不採用となった技術でも、特許化の検討を忘れるべからず(技術者べからず集)

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特許出願の検討を忘れずに

特許出願の対象は、製品に採用された技術に集中する?

製品開発の際には様々な新技術が検討されますが、実際に製品に適用される新技術はその一部です。
製品に採用される予定の新技術は、製品出荷前に最優先で特許出願されます。

デザインレビュー(DR)のチェック項目には「製品に適用される新技術は製品出荷前に特許出願する」と記載されることが一般的です。
知財担当者による技術者へのリエゾン活動も、製品に採用される予定の新技術に集中しがちです。
一方、製品に不採用になった様々な新規術の扱いはどうなっているでしょうか?

多くの場合、

  • 今回の製品には採用はされなかったが、次回の製品開発の参考になった
  • 担当した技術者は不採用になった悔しさは残るが、貴重な経験をした

などとして放置されていないでしょうか?
 

不採用になった新技術も、特許出願の検討を忘れずに!

実は、後になって見直してみると不採用だった新技術に「宝」となる技術が含まれていることがあります。
多くの時間と費用を掛けて創出した不採用技術を、安易に放置してしまってよいのでしょうか?

特に、技術的な観点からみて筋は良い新技術なのに、例えば下記のような理由で不採用となってしまった新技術は、特許出願を目指す必要があると思われます。

  • 開発期間が限られ、製品出荷に間に合わなかった
  • 他の構成・動作・仕様等との関係で、副作用がある可能性があった
  • その時点では、製品コストの目標値達成・量産体制構築の見込みが得られなかった

 
忘れずに特許出願新技術の検討・開発を担った技術者は、新技術の関する実データを取得して、将来性がある「筋が良い新技術」か否かの感触を得ることができます。
技術的な観点からみて「筋が良い新技術」の見極めは技術者に託されているのです。

検討中の製品には不採用になったものの、製品に対する課題の変化、製品の構成の推移、周囲の状況変化なども勘案し、次回以降の製品への適用を目指した特許出願を検討しましょう。

もちろん新製品に採用された新技術の特許出願、さらにその周辺技術の特許出願が目先においては最重要なのですが、一息入れた段階で不採用になった「筋が良い新技術」も忘れずに特許出願することをお勧めします。

 
以下で筆者が経験した事例を紹介します。
狭い隙間で浮上する磁気ヘッドが回転する円板に情報を記録・再生するHDD(ハードディスクドライブ)関連の例です。

事例1:製品出荷に間に合わずに不採用となった例

  • 背景: 新製品は記録密度の増加に伴い、磁気ヘッドと円板の隙間をより小さくする必要があるので、磁気ヘッドが円板に接触する確率が大きくなる傾向がある。
  • 課題: 磁気ヘッドと円板の隙間をより小さくしたときの両者の接触確率を低下させる。
  • 構成: 磁気ヘッド全体(スライダ)と円板の隙間を変えずに、磁気ヘッド一部分(記録素子部)と円板の隙間を変動させ、記録・再生するとき以外は磁気ヘッド全体(スライダ)と円板の隙間を大きくする。

この事例では、試作品は完成したものの、残念ながら量産に向けた準備が間に合いませんでした。
検討時の製品には不採用でしたが特許出願を行い、ヒータで記録素子部を変形させる構成で、それ以降の製品において適用されることになりました。
 

事例2:副作用が理由で不採用となった例

  • 背景: 摩耗低減、介在物付着低減のため円板表面には潤滑膜が形成される。また。HDDの起動停止方式は、磁気ヘッドが円板上に離陸・浮上・停止する「CSS方式」と、磁気ヘッドが円板外に移動・退避する「LUL方式」の2種類がある。
  • 課題: 磁気ヘッドと円板が接触した際の、両者の摩耗を低減する。
  • 構成: 磁気ヘッドの表面に潤滑膜を形成する。

このケースでは、検討時の製品は「CSS方式」だったため、磁気ヘッドと円板の吸着現象の可能性を払拭できませんでした。
検討時の製品には不採用でしたが特許出願を行い、CSS方式の吸着現象から解放された「LUL方式」の製品において適用されました。
 

事例3:製品コストが理由で不採用となった例

  • 背景: 磁気ヘッドの表面にはカーボン保護膜が形成されているが、円板との接触による酸化摩耗が発生する。また、HDDの性能検査でNGになった場合、磁気ヘッド・円板の交換が必要になりHDDを分解・再組立てすることがある。
  • 課題: 磁気ヘッド表面のカーボン保護膜の、摩耗を軽減する。
  • 構成: HDD内の気体中の酸素比率を低くする。

この例では、窒素ガスをHDD内に混入した試作により耐摩耗特性の向上を確認しましたが、シールしたHDDの分解・再組立て・再シールに伴うコスト課題が解決できませんでした。
こちらも検討時の製品には不採用でしたが、特許出願を行いました。その後、シール、分解・再組立ての技術が向上することとなり、空気以外のガス封入技術について、以降の製品で適用しました。

 

特許出願を見送る場合でも、やるべきことがある?

不採用となった技術について、特許出願を見送る判断をした場合には、その技術について競合他社が特許を取得してしまい、将来的に自社事業にとって支障になる可能性があることにも注意する必要があります。

このリスクへの対策として、例えば公開技法(自社の発明の権利化を望まずに、発明内容を公表するための刊行物)等への掲載を通じて、公知技術化するという措置があります。

また、「ノウハウ」(営業秘密)という形で技術を秘匿化する一方で、他社からの権利行使リスクに備えるために、公証制度(確定日付の取得)やタイムスタンプなどを活用して「先使用権」を主張できるように準備しておくという対応も考えられます。
 

このように、最終的に特許出願するか否かに関わらず、不採用となった技術についての取り扱いには慎重な検討が必要です。
不採用技術を安易に放置したことで後悔することがないよう、十分に気を付けましょう。

 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 Y・O)

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