名な油による食中毒にはどんなものがあるのでしょうか。

最大の例は、1964年に起きたインスタントラーメンによる食中毒事件です。
最近の朝ドラ「まんぷく」でも黎明期のインスタントラーメンによる食中毒事件がとりあげられていましたが、実際に起きた事件では、直射日光が当たる場所に長期間置くなどの小売店の管理方法の問題で、インスタントラーメンのパッケージ中の揚げ油が酸化し、食中毒の原因になってしまったということです。
(この一件がきっかけになって、ラーメンのパッケージに製造年月日を記入するようになったようですが・・・)

 

このインスタントラーメンでは、

  • 遊離脂肪酸の量を示す「酸価」が7.0~28.8
  • 過酸化脂質の量を示す「過酸化物価」が400~600meq/kg

と非常に劣化が進んでいた(※5)ということです。

 

2009年仙台市衛生研究所報でも、インスタントラーメンがかかわったとみられる吐き気、腹痛、下痢、発疹の報告がありました。
この例では、酸価、過酸化物価に問題は見られなかったため、原因は不明ですが、もしかしたら油由来の別の物質も多く含まれていたかもしれません。
例えば、アルデヒドの量を示す「カルボニル価」についても調べてみると、より真因に近づけたかもしれませんね。
 

(※本稿は中谷技術士事務所中谷明浩講師からのご寄稿を、日本アイアールが再構成したものです)


【参考文献】

(※1)白台 鴻ら「自動酸化油投与マウスの病理組織学的研究 (急性毒性) 」 栄養と食糧 Vol. 29 No. 2 p85~94 (1976 )
(※2)伊藤誉志男ら「食品油脂の変敗に関する研究(第1報) 」 食品衛生学会誌 Vol.11, No.4, p268-274 (1970)
(※3)厚生労働省ホームページ「平成11-12年度たばこ煙の成分分析について(概要)」https://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/houkoku/seibun.html(ダウンロード日2019.3.17)
(※4)岸ら「加熱食用油からの気化物質とその吸入による家兎循環 ・呼吸器 系への影響」食衛誌. Vol.16, No.5, p318-323 (1975)
(※5)内閣府・食品安全委員会「平成17年度食品安全確保総合調査報告書」p66-69


※併せて読みたい関連コラム:食用油を酸化させない3大ポイントを知ろう!はこちら


 

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