【技術者のための法律講座】これだけは知っておきたい営業秘密(技術ノウハウ)の守り方


技術ノウハウの流出

製造業の技術者と営業秘密

今回は「技術者と営業秘密」というテーマです。
この連載は日頃は法律問題とは直接関わっていない技術者・研究者の方々向けに技術者の立場で知っておきたい法律の基本的事項をご紹介するものです。
従って、法律専門家や法務担当者が問題とする難しい法律問題にはできるだけ触れません。

この方針に沿って、営業秘密についても、技術者にこれだけは知っていただきたい事項のみをご紹介したいと思います。
 

「営業秘密」とは?

「営業秘密」とは、そもそも何を意味しているのでしょうか?
自分は技術者なので「営業」とは無関係と思われる方もいるかもしれません。
しかし、それは早とちりです。

では先ず、辞書的な説明を見てみましょう。

  • 「秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報で、公然と知られていないもののこと。」

    (ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「営業秘密」より)

  • 「企業秘密、トレードシークレットあるいはノウハウとも呼ばれ、不正競争防止法で保護される営業秘密としては、(1)秘密として管理され、(2)事業活動に有用で、(3)公然と知られていない情報、のことを指す。」

    ((株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」 「営業秘密」より)

  • 「設計図や顧客名簿、製造ノウハウに関するデータなどが該当する。」

    (2015-04-18 朝日新聞 朝刊 2社会 より)

法律専門家からは叱られそうですが、以上の説明で、営業秘密についてのエッセンスは凡そ語りつくされているように思います。

 

営業秘密を保護するためには?

それではもう少し踏み込んでみましょう。
営業秘密は、前述の説明にもある通り、日本では不正競争防止法で保護されています。
そして、主に経済産業省が担当しているようですので、同省の解説を先ず見てみましょう。

以下は、経済産業省の資料からの抜粋です。

不正競争防止法では、企業が持つ秘密情報が不正に持ち出されるなどの被害にあった場合に、民事上・刑事上の措置をとることができます。そのためには、その秘密情報が、不正競争防止法上の「営業秘密」として管理されていることが必要です。

経済産業省の資料※経済産業省のサイト掲載画像より
(出典URL: https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html )

ということで、不正競争防止法により営業秘密として保護を受けるためには、(1)秘密管理性、(2)有用性、(3)非公知性の3要件の全てを満たすことが必要であることが分かりました。

この要件(1)を秘密保持措置、(2)を価値性・実用性、(3)を秘密性と言い換えている資料(JETRO資料)もあります(中国の制度に関する資料ですが参考になります)。
※資料URL: https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/pdf/mohou_2012_3-4.pdf

経済産業省の資料では、(1)について「営業秘密保有企業の秘密管理意思が、秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要があります。」(従業員の予見可能性の確保)

また、同省の別の資料(「営業秘密管理指針」[最終改訂:平成31年1月23日])では、「秘密管理性」要件が満たされるために「営業秘密保有企業の秘密管理意思(特定の情報を秘密として管理しようとする意思)が、具体的状況に応じた経済合理的な秘密管理措置によって、従業員に明確に示され、結果として、従業員が当該秘密管理意思を容易に認識できる(換言すれば、認識可能性が確保される)必要がある。取引相手先に対する秘密管理意思の明示についても、基本的には、対従業員と同様に考えることができる。」と説明されています。キーワードは「秘密管理措置」です。

さらに「秘密管理措置は、対象情報(営業秘密)の一般情報(営業秘密ではない情報)からの合理的区分と当該対象情報について営業秘密であることを明らかにする措置とで構成される。」「合理的区分とは、(中略)営業秘密が、情報の性質、選択された媒体、機密性の高低、情報量等に応じて、一般情報と合理的に区分されることをいう。」と説明されています。ここでのキーワードは「合理的区分」です。
「合理的区分に加えて必要となる秘密管理措置としては、主として、媒体の選択や当該媒体への表示、当該媒体に接触する者の限定、ないし、営業秘密たる情報の種類・類型のリスト化、秘密保持契約(あるいは誓約書)などにおいて守秘義務を明らかにする等が想定される。」と説明されています。

 

秘密管理性を満たすための具体的方策について

営業秘密に関する訴訟で争点となるものは、ほとんどが秘密管理性です。
具体的に、秘密管理性を満たすための具体的方策について検討してみましょう。

以下、「営業秘密管理指針」からの抜粋です。

紙媒体の場合

紙媒体については、

  • ファイルの利用等により一般情報からの合理的な区分を行ったうえで、基本的には、当該文書に「マル秘」など秘密であることを表示する
  • 施錠可能なキャビネットや金庫等に保管する
  • 紙媒体のコピーやスキャン・撮影の禁止、コピー部数の管理(余部のシュレッダーによる廃棄)、配布コピーの回収、キャビネットの施錠、自宅持ち帰りの禁止といった追加的な措置によって、秘密管理意思の明示がより確固としたものになる

と説明されています。

電子媒体の場合

電子媒体については、

  • 記録媒体へのマル秘表示の貼付
  • 電子ファイル名・フォルダ名へのマル秘の付記
  • 電子ファイルの電子データ上にマル秘を付記(ドキュメントファイルのヘッダーにマル秘を付記等)
  • 電子ファイルそのもの又は当該電子ファイルを含むフォルダの閲覧に要するパスワードの設定
  • 記録媒体を保管するケース(CDケース等)や箱(部品等の収納ダンボール箱)に、マル秘表示の貼付
  • 階層制限に基づくアクセス制御
  • 追加的に、人事異動・退職毎のパスワード変更、メーラーの設定変更による私用メールへの転送制限、物理的にUSBやスマートフォンを接続できないようにする

など方法が例示されています。

その他

製造機械や金型、高機能微生物、新製品の試作品など、物件に営業秘密情報が化体しており、物理的にマル秘表示の貼付や金庫等への保管に適さないものについては、

  • 扉に「関係者以外立入禁止」の張り紙を貼る
  • 工場内への部外者の立ち入りを制限する
  • 写真撮影禁止の貼り紙をする
  • 営業秘密に該当する物件を営業秘密リストとして列挙し、当該リストを営業秘密物件に接触しうる従業員内で閲覧・共有化する

など方法も例示されています。

さらに、技能・設計に関するものなど従業員が体得した無形のノウハウや、従業員が職務として記憶した顧客情報等については、

  • 「営業秘密のカテゴリーをリストにすること」
  • 「営業秘密を具体的に文書等に記載すること」

も推奨されています。

一方で「例えば、未出願の発明や特定の反応温度、反応時間、微量成分、複数の物質の混合比率が営業秘密になっている場合(化学産業などで多く見られる)などで、その情報量、情報の性質、当該営業秘密を知りうる従業員の多寡等を勘案して、その営業秘密の範囲が従業員にとって明らかな場合には、必ずしも内容そのものが可視化されていなくとも、当該情報の範囲・カテゴリーを口頭ないし書面で伝達することによって、従業員の認識可能性を確保することができるものと考えられる。」と説明されています。

(1)について、上記JETRO資料の説明も見てみましょう。

秘密保持措置の認定基準

①目的性:権利者が情報漏洩を防止するために講じた保護措置
②措置の適当性:その商業価値等の具体的情況に見合った合理的な保護措置

秘密保持措置を講じたと見なされる(例)

  1. 関連秘密情報の知られる範囲を限定し、必要がある従業員に対してのみ公開している
  2. 関連秘密情報の保管媒体に鍵をかけるなどの防備措置を施している
  3. 関連秘密情報の保管媒体上に秘密表示をしている
  4. 関連秘密情報にパスワード又はコードを設けるなどの措置を施している
  5. 関連秘密情報にアクセスできる者と秘密保持契約を締結する
  6. 関連秘密情報にかかわる機器、工場、作業場等の場所への訪問者を制限するまたは訪問者に対し秘密保持を要求する
  7. 情報の秘密性を守るためのそのほかの合理的措置を確保する

なお、企業の管理体制としては「就業規則」や「営業秘密管理規程」等により、企業の秘密管理意思が明確に従業員に示され、従業員がそれを容易に認識できている状態が必要です。
以上、多少細かく説明しましたが、要は「情報に接することができる従業員等にとって、秘密だと分かる程度の措置」が求めれらます。

 

非公知性について

非公知性について、先ず「営業秘密管理指針」を見てみましょう。
同資料には「具体的には、当該情報が合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物に記載されていない、公開情報や一般に入手可能な商品等から容易に推測・分析されない等、保有者の管理下以外では一般的に入手できない状態である。」と説明されています。

この説明では分かりづらいと思いますので、同資料に挙げられた具体例(裁判例)を見てみましょう。

「非公知性」に関する参考裁判例

肯定例

・仮に原告製品のリバースエンジニアリングによって原告の営業秘密である技術情報に近い情報を得ようとすれば、「専門家により、多額の費用をかけ、長時間にわたって分析することが必要である」と推認されることを理由に、非公知性を肯定。
(大阪地判平成15年2月27日 平成13年(ワ)10308号)

否定例

・一般的に利用可能な技術手段であって、その費用も過大ではない成分分析を用いて、市場で流通している原告製品に用いられている合金の種類や配合比率を調べることが容易であることを理由に、非公知性を否定。
(大阪地判平成28年7月21日 平成26年(ワ)第11151号、平成25年(ワ)第13167号)

また、(3)の「非公知性」に該当しない(つまり、公知である)例について、JETRO資料には以下の説明があります。

非公知性に該当しない場合

  1. 当該情報はその属する技術分野の者又は経済分野の者において一般常識であるか、あるいは業務上の慣例である
  2. 当該情報は製品のサイズ、構造、材料、部品の簡単な組合せ等の内容だけに係わり、市場において、関係公衆が製品の観察を通じて、直接に取得することができる
  3. 当該情報はすでに公開出版物又はそのほかのメディアに公開されている
  4. 当該情報はすでに公開の報告会、展示等で公開されている
  5. 当該情報は他のルートで取得できる
  6. 当該情報はある程度の代価を支払えば容易に取得できる

 

有用性について

有用性のある情報とは、「財やサービスの生産、販売、研究開発に役立つなど事業活動にとって有用な情報」を指します。
また潜在的な価値が見込まれる情報も含まれ、いわゆるネガティブデータ(ある方法に関する失敗の知識・情報)にも有用性が認められます
 

人的管理について

営業秘密を保護するための、組織としての人的管理について簡単にまとめておきます。

在職者に対して

  • 就業規則や各種規程に秘密保持義務を定めておく(さらに、運用に関する全社的な統括規程として、「秘密情報管理規程」を制定し、基本方針を策定しておくと良いでしょう)
  • 入社時や特定のプロジェクト参加時などに秘密保持誓約書を提出させる

退職者に対して

  • 退職時に対象となる営業秘密を明確にした秘密保持契約を締結する
  • 可能な場合、競業避止義務契約を締結する
  • 退職の申出があったら、速やかに社内情報へのアクセス権を制限。退職時にはすぐにID・アカウントを削除
  • 退職申出前後のメールやPCのログを集中的にチェック(視認性の確保)

 

他社から「営業秘密を盗まれた!」といわれないために

最後に、他社から「営業秘密を盗まれた」と謂れのない警告を受けたいための方策を簡単にまとめます。
経済産業省の「営業秘密の保護・活用について」という資料からの引用です。
 

ポイント1:他社の秘密情報は、できる限り受け取らない

 

ポイント2:独自技術を証明できるように開発の内容や日時等を記録しておく

  • 技術情報であれば、技術が生まれるまでの実験過程等を記録したラボノートの作成・保存
  • 日付確定のための公正証書(公証人が作成する公文書)等の利用
  • その他関連資料の保管(電子メール、検討文書、議事録等)

 
(日本アイアール株式会社 A・A)
 


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